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それからそれから。
それからそれから。六
しおりを挟むお鍋を開けると、おだしの中に交互に並べられた白菜と豚肉が。
なんとか匂いで悪阻は起きなかったから食べれそうだ。
「ポン酢であっさり食べたら、美麗さんにも食べやすいからと」
「ありがとうございます」
悪阻で食欲がなかなか戻らなかったので嬉しい。
「お姉ちゃんの荷物、取りに行くついでに幹太さんの4月の季節メニューの試食させてもらっちゃった」
上機嫌な美鈴に、母が複雑そうな顔をする。
気づかれないように、反物を両手に抱いてそそくさと席を立ちながら。
母も美鈴の気持ちに気付いている。
気づいているけど、見ないふりするんだ。
幹太さんはあの家の跡取りだけど、職人だから表の仕事は全部小百合さんみたいに奥さんがするもんね。
母の跡を継ぐと決めた美鈴には、その選択を選べない。
それが分かっていても、美鈴は自分の居場所が欲しくて跡取りに立候補したのだとしたら。
上手く歯車が回ってくれない。
ご飯は美味しくて、久しぶりに全部完食したのに、なんだか満たされない思いが胸を締め付ける。
デイビーのお陰で確かに私たち家族のわだかまりは消えつつある。
けれどすれ違っていた時間はあまりに長過ぎて、未だにどこか少しぎこちない。
後は美鈴と母の問題だから、おせっかいはできないけど。
「締めにうどんにして卵を入れたら、美味しかったですね」
お腹を擦り、満足そうに笑うデイビーに私もつられて微笑む。
「そうですね」
「きっと、赤ちゃんも今頃美味しいと食べていますよ」
「ふふ」
そうだとしたら嬉しい。
一緒に同じ気持ちを共有していけるのなんて幸せなことだ。
「どうしてこう、複雑に絡み合うんでしょうね」
誰も来ないことを確認してから、デイビーの腕の中へもそもそ侵入した。
そうすると、デイビーは嬉しそうに後ろから抱き締めてくれる。
一時期は後ろからのデイビーの体臭や香水にさえ悪阻が起きてしまっていたから申し訳なかった。
けれど、今はこの体温が暖かくて嬉しい。三つの心臓が重なり合いながら、共に同じ時を刻んでいる。
「その中で、幸せになる為に賭けるんですよ。自分の運命を」
「デイビーはそうかもしれないけど」
「ただ私は負ける賭けはしないだけです」
後ろで髪を撫でながら、デイビーは簡単にそう言う。でも、彼だからこそ、この入り組んで複雑なうちの事情を知らない彼だからこそ、私をさらってくれたんだと思う。
「賭けで楽しく、甘い時間を手に入れるのは、自分の運命であり実力だからこそ面白い」
「デイビーのそんな所、すごく羨ましいです」
何でも前向きにとらえて、楽しい場を提供してくれる。
だから貴方と二人きりの時は、空気が甘くて、私は満たされるんだ。
「美麗も頑張っていますよ。自分なんて何もないと泣いていたあの日が嘘みたいです。
書道も習いたいけど、御店も手伝いたいとこんなに日々吸収しようと頑張っている。頑張り過ぎてから回っても可愛いし、失敗して落ち込んでも泣かなくなった姿も食べたいぐらい可愛いですし、あと大きなお腹でポテポテ歩く姿が危なっかしくて愛おしいです。あと、可愛い」
「……デイビー」
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