「夢」探し

篠原愛紀

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『カウントダウン』

『カウントダウン』

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静かに、時は流れた。

風は優しく少女の髪を撫でて。

最後の話を終えた。

もう、これで俺は、君に何もかも話すしかない。

だから、聞いて。

全て、聞いて。

耳を塞がす、瞳を閉じずに。

最後まで、俺の目を見てて。

真っ直ぐに。


「うん! 全部聞くよ! ねぇ今の話、どういう意味だったのか教えてよ」

そっか。
幼い少女には、言葉の裏の全ては理解できないんだね。

純粋な汚れなき、魂だから。

「たとえば、どこが意味わからなかった?」

聞くと、少女は沢山あるよっと言った。

「まずね、絵描きさんは何故お城の中にいたの? すんでたの? 何で?」

ん~… とても簡単な事だよ。

「俺は、西の国の王子様だから」

違った、「だった人」だ。

「今話した人は、俺が時を彷徨って出会った、御婆様にあたる人なんだ」

だから、俺の体を流れる血に、彼女の血も流れているんだ。喜んでいいのか、その血を汚した事に絶望すればいいのか。

「えぇ! 嘘だぁ、絵描きさんが王子様?」

少女は驚き、興奮しながら俺を見つめる。

ボロボロのスケッチブックを持った、安っぽい服の俺が、王子だなんて笑っちゃうよな。

ひとしきり、興奮した後に、表情がピタリと止まった。

そして困った顔のような、何を言えばよいのか考えながら、困惑しながら、俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「何で………王子様がここに居るの? 世界を二つに分けた戦争は?」

少女がすがるように問いかける。

その声は頼りなさげに震えていた。

あぁ。 来る。

最後の「時」が。

もう行かないといけないんだね。

「戦争は終わった」

俺は静かに、なるべく穏やかに、言った。

少女の目を見れないくらい、穏やかに。

「沢山の人が死んだ」

それは、両手で掬えないほどの多くの人が。

溢れて、零れて、失っていくほどの人が。

『勿体振ると「時」間切れになっちゃうよ』

優しく包みこむような風が吹いた。

少女はキョトンとした顔でその風を見た。

優しく吹いたはずの風が、ゆっくりと人の形を作り、現れたのは、笑顔が少し幼い青年。

『早く、少女に残酷なお話をして、ここから逃げなきゃ』

来るよ。化物が。もう港の船の中にいるよ。

悪戯っぽく囁く。

「絵描き……さん?」

その人だれ?

瞬きもせずに俺に聞いた。

「『風』の番人。俺に残酷な風を吹いてくれるんだ」

そういうと、『風』の番人は笑った。

愉快そうに目を細めて。

『酷いね……僕が番人になっちゃったのは君のせいなのにさ』

はやく、少女に全部話すんだよ?

また、風を吹かせて君に知らせるから、さ

そういって、また港の方へ飛んでいった。

少女は戸惑い、状況を理解できずに泣きそうになっている。

「ごめんね。少女……困らせてしまって……俺はもうここには居られない」

君を巻き込むかもしれないから。

「さっき、この世界の『時』間に戦争は終わったんだよ」

長くなるかもしれないけれど、残酷な現実を話すから。

カウントダウン、だよ。

物語の終末の。
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