49 / 56
「時」探し
真 実
しおりを挟む
気付いた時には、目の前に番人さんがいて、しっかりしろよって言った。
私は涙でぼやけた視界で、番人さんを見つめた。
長かった前髪は左右に分けられ、そこから覗く顔は西の国の王子。
「俺の『時』を見せてやったんだぞ。しっかりしろ」
穏やかに微笑んでいた。
「何も言わなくていい」
大丈夫だから、と。
「ただ、お前の『時』が『時』の果てに行かないように願っているよ」
目線を下に逸らし、そう言うとゆっくりと闇に包まれて消えて行った。
そうか、私と番人さんを包みこむ闇は、『時』の闇なんだね。
封印されてしまった「オーバードライブ」の、時間。私と番人さんだけが知る時間。
私はスローモーションで、本当にゆっくりゆっくりと闇の中に落ちて行く。
さっきまで番人さんがいた場所に手を伸ばしながら、闇の中へゆっくりと。
番人さんの場所が遠ざかっていく。
薔薇を育てる美しいあの女性。
馬鹿だよね、って笑った優しい十字架の神様。
薔薇の約束を守った優しい男性。
戦争に心痛めて眠る月。
30分間を生きる思い出を描くおじいさん。
直向きに王子の夢を叶える王女様。
薔薇が散るのを哀しく見守るペガサス。
皆、たった一瞬で、奪われた。
人々の平和を奪った、人。
私、は何の為にあの人に会ったんだろう?
思い出すのはとても怖くて、まだ現実を直視できなくて。
あぁ、どうしよう。
そして、気付いたら私は、またあの場所に立っていた。
ザザン…… ザァン……
海が見える。
海の見える岬に佇む墓。
以前と違い白い薔薇が周りに映えている。
白いレースと純白のリボンに白いドレスを風になびかせて、その人はゆっくりと振り返った。
「待ってたわ」
以前より大人びた顔で、優しく真っ直ぐ私を見て、無邪気に笑うその女性。
もう、私は真実の究明を促されているんだ。
逃げられないほどに全速で、真実に近づいている。
泣く暇も与えられない程に。
「良かった。貴方に会いたかったの」
あぁ、私、「ここ」を知ってる。
「絵描きさん」だった番人さんも、知っている。
「……泣いてたの?」
目の前の女性は、優しく私の頬を手の甲でなぞった。
私は震えを必死に押さえながら返答した。
「私も、貴方に会いたかったです」
それは、とても違和感があるけれど。
「そうね、私たち最初に会った時も2回目も『夢』みたいに不安定な場所だったからね」
フフっと笑った。
そして、白いシルクの手袋に包まれた手を、合わせながら、彼女は食い入るように墓を見つめた。
「『時』の番人さんを知っているのよね?」
彼女が緊張しながら私に問いかけた。
私も、微かに頷く。
「今までずっと『時』の番人のそばにいました。番人さんは『西の国の王子様』、でした」
そう言うと、彼女はとても哀しそうに目を瞑った。
「うん。絵描きさんは国を一つ破壊して世界中の敵となった王子様だった」
ゆっくりと目蓋をあけた。
『嘘つき!』
彼女は遠い過去の思い出を見つめながら、
「会った時から別れる寸前まで、彼は私を騙してたの。私は、ショックで彼を酷い言葉で罵ってしまったの」
『また間違ったら貴方が消すの?』
遠い昔の『時』に、刻まれなかった残酷な時間。消したくて消したんじゃないのにねって彼女は大人びた顔で哀しげに笑った。
その笑顔からは、番人さんを本当によく知っているんだなって思う気遣いが感じられた。
「もう20年近くも前の話よ。私はあの時、まだ7歳だったの」
ポトリと音が鳴るような綺麗な涙が、彼女の頬を伝った。
「子どもって無邪気なふりして残酷よね。私はあの時、沢山沢山絵描きさんに、楽しい話から勇気を貰ったのに、
私は、私に心を開いてくれた絵描きさんを罵って拒絶して酷く傷つけてしまったんだわ」
彼女の流した涙は「懺悔」
そう。
不思議なんだけど間違いない。
私はこの女性の思いが手に取るように分かる。
この女性は「私」なんだ。
この「私」は絵描きさんに謝りたかったんだ。
「私ね」
彼女は私に背を向けて、墓を見ながらゆっくりと言った。
「結婚するの。今日、ここで」
今日でこの村から居なくなるの。
「絵描きさんを忘れた日なんてなかったの」
彼と恋に落ち、結婚が決まってからもずっとよ。
「だから、どうしてもまたここで絵描きさんに会いたいの。
この村を離れる前に最後に会って謝りたいの」
そして素敵な物語をありがとうって言いたい。
一つ ひとつ
大切な「夢」に気づかせてくれたから。
だから、私は貴方に会いたいの。
「奇跡を『夢』見てた私の、奇跡が叶ったこの日に」
また、会える事が出来たなら。
私は涙でぼやけた視界で、番人さんを見つめた。
長かった前髪は左右に分けられ、そこから覗く顔は西の国の王子。
「俺の『時』を見せてやったんだぞ。しっかりしろ」
穏やかに微笑んでいた。
「何も言わなくていい」
大丈夫だから、と。
「ただ、お前の『時』が『時』の果てに行かないように願っているよ」
目線を下に逸らし、そう言うとゆっくりと闇に包まれて消えて行った。
そうか、私と番人さんを包みこむ闇は、『時』の闇なんだね。
封印されてしまった「オーバードライブ」の、時間。私と番人さんだけが知る時間。
私はスローモーションで、本当にゆっくりゆっくりと闇の中に落ちて行く。
さっきまで番人さんがいた場所に手を伸ばしながら、闇の中へゆっくりと。
番人さんの場所が遠ざかっていく。
薔薇を育てる美しいあの女性。
馬鹿だよね、って笑った優しい十字架の神様。
薔薇の約束を守った優しい男性。
戦争に心痛めて眠る月。
30分間を生きる思い出を描くおじいさん。
直向きに王子の夢を叶える王女様。
薔薇が散るのを哀しく見守るペガサス。
皆、たった一瞬で、奪われた。
人々の平和を奪った、人。
私、は何の為にあの人に会ったんだろう?
思い出すのはとても怖くて、まだ現実を直視できなくて。
あぁ、どうしよう。
そして、気付いたら私は、またあの場所に立っていた。
ザザン…… ザァン……
海が見える。
海の見える岬に佇む墓。
以前と違い白い薔薇が周りに映えている。
白いレースと純白のリボンに白いドレスを風になびかせて、その人はゆっくりと振り返った。
「待ってたわ」
以前より大人びた顔で、優しく真っ直ぐ私を見て、無邪気に笑うその女性。
もう、私は真実の究明を促されているんだ。
逃げられないほどに全速で、真実に近づいている。
泣く暇も与えられない程に。
「良かった。貴方に会いたかったの」
あぁ、私、「ここ」を知ってる。
「絵描きさん」だった番人さんも、知っている。
「……泣いてたの?」
目の前の女性は、優しく私の頬を手の甲でなぞった。
私は震えを必死に押さえながら返答した。
「私も、貴方に会いたかったです」
それは、とても違和感があるけれど。
「そうね、私たち最初に会った時も2回目も『夢』みたいに不安定な場所だったからね」
フフっと笑った。
そして、白いシルクの手袋に包まれた手を、合わせながら、彼女は食い入るように墓を見つめた。
「『時』の番人さんを知っているのよね?」
彼女が緊張しながら私に問いかけた。
私も、微かに頷く。
「今までずっと『時』の番人のそばにいました。番人さんは『西の国の王子様』、でした」
そう言うと、彼女はとても哀しそうに目を瞑った。
「うん。絵描きさんは国を一つ破壊して世界中の敵となった王子様だった」
ゆっくりと目蓋をあけた。
『嘘つき!』
彼女は遠い過去の思い出を見つめながら、
「会った時から別れる寸前まで、彼は私を騙してたの。私は、ショックで彼を酷い言葉で罵ってしまったの」
『また間違ったら貴方が消すの?』
遠い昔の『時』に、刻まれなかった残酷な時間。消したくて消したんじゃないのにねって彼女は大人びた顔で哀しげに笑った。
その笑顔からは、番人さんを本当によく知っているんだなって思う気遣いが感じられた。
「もう20年近くも前の話よ。私はあの時、まだ7歳だったの」
ポトリと音が鳴るような綺麗な涙が、彼女の頬を伝った。
「子どもって無邪気なふりして残酷よね。私はあの時、沢山沢山絵描きさんに、楽しい話から勇気を貰ったのに、
私は、私に心を開いてくれた絵描きさんを罵って拒絶して酷く傷つけてしまったんだわ」
彼女の流した涙は「懺悔」
そう。
不思議なんだけど間違いない。
私はこの女性の思いが手に取るように分かる。
この女性は「私」なんだ。
この「私」は絵描きさんに謝りたかったんだ。
「私ね」
彼女は私に背を向けて、墓を見ながらゆっくりと言った。
「結婚するの。今日、ここで」
今日でこの村から居なくなるの。
「絵描きさんを忘れた日なんてなかったの」
彼と恋に落ち、結婚が決まってからもずっとよ。
「だから、どうしてもまたここで絵描きさんに会いたいの。
この村を離れる前に最後に会って謝りたいの」
そして素敵な物語をありがとうって言いたい。
一つ ひとつ
大切な「夢」に気づかせてくれたから。
だから、私は貴方に会いたいの。
「奇跡を『夢』見てた私の、奇跡が叶ったこの日に」
また、会える事が出来たなら。
0
あなたにおすすめの小説
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる