英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

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世間知らずの身の程知らず。

世間知らずの身の程知らず。五

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「はい。美麗の勤めるお店ですから大使館でいっぱい薦めました。駄目でしたか?」

悪気なくにこにこ笑うデイビットさんに、気難しい顔をした幹太さんでさえ、肩の力を抜いた。


「和菓子は繊細で美しい見た目だが、うちは一個一個手を抜かないからな。何百個もとなると人手が足りない。すまないが」

「えっ数百個も頼んだのですか? 館長が?」

今度はデイビットさんが目を丸くする。

「電話、まだ繋がっているなら、代わって下さい」

そう言って、おじさんが電話の相手には見えないのに身振り手振りで説明していたのを代わってもらい、デイビットさんが対応した。

日本語も上手だと持っていたけど、所々全て敬語で堅苦しく聴こえてくることがあったデイビットさんだけど、やはり母国語は完璧だった。

流暢な英語に、森田さんはぼうっと見惚れているし、幹太さんも口を開けて見ていた。

「誤解でしたね。注文を私が通訳します。美麗はその間に着替えて来て下さいますか?」

テキパキと支持をしながら、上着を脱ぐ。

デイビットさんの身体のラインが浮かび上がり、引き締まっているのがわかるベスト姿は、私も見惚れてしまう。

結局、注文数を持ちがえていたけれど、電話ではうまくそこが聞きとれなかっただけで、おじさんもその数ならば引き受けられると胸を撫で下ろしていた。

大使館で、せっかく住んでいる国なのだからと日本を学ぶイベントの中で和菓子を食べるらしく、此処の和菓子を注文するらしい。

何はともあれ、解決できて良かったし、デイビットさんの動じないあの性格を改めて尊敬出来た。

これぐらい出来るからこそ、うちの母を恐れないのかもしれない。


「綺麗? 具合悪いですか?」

目の前で、手をひらひらされてはっと顔を上げるとデイビットさんが覗きこんでいた。

産婦人科の目の前で。


「美麗も緊張しますか? 私もです」

「え、デイビットさんが緊張!?」

嘘だ、と疑った目で見ると拗ねたように唇を尖らせる。

「私だって緊張しますよ。しかも、貴方との愛する子ですからね」

「デイビットさん」

嬉しい言葉かもしれないけれど、この先ずっと彼はこんな風にストレートに気持ちを表現していくのだろうか。

「私、デイビットさんともっと話しあいするべきなのかも」

「お、前向きな話ですね」

「ちょっと、二人とも邪魔よー。玄関の真ん前で」

私とデイビットさんが立ち話をしていたら、中から赤ちゃんを抱っこした桔梗さんが自動ドアの前まで顔をだしてきた。
「桔梗さんこそ、こんな所に!」

入院している部屋は相部屋が二階、桔梗さんは個室の3階にいるはずなのに。


「ふふふふふ。幹太に今日、美麗ちゃんが来るって聞いてからずっと窓から見ていたの。おめでとう」

そこで受付の人に見かけり桔梗さんは注意され舌を出すと中へ入っていく。

私たちも中へ続いた。

絵画が壁にかけられ、クラシックが静かに流れる一階は、アンティーク風な小物やソファのインテリでデイビットさんに似合いすぎていて笑ってしまった。

「どうしました?」

「ふふふ。何でもないです」

まさかこんな風に笑いあえる日が来るなんて。
一か月前の私には想像もつかなくて変な感じ。

問診票に記入しながらも、隣で熱心に問診票を覗きこむデイビットさんの存在が暖かくて、胸がはち切れてしまいそうだった。
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