40 / 63
五、溺愛×賞味
五、溺愛×賞味③
しおりを挟む
――
来年、もし秘書課に戻ったとしても妊娠したら産休に入る。私の穴を誰かが埋めなきゃいけなくなる。
そもそもまだ妊娠してないのに、なにを考えてるのかと言われるが、やはり今、秘書課に戻るのは良くないわけで。
かといってある程度、事務職も新卒の社員が育ったら私がいない方が自由にできると思う。
まだ先の話だと思っていたから、小春の発言に頭を殴られた。
他人事ではない。ほかの人にも迷惑をかけてしまう私自身の問題だと。
「で、色々考えてたら熱が出たの?」
仕事で何時間も書類と向き合っていたら微熱が出た、ということにしてみた。
家に帰ってからもちょっと怠くて、テーブルに突っ伏していたら、少しだけ熱が高かっただけなのだけど、帰宅した喬一さんの手際が流石だった。
「すいません。仕事でも家でも患者の相手させて」
「……紗矢は患者じゃないだろ。俺が服を脱がそうか?」
ベットまで運ばれ、急いで逃げるようにパジャマに着替えた。
「でも何時間もパソコンで仕事したならしっかり休憩しろよ。今日は簡単におかゆにしようかな」
「……ちょっと嬉しそうですね」
シュルっとネクタイを解きながら、いそいそと着替えているように見える。
「出汁から作るおかゆで、看病してみたかったんだ。紗矢の様子だと風邪じゃなくて知恵熱だと思うけど、作らせて」
「うう。ベットで寝てたらいい匂いが下から漂ってくるのって拷問に近いです」
「でも少しは寝てな。寝たら下がるはずだから」
ガシガシと頭を撫で、彼は飛ぶようにキッチンへ降りて行った。
昆布かな。昆布と鶏肉、あと冷蔵庫に祖母が贈ってきた蜂蜜梅干しがあるから梅干しもつけてくれそう。
「……」
少しだけ寝て、起きたら今後のことを勇気を出して聞いてみようかな。
でも喬一さんの仕事に影響は全くないだろうから、相談するなら兄のほうか。
でも私に甘い兄のことだから気にするなと言うに決まっている。
目を閉じて、うとうとしたころ、白だしと鮭のいい匂いが下から漂ってきたのだった。
*
それから、具合は全く悪くないのだけど原因不明の微熱が続いた。
喬一さんが心配するので、実家に余計な心配をかけるわけもいけないと、初めての年越しは帰省せずに二人だけで家で過ごすことにした。
喬一さんが御節の準備をする中、私はリビングに出してもらった炬燵の中でぬくぬくと数の子の筋を取っていた。
「うーん」
「どうしました? 喬一さん」
「……多分なんだけど」
「はい」
「正月明けに病院に行ってみた方がいいかな」
「……えええ。そんなにこの微熱、悪いかんじですか
ためらいがちに言ったから、驚く。そんなに悪いの?
「一応、だよ。正月は酒は控えた方がいい。生ものも一応避けとこうか」
炬燵から飛び出して、御節を重箱に摘めていた喬一さんのところへ向かう。
「もしかして、私、何か病気ですか?」
「俺は外科医だから診断できないけど、この一か月、色々環境が変わって体が驚いてるだけだとおもうよ」
口の中に栗きんとんを押し込められる。ほどよい甘さで、口の中に幸せが広がった。
「美味しい」
「だろ。年越しそばももう打ってあるし、お雑煮も網の上で焼いたのいれるよ。ゆっくり寛いで」
「喬一さん」
抱き着こうとしたら、次は鳥ハムを口の中に押し込められたのだった。
来年、もし秘書課に戻ったとしても妊娠したら産休に入る。私の穴を誰かが埋めなきゃいけなくなる。
そもそもまだ妊娠してないのに、なにを考えてるのかと言われるが、やはり今、秘書課に戻るのは良くないわけで。
かといってある程度、事務職も新卒の社員が育ったら私がいない方が自由にできると思う。
まだ先の話だと思っていたから、小春の発言に頭を殴られた。
他人事ではない。ほかの人にも迷惑をかけてしまう私自身の問題だと。
「で、色々考えてたら熱が出たの?」
仕事で何時間も書類と向き合っていたら微熱が出た、ということにしてみた。
家に帰ってからもちょっと怠くて、テーブルに突っ伏していたら、少しだけ熱が高かっただけなのだけど、帰宅した喬一さんの手際が流石だった。
「すいません。仕事でも家でも患者の相手させて」
「……紗矢は患者じゃないだろ。俺が服を脱がそうか?」
ベットまで運ばれ、急いで逃げるようにパジャマに着替えた。
「でも何時間もパソコンで仕事したならしっかり休憩しろよ。今日は簡単におかゆにしようかな」
「……ちょっと嬉しそうですね」
シュルっとネクタイを解きながら、いそいそと着替えているように見える。
「出汁から作るおかゆで、看病してみたかったんだ。紗矢の様子だと風邪じゃなくて知恵熱だと思うけど、作らせて」
「うう。ベットで寝てたらいい匂いが下から漂ってくるのって拷問に近いです」
「でも少しは寝てな。寝たら下がるはずだから」
ガシガシと頭を撫で、彼は飛ぶようにキッチンへ降りて行った。
昆布かな。昆布と鶏肉、あと冷蔵庫に祖母が贈ってきた蜂蜜梅干しがあるから梅干しもつけてくれそう。
「……」
少しだけ寝て、起きたら今後のことを勇気を出して聞いてみようかな。
でも喬一さんの仕事に影響は全くないだろうから、相談するなら兄のほうか。
でも私に甘い兄のことだから気にするなと言うに決まっている。
目を閉じて、うとうとしたころ、白だしと鮭のいい匂いが下から漂ってきたのだった。
*
それから、具合は全く悪くないのだけど原因不明の微熱が続いた。
喬一さんが心配するので、実家に余計な心配をかけるわけもいけないと、初めての年越しは帰省せずに二人だけで家で過ごすことにした。
喬一さんが御節の準備をする中、私はリビングに出してもらった炬燵の中でぬくぬくと数の子の筋を取っていた。
「うーん」
「どうしました? 喬一さん」
「……多分なんだけど」
「はい」
「正月明けに病院に行ってみた方がいいかな」
「……えええ。そんなにこの微熱、悪いかんじですか
ためらいがちに言ったから、驚く。そんなに悪いの?
「一応、だよ。正月は酒は控えた方がいい。生ものも一応避けとこうか」
炬燵から飛び出して、御節を重箱に摘めていた喬一さんのところへ向かう。
「もしかして、私、何か病気ですか?」
「俺は外科医だから診断できないけど、この一か月、色々環境が変わって体が驚いてるだけだとおもうよ」
口の中に栗きんとんを押し込められる。ほどよい甘さで、口の中に幸せが広がった。
「美味しい」
「だろ。年越しそばももう打ってあるし、お雑煮も網の上で焼いたのいれるよ。ゆっくり寛いで」
「喬一さん」
抱き着こうとしたら、次は鳥ハムを口の中に押し込められたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる