とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

篠原愛紀

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ニ、結婚×仕込み

ニ、結婚×仕込み⑩

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「紗矢、二階にいるの?」
「え、喬一さん、もう帰って来たの」

 足音がして慌てて部屋から飛び出して二階から見下ろすと、スーツのジャケットを腕にかけた喬一さんが、私を見上げて笑っている。

「ただいま、紗矢。夜勤から自宅待機に変わったんだ」

「えーー……。おかえりなさい」

 うう。無理だ。さっきの、さっきまで、こんな豪邸で落ち着かないって言おうと思ったのに。
 ただいまって、たったその一言で胸が鷲掴みにされる。

 毎日、あんなふうに微笑まれて言われたい。なんて。
「おかえりさないって、言われるのいいな。これから毎日聞けるのかと思うと顔がにやける」
「そうです、ね」
 私も一言で舞い上がってました、とは言えず適当に言葉を濁してしまう。
 近づいてくる彼が好きすぎる。

「ごめん。二階は散らかってるだろ。誰も上げないからいいかなって数年ずっと開けてない段ボールだらけ」
「私で良ければ、開封しますよ」

 ネクタイを緩めながら階段を上がってくる喬一さんを見て、思わず肩にかけていたバッグを両手で抱きしめてしまった。
 何をしても格好良く見えてしまう。
「いや、君も引っ越して来たら荷物整理あるだろ。その時に一緒にしようかな」
「私、本当にここに一緒に住んでいいんですか」

 思わずこぼれた言葉だったが、喬一さんは目を丸くした。
 そして、私の横にやってくると違和感なく肩を引き寄せてきた。
「……今更逃がす気はないけど、何か不満はあった? 改装する?」
「私、ソファに寝転んでゴロゴロするのが好きなだらしない奴だし。生ハムきゅうりだし。この家に似合わないですよ」
「あはは。大きなソファを増やそうか。寝転んでいいよ」
「うう……。不安しかない。おばあちゃんのお野菜も送ってくれるのは嬉しいけど、数を減らしてもらわなくちゃ」
 宮殿のようなこの家のキッチンに、段ボールに入った土のついた野菜の違和感に泣きそう。
「それは駄目だ」
 急に彼の声が焦りを滲ませているので、見上げる。ハッとした様子の彼が眼鏡をかけ直して少し視線を逸らした。
「一矢からも聞いてるよ。大切なおばあさまの野菜は、断ったりしたら失礼だ。俺が全部食べるよ」
「いっつもサラダぐらいしか作ってないですけど、じゃあ食べてもらおうかな」

 ふふっと笑うと、少しだけ切ない顔をされたのでどう反応していいか悩む。
 それは、やはり祖母の野菜が嫌って顔?
 あ……私の料理が嫌?

「料理、頑張ります。その、確かに野菜が来るから適当な料理しか作ったことないんだけど、素材は美味しいので」
「違う違う。俺は何も不満はないよ。ただ、ね」

 言いにくそうな彼は、少し考えてから眼鏡の縁を触って唸った。
 どうしたんだろう。
 深刻そうな顔。


「いや、結婚前にちゃんと話しておかなければいけない。俺はこれが原因で恋愛が続いたことがないから」
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