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「時」探し
奇 跡
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幸せな鐘が響く島で、純白のドレスで身を包み、純白のリボンを結んで、今までで一番の笑顔で幸せそうに立つ女性。
今日はあの幼き少女の、奇跡が叶う日なんだ。
「式、始まったよ? 番人さん!」
海の見える岬で、番人さんは墓の前から動かなかった。
岬を降るとすぐに教会があるのに、番人さんはここからで良いと言った。
「君に言うのも変な話だけれど…‥」
本当に少女と会う気は今はないんだ。
「まだ俺は、俺の罪が許せない」
番人さんは、岬から見える結婚式で、女性の父親と兄が見当たらない事に心を痛めていた。
「あの子の父も兄も、大切な友人も、俺が奪ったようなものだし」
上手く笑えないんだ。
本当に、会ってはいけないんだ。
「あのね、番人さん」
私は少し躊躇しながら、墓を痛ましげに見つめる番人さんの背中に話しかける。
「奇跡、ってさっき私が言ったでしょ?」
今、結婚式を挙げている女性は、『私』だから。
「少女が夢見てた奇跡は」
大切な大切な友人との約束。
「少女は、友人が帰ってきたら結婚する約束をしていたんだ」
番人さんは、ゆっくりと振り返った。
その顔は驚いていて声を失っていた。
「少女が信じていた奇跡って、友人が生きて帰って自分を迎えに来てくれて、お嫁さんになる事だったんだよ」
「つまり、この墓には友人は眠ってないのか?」
掠れた声で私に聞いてきた。驚きを隠せないでいる。
私はゆっくりと頷いた。
「だから」
その言葉の続きを突然遮られた。
凄く激しい風と共に声がしたから。
『危ない! 避けろ!』
風の番人の声は間に合わなかった。
血飛沫とともに鋭利な刃物が風を切った。
「番人さんっ」
右腕を押さえて踞る番人さん。
地面を赤い血で染めながら、苦痛で顔を歪めて、番人さんは斬りつけてきた男を見上げた。
「人の妹の結婚式に来るとは、良い御身分だね。化物」
剣を赤く染めながら、血走った目を歪めて、愉快そうに笑う男。
その男は剣についた番人さんの血をゆっくり舐めた。
「化物の血を舐めたら治らないかなぁ? この左腕」
その男の左腕は、なかった。
右手だけで握られた剣は、赤く錆びていて暗く重黒しかった。
「オレの大切な妹の結婚式を何で化物が見ているんだ?」
ペッと先程舐めた血を吐き出しながら、目だけはギョロギョロと血走り番人さんを見つめていた。
「っー…。貴方こそ、生きていたなら何故今頃になって帰ってきたのか?」
右腕を痛そうに押さえながらも、どこか【西の国の王子】を思い浮かべる口調で、番人さんは言った。
「決まっているだろ? 化物。お前を殺さなければ戦争は終わらないからだ」
妹の元へ帰る時には、妹の幸せを妨げるものがない世界に。
そう思ってオレは生きてきた、と。
狂った笑顔で言った。
「ほら、立てよ。化物。右腕の紋章を傷つけたら上手く『時』に逃げられないんだろ?」
―――大人しく捕まって。
―――大人しく世界中の目の前で死ね。
―――人殺し。
―――化物。
私は耳を塞ぎたかった。
けれど一番耳を塞ぎたいはずの番人さんが、逃げられないから。
だから。
またその男が剣を振りかざす。私に躊躇している時間はない。
私は二人の間に飛び出した。
今日はあの幼き少女の、奇跡が叶う日なんだ。
「式、始まったよ? 番人さん!」
海の見える岬で、番人さんは墓の前から動かなかった。
岬を降るとすぐに教会があるのに、番人さんはここからで良いと言った。
「君に言うのも変な話だけれど…‥」
本当に少女と会う気は今はないんだ。
「まだ俺は、俺の罪が許せない」
番人さんは、岬から見える結婚式で、女性の父親と兄が見当たらない事に心を痛めていた。
「あの子の父も兄も、大切な友人も、俺が奪ったようなものだし」
上手く笑えないんだ。
本当に、会ってはいけないんだ。
「あのね、番人さん」
私は少し躊躇しながら、墓を痛ましげに見つめる番人さんの背中に話しかける。
「奇跡、ってさっき私が言ったでしょ?」
今、結婚式を挙げている女性は、『私』だから。
「少女が夢見てた奇跡は」
大切な大切な友人との約束。
「少女は、友人が帰ってきたら結婚する約束をしていたんだ」
番人さんは、ゆっくりと振り返った。
その顔は驚いていて声を失っていた。
「少女が信じていた奇跡って、友人が生きて帰って自分を迎えに来てくれて、お嫁さんになる事だったんだよ」
「つまり、この墓には友人は眠ってないのか?」
掠れた声で私に聞いてきた。驚きを隠せないでいる。
私はゆっくりと頷いた。
「だから」
その言葉の続きを突然遮られた。
凄く激しい風と共に声がしたから。
『危ない! 避けろ!』
風の番人の声は間に合わなかった。
血飛沫とともに鋭利な刃物が風を切った。
「番人さんっ」
右腕を押さえて踞る番人さん。
地面を赤い血で染めながら、苦痛で顔を歪めて、番人さんは斬りつけてきた男を見上げた。
「人の妹の結婚式に来るとは、良い御身分だね。化物」
剣を赤く染めながら、血走った目を歪めて、愉快そうに笑う男。
その男は剣についた番人さんの血をゆっくり舐めた。
「化物の血を舐めたら治らないかなぁ? この左腕」
その男の左腕は、なかった。
右手だけで握られた剣は、赤く錆びていて暗く重黒しかった。
「オレの大切な妹の結婚式を何で化物が見ているんだ?」
ペッと先程舐めた血を吐き出しながら、目だけはギョロギョロと血走り番人さんを見つめていた。
「っー…。貴方こそ、生きていたなら何故今頃になって帰ってきたのか?」
右腕を痛そうに押さえながらも、どこか【西の国の王子】を思い浮かべる口調で、番人さんは言った。
「決まっているだろ? 化物。お前を殺さなければ戦争は終わらないからだ」
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そう思ってオレは生きてきた、と。
狂った笑顔で言った。
「ほら、立てよ。化物。右腕の紋章を傷つけたら上手く『時』に逃げられないんだろ?」
―――大人しく捕まって。
―――大人しく世界中の目の前で死ね。
―――人殺し。
―――化物。
私は耳を塞ぎたかった。
けれど一番耳を塞ぎたいはずの番人さんが、逃げられないから。
だから。
またその男が剣を振りかざす。私に躊躇している時間はない。
私は二人の間に飛び出した。
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