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第一章

第3話

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 朝食を食べて軽くシャワーを浴びた俺は、春香に髪を乾かしてもらい。春香に髪をセットしてもらい。春香に着ていく服を選んでもらってしまった。
 自分でやるべきことを全て春香にやってもらったのだ。
 しかし、春香が嬉しそうにやるものだから、抵抗する気持ちも起きなかった。

 二人で、玄関を出る。
 ふと、いつものお出かけなら春香がここで言うことを思い出した。

「真一…。」
「春香、手を繋ごうか。」

 春香が言う前にと思って、急いで言ってしまった。
 春香へと手を差し出す。自分の顔が熱くなっている感じがする。多分だが、顔は赤いと思う。

「うん。」

 春香もまた、少し照れたように頷いて手を握ってくれた。
 一だって、こうやって俺の手を握ってくれる春香は俺の宝物なのだ。

「あのさ、春香。
 今日はいろいろ準備手伝わせてごめんね。」

「んーん。
 楽しかった。だって、ほかの人はできないでしょ?
 真一の髪を触るのも、セットしてあげるのも、服を選ぶのも。
 それに、私好みの感じに仕上げられたから、大満足。」

「そっか。ならよかった。」

 楽しめたならよかった。
 それに、私好みって言ったということは、今の姿は春香的に好みの範疇ということだ。
 同じ感じでできるように練習しようと思った。

「今日行く水族館ってさ、うちと春香のとこと家族みんなで行ったところでしょ?
 懐かしいよね。確か、俺が春香にプロポーズしたんだよなー。覚えてる?」

「覚えてる。
 大きい水槽の前でプロポーズしているカップルを真似して言ってくれたよね。
『一生幸せにするから、ずっと一緒にいてください。』って。」

 そう、そうなのだ。
 幼いころの俺には、目の前で行われたプロポーズを見ても何が何だかわからなかった。
 周りのみんなが拍手していたし、何かいいことがあったんだと思って父に聞いたのだ。
『あれって何しているの?』と。父の答えは簡単だった、『ずっと一緒にいるって約束をしたんだよ』と。

 それを聞いて思ったのだ。
 俺も春香とずっと一緒に居たいと。
 これをすれば春香とずっと一緒に居られるのだと思ったのだ。
 結婚はよくわからなかったから、自分のわかる言葉に言い換えて。

「大切な人だから、離れることは考えられなかったんだ。」

 土曜日の夜、俺の友人から写真付きでLINEを貰うまでは、春香が俺以外の誰かと付き合うなんて考えていなかった。
 いつか、プロポーズして結婚して子供ができて…、ずっと一緒にいるもんだと思ってたんだ。

「春香。電車の時間ギリギリかもだから、走ろうか。」

 僕は春香の答えを聞かずに、走り出した。
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