英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

文字の大きさ
67 / 71
エピローグ。

エピローグ。一

しおりを挟む


三月某日。

鹿取家の庭の桜の木にも花が色づき始めたあるうららかな春の日差しが心地よい日。

産婦人科に元気な産声が響いた。


つい昨日、レントゲンを撮り大丈夫でしょうと帝王切開を免れたばかりだったのに、安心したのか、私は元気な女の子を出産した。

髪もふさふさの金髪で、瞳もデイビーと同じ紺碧色。


「嗚呼、美麗! 美麗! ありがとう。可愛いです。可愛いですよ。美麗にそっくりだっ」

どう見てもデイビーにそっくりな赤ちゃんを見て、興奮気味にそう言う。
仕事を抜け出し、夜通し付き合ってくれたデイビーからは疲労が感じられず、そのまま赤ちゃんを抱いて飛んで行ってしまいそうな雰囲気だ。

陣痛が夜始まり、うたた寝しては陣痛の痛みで起きるの繰り返しで体力を削がれてから漸く分娩室へ上がった時は既に体力が無くて死ぬかと思った。

痛すぎて、記憶が曖昧だ。

個室へはデイビーがお姫様抱っこで運んでくれたけど、いまいちまだ身体が自分のモノじゃないように思える。
ただ、看護師さんにデイビーの私を励ます声が五月蠅過ぎると何度か注意されている姿を見た気がする。


おかげで、声を我慢して力んでしまったせいか、ちょっと切れてしまったらしい。

綺麗に縫えたみたいだから問題はないらしいけど。
赤ちゃんを抱っこしたいのに、ベットから起き上がる気力がない。

「デイビー、先に抱っこして」

時折欠伸をしたり口をパクパクさせるがぐっすりと眠っている赤ちゃんを、デイビーは恐る恐る覗くだけで、抱っこをしようとしない。


「それは美麗からですよ」

「力が入らないの」

そう言うと、助産婦さんを呼んでくれて助産婦さんが私の手の中に赤ちゃんを抱かせてくれた。

桜が満開のように真っ赤な顔で、目を閉じる赤ちゃん。
指を手の中へ伸ばすと、反射的に握り返してくれた。

「……可愛い」

涙で視界がぼやけてしまうけど、可愛い。
デイビーが私を、見つけてくれたから。
こうしてこの子と出会えた。会うことができた。

「美麗、ありがとう。美麗のおかげで私は今、幸せです」
それは私の台詞なのだけど、満身創痍な今、上手く言葉が出てこない。


「私も」

赤ちゃんのまだ少し湿っている金髪の髪を撫でながら、少しだけ目を閉じた。
幸せに包まれて。


夢を見た。満開の桜の木の下、父の形見の扇を広げる。
すると、桜の花びらが次々とその扇の上へと舞い降りてくる。

重たくてその扇を両手で持っても、どんどんどんどん花弁は舞い降りてくる。

周りが花弁で見えなくなった時、ふわりと身体が浮かんだ。
彼が私の身体ごと、花弁を受け止めてくれたんだ。

嬉しくて嬉しくて、花弁に埋もれていっても彼と二人なら怖くないって気付かされた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...