46 / 56
「時」探し
結 果
しおりを挟む
灰の砂山に沈む、人。
両手は後ろに縛られて、抵抗もせずに虚ろな瞳で痣、だらけ。
頭からは血を流しながら哀しそうな虚ろな瞳。
あぁ、なんで私はこの人を知ってるんだろう。
思い出したいのに何が私を邪魔するのだろう。
「――庇うな。化物を庇う必要はないだろう?」
彼女は冷たい瞳で、私と王子を見下ろした。
「今さら、逃げておきながら何をしに来たんだ。化物めっ」
彼女は剣を抜いた。
それを王子の額ギリギリに近づける。
辺りは静かに重い雰囲気が流れる。
「質問に答えろ」
虚ろな瞳の王子はゆっくり起き上がる。
痛みを感じない程に傷つきながら。
「何故、お前はこの大地に立っていられるのだ。何故、全てから逃げている。何故、私の王子を殺した」
剣を抜き、国の指揮を取り、凛と背筋を伸ばしていた彼女の、初めての涙。
「お……う‥じ?」
視界も分からない様なとろんとした瞳で、西の国の王子は聞き返す。
それを見て、彼女はかッと怒り叫んだ。
「王子はお前に殺される為に生きてきたんじゃない!」
ザシュッ
彼女の剣は、深く、王子の右腕に刺さる。
「やめて!」
もう、彼女には、誰の声も聞こえない。
「この人死んじゃうよ!」
まだ質問にさえ答えてないのに、こんなのは自分達の感情、葛藤、憎しみをぶつけているだけだ。
すると、西の国の王子は右腕の切られた所を押さえながら、よろよろと起き上がる。
「東の……国の…王子?」
彼は、人形の様に表情を変えずに言った。
「『風』……の番人…だった…よね」
じゃあ、魂は神の元に還ったよ。
と消えそうで、朧げに答えた。
右腕を押さえた手から血が滲み出てきながらも、彼は痛みを表情に出さない。
「でも……ううん、だか…ら、だ…俺は…まだ…捕ま…らない…よ」
彼を暗い闇が包みこみ、
視界がグニャリと曲がり、風景に溶けだす。
赤い血で灰の砂山を染めながら、彼はゆっくりと傷ついた右腕を空に掲げた。
「返せ! 返せ! 返せ! 返せ!返せぇぇぇぇえええ。王子を、かえせえええええ」
彼女は狂った様に叫びながら、兵士に左右から押さえられていた。
気丈に振る舞い、指揮をとる戦士の弱さが、垣間見えて切ない。
「捕まら…ないよ。捕ま…て…みなよ…」
瀕死の傷を受けながら、息も切々になりながら、彼はクスリと笑った。
そして、私を濁った瞳でとらえた。
――多分、私の顔なんて判別できないだろう。
何故こんな傷を受けても立てるのだろうか。
「庇う……必要なんて…ないよ。これが……俺の……招いた…結果、だから」
瞳の奥は冷えきったまま、彼は私の目を見た。
月夜の下、血だらけで意思の無い瞳の彼はまるで赤い化物。
「さよ…うなら…」
私の目から剃らすことなく、彼は私に何か言いたげにしながらも、何も言葉をくれなかった。
グニャリと深くて重い暗闇が彼を包みこみ、吸い込まれてゆく。
「人殺し!」
彼女は兵士を振り払い、王子に向かって走りだした。
王子は一度も見ないまま、瞳を閉じて、消えていった。
月夜の光の下、灰の砂山の上で、力なく泣く声がいつまでも辺りを支配した。
………
西の国の王子は、私の事を知らないのかもしれない。
私一人が会いたがっていただけで、彼は私を何も見ていない気がした。
私の声は届いていない気が。では何故?
私は彼を知ってるのかな?
まだ、闇夜の中を彼女の声が聞こえるのに、私一人が取り残された。
両手は後ろに縛られて、抵抗もせずに虚ろな瞳で痣、だらけ。
頭からは血を流しながら哀しそうな虚ろな瞳。
あぁ、なんで私はこの人を知ってるんだろう。
思い出したいのに何が私を邪魔するのだろう。
「――庇うな。化物を庇う必要はないだろう?」
彼女は冷たい瞳で、私と王子を見下ろした。
「今さら、逃げておきながら何をしに来たんだ。化物めっ」
彼女は剣を抜いた。
それを王子の額ギリギリに近づける。
辺りは静かに重い雰囲気が流れる。
「質問に答えろ」
虚ろな瞳の王子はゆっくり起き上がる。
痛みを感じない程に傷つきながら。
「何故、お前はこの大地に立っていられるのだ。何故、全てから逃げている。何故、私の王子を殺した」
剣を抜き、国の指揮を取り、凛と背筋を伸ばしていた彼女の、初めての涙。
「お……う‥じ?」
視界も分からない様なとろんとした瞳で、西の国の王子は聞き返す。
それを見て、彼女はかッと怒り叫んだ。
「王子はお前に殺される為に生きてきたんじゃない!」
ザシュッ
彼女の剣は、深く、王子の右腕に刺さる。
「やめて!」
もう、彼女には、誰の声も聞こえない。
「この人死んじゃうよ!」
まだ質問にさえ答えてないのに、こんなのは自分達の感情、葛藤、憎しみをぶつけているだけだ。
すると、西の国の王子は右腕の切られた所を押さえながら、よろよろと起き上がる。
「東の……国の…王子?」
彼は、人形の様に表情を変えずに言った。
「『風』……の番人…だった…よね」
じゃあ、魂は神の元に還ったよ。
と消えそうで、朧げに答えた。
右腕を押さえた手から血が滲み出てきながらも、彼は痛みを表情に出さない。
「でも……ううん、だか…ら、だ…俺は…まだ…捕ま…らない…よ」
彼を暗い闇が包みこみ、
視界がグニャリと曲がり、風景に溶けだす。
赤い血で灰の砂山を染めながら、彼はゆっくりと傷ついた右腕を空に掲げた。
「返せ! 返せ! 返せ! 返せ!返せぇぇぇぇえええ。王子を、かえせえええええ」
彼女は狂った様に叫びながら、兵士に左右から押さえられていた。
気丈に振る舞い、指揮をとる戦士の弱さが、垣間見えて切ない。
「捕まら…ないよ。捕ま…て…みなよ…」
瀕死の傷を受けながら、息も切々になりながら、彼はクスリと笑った。
そして、私を濁った瞳でとらえた。
――多分、私の顔なんて判別できないだろう。
何故こんな傷を受けても立てるのだろうか。
「庇う……必要なんて…ないよ。これが……俺の……招いた…結果、だから」
瞳の奥は冷えきったまま、彼は私の目を見た。
月夜の下、血だらけで意思の無い瞳の彼はまるで赤い化物。
「さよ…うなら…」
私の目から剃らすことなく、彼は私に何か言いたげにしながらも、何も言葉をくれなかった。
グニャリと深くて重い暗闇が彼を包みこみ、吸い込まれてゆく。
「人殺し!」
彼女は兵士を振り払い、王子に向かって走りだした。
王子は一度も見ないまま、瞳を閉じて、消えていった。
月夜の光の下、灰の砂山の上で、力なく泣く声がいつまでも辺りを支配した。
………
西の国の王子は、私の事を知らないのかもしれない。
私一人が会いたがっていただけで、彼は私を何も見ていない気がした。
私の声は届いていない気が。では何故?
私は彼を知ってるのかな?
まだ、闇夜の中を彼女の声が聞こえるのに、私一人が取り残された。
0
あなたにおすすめの小説
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる