「夢」探し

篠原愛紀

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オーバードライブ

オーバードライブ

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遠くの遠くのそのまた遠くの西の国で、化物が叫んだんだ。

「戦争を止めろ」って。

でも、誰にも化物の声は届かなかった。

力と感情が制御できないほどに、化物は叫んじゃったから、
国一つを、制御不可能な力で時を爆発し破壊させてしまったんだ。

それが後に皆が言う大爆発オーバードライブだよ

化物の、犯した罪の名前。その化物が俺なんだ。

――少女よ。

俺は赤い鋭い目をした化物なんだ。目を血走って敵対する国の人達を睨み付け、自分以外を人と思わない、

戦争という言葉の上で、傲り、踊り狂う人形のような、戦争をしていた赤い鋭い目をした化物の一人だったんだ。


少女の顔から、サァッと血の気が引いて……俺は罪悪感に苛なまれる。

まだ、純粋で幼い少女に今俺は残酷な真実を告げている。

俺はどれだけ罪を犯せばすむのかな。

今すぐ、全部嘘だよって逃げてしまおうか。

世界から逃げて罪から逃げて君からも逃げてしまおうかな。

「目のギョロギョロした赤い化物って……」

ずっと絵描きさんの冗談だと思ってたのにって。

はずれ、だね。

「うん。人間だよ」

国、金、名誉の為にと、人を殺し、赤い血が体に染み込こんでも、戦争を止めない人間の事だよ。

「嘘だよ!」
「嘘でもいい。最後まで聞いて」

やはり話すよ。
君の中で俺がいい人のままなんて、

それのほうが
犯しがたい大罪だから。

「誰も、俺の声に耳を傾けなかったんだ。化物には、化物の言葉は、聞こえなかったんだ」

醜い壊れた赤い化物。

それでも、欲に光らせる目。

「疲れてたんだ。この世界全てにさ。俺は、『やめろ』と叫んだ瞬間に町が破壊されちまった」

あっけなく、死んだ。

国が。
人が。
生命が。

俺の手は、いや全身は赤色に染まっちまった。

止めろって叫びながら、
化物達と何一つも変わらない。

奪ったんだ。

間違い続けて進み続けた国を。

それはもう変える事のできない真実で、俺の手は血で汚れていても、それでも俺はまだしなきゃいけないんだ。

夢を探しながら。両手から、溢れて失った日を、俺は昨日の事のように悔いている。

「聞いた事ない?西の国の王子様は
『時』を操るってさ」

少女はただ呆然と俺を見ていた。

目を見開いて、俺の瞳から放すことなく見つめてくれている。
―逸らすのさえ、怖いみたいで。

「俺は『時』の番人。『時』を操る。『時』の神に存在を許して貰えた者であり、楽園に入る事も認められている」

王家の家に生まれ、『時』の番人として生まれ、人を殺して、人の上に立ち、誇りを忘れず、人を守れと教わった。

「なんで?」

そんな事言うの?って少女は言った。

「絵描きさん、なんでこんな話するの?」

楽しい話を、してくれるんじゃなかったの?って。

両目に涙を溜めて、混乱した幼い少女は、いつしか俺を睨み付けていた。

「よく聞いてくれ。俺は逃げてきたんだ」

泣きつかれても泣きたくて汚れた灰色の空の下、俺は孤独(ひとり)だった。


「こんなにも人を殺した化物だけど、やっぱり俺は人間で、どうしようもなく
くだらない王子様で、―でも、だからこそ俺は死んじゃいけないんだ。『時』の番人でいる為に、さ」

少女は黙ったまま。

「ねぇ。人魚を愛した王子様はね、海を汚しながらも国は守ってたんだよ。蛇口を閉めてしまったらあの国は資源も何もないコンクリートの塊になるからさ」

だから、人魚は別れを選んだ。
さよならも言えない別れを。

――少女は俺にはもう笑いかけてくれない。

あのコンクリートの国を俺の親父は武器を造る工場に変えてしまったけれど。

「俺は、国を捨てたよ。あとは世界中にいる化物たちが俺を殺すためにウロウロしているよ。世界中をね」

少女は、うつ向いて、俺の目を見るのを止めた。沢山、沢山人を殺した俺だって人間なんだ。

君と同じ赤い血が流れてる。

俺があの日奪った命にも全て。

「…………」

少女は何も語ってくれなかった。
うつ向いたまま、俺に背を向けた。

『――――もういいかい?番人』

風の声。

「分かっているよ」

急いでね?
って念を推された。

「もう、俺の国は全てなくなっちまったけれど、また最初から今度は間違って進んだ国にならないように頑張ってくれると思うんだ」

少女はうつ向いてまま、とても乾いた声で言った。

「―――また、間違ったら貴方が消すの? 神様にでもなったつもりだったの?」


そう言った、少女の声には、さっきまで俺の物語を聞いてくれていた『時』の笑顔はなかった。

少し寂しかった。
ただそれだけ。

「間違いに気づいてくれるまで叫び続けるよ」
口から音を出して、その音を言の葉にしてその言の葉に意味をつけてそれが声になって、俺の声になって、俺の声を聞いて。俺の話を聞いて。

止めて、くだらない事は。
間違わないで、俺みたいに。

「嘘つき!」

戦争は嫌いって言ってたくせに。

そう、最後まで上手く言えないまま、少女の瞳から溢れる涙。

それは止まらず滝のように流れる。

『何も知らないのに、嘘つきってさ』

「―風の番人」

俺は声のする方を睨み付けた。
もちろん、少女には聞こえないように言ったけれど。

少女が正しいよ。
戦争のせいで友人を亡くし、寂しいと嘆きながら健気に大好きな父と兄を待つ少女。

俺が消した国の中にもそんな人たちは溢れていたかもしれない。

ただ、化物の時には会えなかっただけで。

少女は泣きながら墓を見つめていた。

港に止めてある船は、もう人の気配はない。

もうすぐ完全な夜になる。

やっぱり傷つけちゃった。

少女と俺の間には、とても大きな壁で区切られているみたいに、お互いの孤独を見つめられていなかった。
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