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「時」探し
約 束
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「白い薔薇は咲いたのだろうか。おれは約束を守った。けれど守れなかった。もう帰れそうにない……」
それはもう、忘れることも覚えることもできなくて、
『約束しよう』
ここはもう「死」ぬだろう。
「誰の血にも染まることなく……」
消えていけるなら、暗闇で甘い香りが私を包み込んだ。
キラキラ輝く星屑が私の両手の上に落ちてきて、その星屑はやがて棘のない、ピンクの一輪の薔薇の花になった。
その薔薇が光輝くと、闇を追い払ってくれた。
だけど、闇の中の方がまだ綺麗だったかもしれない。
私がいる『時』間は、核心の場所であり、残酷で無情で混沌とした時だったから。
灰色の空の下、瓦礫に埋もれる、沢山の人々。
辺り一面、赤い血と動かない人達で埋め尽くされていて私の足跡にも。
「ひっ」
吐き気を押さえながら発狂しそうな頭を冷静に保てそうになかった。
「やっ……」
一歩も動けない。動いたら、私は埋め尽くされた人たちを踏んでしまいそうだった。
「いや……」
動く場所なんてない。
「イャァァァァァァァァ!」
このまま狂ってしまえばどんなに楽だろうか。
「怖がらないで……」
弱々しく微かに声がした。
「もう戦争は終わったんだから。こんなにも傷痕を残して……」
息も切々に話す彼だけが、今この世界で唯一話せる相手。
「大丈夫ですか!」
慌てて駆け寄ると、その人はとても落ち着いた眼差しをしていた。
「綺麗な……薔薇だね。ピンクなんだ……」
私の手の薔薇を見て微笑んだ。
仰向けに倒れている彼は、私の支えで上半身だけを起こした。
頭も口も両手も血で汚れているのに、彼はとても綺麗に微笑んだ。
「その……ある家の女の人に頼まれたんです。彼に会ったら渡して下さい、と」
彼は驚いて目を見開いて、薔薇を見つめた。
そして微笑みながら、また倒れるように仰向けに寝ころんだ。
「それはおれのことだろう。優しい彼女との約束の」
戦争は終わった……?
以前彼女が私に言っていた『あのオーバードライブで戦争は終わってくれたのかって』とすがる気持ちで。
でももしかして……?
「じゃあ、今はオーバードライブの後ですか?」
力なく微笑む彼に恐る恐る尋ねた。
「……オーバードライブと言うか分からない……けれど、王子の……叫び声の後に……大爆発があったのは確かだよ……。つい一時間も経たない前に、ね……」
本当に会えた。
嘘みたいだ。
奇跡みたい。
ゲホゲホッと咳込むと彼は血を吐いた。
それでも彼は手当ては要らないと言った。
「おれと彼女の約束を、果たせたのは君のおかげだ……。だから聞いて欲しい。また彼女に会えたときのために」
自分の最後の『時』が来ていると、彼は理解していたから。
私は震えを押さえながら頷いた。
「俺は、彼女と約束を2つした。1つは、彼女の咲かせた薔薇を見るまで死なない事。
もう一つは……、」
ゲホゲホと右手で口元を押さえた。
押さた右手をゆっくりと天へ向けた。
「誰の血もこの手で汚さないと……」
天へ伸ばすその右手は、真っ赤な血で汚れていた。
「これは……おれの体についている血は……全て、自分の血なんだ……もう生きている感覚もない……」
虚ろになった目は、それでも優しく微笑み、力強く綺麗だった。
「友人の命が……消えてゆくのは……とても、辛かった…何人……でもいい……助かってほしくて……必死で助けた……でもただの一回……一回の爆発で……命が全て消えた……」
両手で頭を掴みながら、顔を多いかくし、必死で発狂したい気持ちを押さえながら全身を震わせて泣いていた。
「この辺り全て死んでいるのは昨日まで一緒に働いていて、一緒に戦ってきた仲間だよ」
気持ちを落ち着かせて、彼はまた微笑んだけど、脆く儚げで痛々しかった。
「おれはもう消えるけど……」
彼は薔薇を……と手を出してきた。
私は両手でゆっくりと彼の手に持たせると、彼は棘のない薔薇の香りを嗅ぎ、ゆっくり目を閉じた。
「敵である東の国の人たちだって……そうだったんだ……きっと……昨日まで幸せな暮らしの中に住んでいたのに……」
残酷にも綺麗な薔薇の香りをただただ嗅ぎながら、
彼は右手の中に薔薇を乗せると天へ掲げた。
「なんで殺しあうんだよ……戦争なんて誰も幸せになれない……」
あぁ……、神様、おれの魂が朽ちても
彼女の心は壊さないで、憎しみとか争いとか知らない世界で二人で、
ずっと ずっとずっと……。
「でもおれは、おれ自身と戦った。」
ずっと、ずっとずっとずっと。
「戦いたくなくても、そこに闘ってでも守りたいものがあるから」
ただ、きみとの約束。
右手に乗るぐらいささやかでいい……。
きみとの幸せを手にしたかった……。
「彼女にも見えているかな……この約束の右手を……」
きみの薔薇を持ち、誰の血も染めていないおれの右手を……ずっとずっと掲げているから……。
だから――――………………。
…………
悔しかった……。
何もできずに、彼が眠るのを、ただただただ見ているだけの自分に。
こんなにも頑張って生きていた人の幸せを簡単に奪う争いに。
ただ約束を守り、相手を思いながら静かに眠った彼。
優しすぎる彼が帰らない事を知りながら、約束を守り続ける彼女。
二人の互いを思いやる気持ちが凄く素敵で、凄く哀しくて永遠だと思った。
それはもう、忘れることも覚えることもできなくて、
『約束しよう』
ここはもう「死」ぬだろう。
「誰の血にも染まることなく……」
消えていけるなら、暗闇で甘い香りが私を包み込んだ。
キラキラ輝く星屑が私の両手の上に落ちてきて、その星屑はやがて棘のない、ピンクの一輪の薔薇の花になった。
その薔薇が光輝くと、闇を追い払ってくれた。
だけど、闇の中の方がまだ綺麗だったかもしれない。
私がいる『時』間は、核心の場所であり、残酷で無情で混沌とした時だったから。
灰色の空の下、瓦礫に埋もれる、沢山の人々。
辺り一面、赤い血と動かない人達で埋め尽くされていて私の足跡にも。
「ひっ」
吐き気を押さえながら発狂しそうな頭を冷静に保てそうになかった。
「やっ……」
一歩も動けない。動いたら、私は埋め尽くされた人たちを踏んでしまいそうだった。
「いや……」
動く場所なんてない。
「イャァァァァァァァァ!」
このまま狂ってしまえばどんなに楽だろうか。
「怖がらないで……」
弱々しく微かに声がした。
「もう戦争は終わったんだから。こんなにも傷痕を残して……」
息も切々に話す彼だけが、今この世界で唯一話せる相手。
「大丈夫ですか!」
慌てて駆け寄ると、その人はとても落ち着いた眼差しをしていた。
「綺麗な……薔薇だね。ピンクなんだ……」
私の手の薔薇を見て微笑んだ。
仰向けに倒れている彼は、私の支えで上半身だけを起こした。
頭も口も両手も血で汚れているのに、彼はとても綺麗に微笑んだ。
「その……ある家の女の人に頼まれたんです。彼に会ったら渡して下さい、と」
彼は驚いて目を見開いて、薔薇を見つめた。
そして微笑みながら、また倒れるように仰向けに寝ころんだ。
「それはおれのことだろう。優しい彼女との約束の」
戦争は終わった……?
以前彼女が私に言っていた『あのオーバードライブで戦争は終わってくれたのかって』とすがる気持ちで。
でももしかして……?
「じゃあ、今はオーバードライブの後ですか?」
力なく微笑む彼に恐る恐る尋ねた。
「……オーバードライブと言うか分からない……けれど、王子の……叫び声の後に……大爆発があったのは確かだよ……。つい一時間も経たない前に、ね……」
本当に会えた。
嘘みたいだ。
奇跡みたい。
ゲホゲホッと咳込むと彼は血を吐いた。
それでも彼は手当ては要らないと言った。
「おれと彼女の約束を、果たせたのは君のおかげだ……。だから聞いて欲しい。また彼女に会えたときのために」
自分の最後の『時』が来ていると、彼は理解していたから。
私は震えを押さえながら頷いた。
「俺は、彼女と約束を2つした。1つは、彼女の咲かせた薔薇を見るまで死なない事。
もう一つは……、」
ゲホゲホと右手で口元を押さえた。
押さた右手をゆっくりと天へ向けた。
「誰の血もこの手で汚さないと……」
天へ伸ばすその右手は、真っ赤な血で汚れていた。
「これは……おれの体についている血は……全て、自分の血なんだ……もう生きている感覚もない……」
虚ろになった目は、それでも優しく微笑み、力強く綺麗だった。
「友人の命が……消えてゆくのは……とても、辛かった…何人……でもいい……助かってほしくて……必死で助けた……でもただの一回……一回の爆発で……命が全て消えた……」
両手で頭を掴みながら、顔を多いかくし、必死で発狂したい気持ちを押さえながら全身を震わせて泣いていた。
「この辺り全て死んでいるのは昨日まで一緒に働いていて、一緒に戦ってきた仲間だよ」
気持ちを落ち着かせて、彼はまた微笑んだけど、脆く儚げで痛々しかった。
「おれはもう消えるけど……」
彼は薔薇を……と手を出してきた。
私は両手でゆっくりと彼の手に持たせると、彼は棘のない薔薇の香りを嗅ぎ、ゆっくり目を閉じた。
「敵である東の国の人たちだって……そうだったんだ……きっと……昨日まで幸せな暮らしの中に住んでいたのに……」
残酷にも綺麗な薔薇の香りをただただ嗅ぎながら、
彼は右手の中に薔薇を乗せると天へ掲げた。
「なんで殺しあうんだよ……戦争なんて誰も幸せになれない……」
あぁ……、神様、おれの魂が朽ちても
彼女の心は壊さないで、憎しみとか争いとか知らない世界で二人で、
ずっと ずっとずっと……。
「でもおれは、おれ自身と戦った。」
ずっと、ずっとずっとずっと。
「戦いたくなくても、そこに闘ってでも守りたいものがあるから」
ただ、きみとの約束。
右手に乗るぐらいささやかでいい……。
きみとの幸せを手にしたかった……。
「彼女にも見えているかな……この約束の右手を……」
きみの薔薇を持ち、誰の血も染めていないおれの右手を……ずっとずっと掲げているから……。
だから――――………………。
…………
悔しかった……。
何もできずに、彼が眠るのを、ただただただ見ているだけの自分に。
こんなにも頑張って生きていた人の幸せを簡単に奪う争いに。
ただ約束を守り、相手を思いながら静かに眠った彼。
優しすぎる彼が帰らない事を知りながら、約束を守り続ける彼女。
二人の互いを思いやる気持ちが凄く素敵で、凄く哀しくて永遠だと思った。
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