英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

文字の大きさ
33 / 71
日進月歩、進めよ乙女。

日進月歩、進めよ乙女。六

しおりを挟む
あの日と同じ形の月が浮かぶ夜だった。少しだけ肌寒かったので、お腹に膝賭けを巻いて月を見上げる。
縁側には、月の淡い光が落ちてきていて、小さなスポットライトのようだ。

桔梗さんの出産や検査結果の陽性反応、未だ興奮が冷めなくて眠れなかった。

明後日の食事会で、――私が平穏をめちゃくちゃに壊すんだ。

こんな穏やかな日は、最後かもしれない。


「美鈴」

隣の部屋にいるはずの妹の名前を呼ぶ。

「美鈴」

私が逃げていたくせに、こんな事になってからやっと向き合おうとするなんて。

「安心してね。私、幹太さんとは結婚しないから」
出来ない、の方が正しいのかもしれないけれど、今はそう言う。

聞いているのか、聞いていないのか反応はなかったけれど、それならばそれで良い。

ただ、私が楽になりたいから話す、エゴなのかもしれない。


「ずっと美鈴が羨ましかった。跡取りじゃないからと、決められレールなんて何一つなくて好き勝できて。それなのに跡取りになりたいと自分からこんな柵(しがらみ)にしがみついて、私の居場所さえ盗んで行った。でも、今は感謝しかしていないよ」


あの日、私と彼を会わせてくれるきっかけになったのは、美鈴の勇気のおかげなんだから。


「そっち行ってもいい?」


小さく襖が開いて、美鈴の眼が私を見つめていた。
静かに私が頷くと、美鈴は枕と布団を持って縁側に座る。
美鈴も夜空を見上げると、落ちて来そうな月に吸い込まれるように見入る。


「美鈴ってさ、お姉ちゃんと同じく『みれい』とも読めるんだよ」

そう小さく言う。

「同じ読みなのに、お姉ちゃんはお父さんとお母さんから一字ずつ貰って、跡取りだと生まれた時から大事にされて、かたや私は男の子じゃなかったから、跡取りにもなれない女の子は持て囃されるだけ。ずっと居場所がなくて、しがみつかなきゃ誰からも見て貰えなくて、――楽しくなかったもん」

そう語る美鈴は、まだ十八になったばかり。その小さな肩は、まだ頼りなげなのにしっかりと月を見上げていた。


「お父さんはいつもお姉ちゃんばかりだった。だから、私は私の為に跡取り候補に立候補したのに、――お姉ちゃんもなりたくなくて辛かったんだね」


「はは。なりたくて頑張ってるように見えた?」

そう聞くと、美鈴は小さく首を横に振る。
そう。すれ違ってばかり。言葉も伝えず、私たち家族はなんて浅はかで上辺だけの関係だったんだろう。


お見合いの事は、泣き出しそうな美鈴の顔を見たら、何も言えなかった。
だからそれ以上は聞かなかった。

聞けなかった。

代わりに、食事会に美鈴も行っていい?と聞かれたので頷いただけ。

その後はただ、一緒の布団の中、クスクスと笑いながら一緒に眠る。

手を握って、言葉が足りない私たちは、お互いの温もりを感じ合う。
自分だけが不幸だと嘆いていたら、周りの気持ちなんて見えてこない。
鳥籠から抜け出せたからこそ、美鈴の気持ちも見えてきたんだ。

もう少し、周りが落ち着いたら、二人でゆっくり出かけたい。
一緒に出かけようと言おうと思う。明日、目が覚めたら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...