とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

篠原愛紀

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五、溺愛×賞味

五、溺愛×賞味⑭

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 客室に案内され、院内施設やサービスの紹介、病室の内装、診察についてのパンフレットを喬一さんが読んでいるのを、私がベットで寝転び見つめていた。

 ここでの部屋着のワンピースに着替えさせてもらった。部屋着と言うのに、ピンク色のワンピースは某ブランドで、外で着ていてもおかしくないようなデザインだ。
 色々驚いている私とは正反対に、喬一さんは落ち着いた様子で、寝転ぶ私の頭を撫でていた。

喬一さんの顔は、幸せで満ちている。いつも付き合いで読んでいる知り合いの著書や医学書と違う。熱心に夢中になっている顔に、思わず布団を頭までかぶって、おずおずと目だけ出して様子をうかがう。

「……喬一さん、パパになるんですよ」
「そうだけど……パパ呼びにするの? ダディとか父さまとか父上とか、色々と呼び方があるよ」
「呼び方の前に、喬一さんの先ほどの態度について、言いたいことがあります」
 
まだ信じられなくて、お腹をそっと手で押さえながら上体を起こしてパンフレットを眺めている喬一さんを見る。


「なに?」
 戸惑っているのか瞳が揺れている。触れてほしくない話題なのに、私だから足蹴にするわけにもいかず、渋々聞いてくれている。それが申し訳ないけど、でも今後のことも考えたら引き下がるつもりもない。

「……喬一さんは、親戚は関わらなくていいって遠ざけてるけど、左京さんって人は少なくても喬一さんやお姉さんのことを心配してくださってましたよね」

 一番、喬一さんが触れてほしくない話題。そうわかっていたけど、言いたくて意を決して言う。
 喬一さんもパンフレットを閉じて、私の目を真っすぐ見てくれた。

「左京は従兄弟だから。姉さんの式でほぼドタキャンされたとき、従兄弟は皆来てくれていた」

「良い人まで遠ざけるのは、おかしいです。来てくれた方々だけでもお付き合いを続ければいいじゃないですか」

 おずおずと言いだしたくせに、止まらなくなってしまった。
 さっきの言動だって、喬一さんがあそこまで冷たく拒否しなければ、穏便に済んでいたかもしれない。

「喬一さんは身内を守るためなら、冷酷になれるのかもしれないですけど、でもわざわざあんなふうに敵を作る必要はないのかなと」

「つまり俺に、あいつらに媚びを売れ、愛想よくしてほしいと?」

 声のトーンが少し険しくなった。表情には出ないけど、少し不機嫌になったように思える。

「違います。左京さんみたいな分かってくれる人は大切にしてほしいだけです」

 冷たいとか愛想がないとか小春に言われてピンと来なかったけど少しだけ理解できる。
 やはり本家の跡取り問題はきっと、喬一さんの心に傷を作ってるんだと思う。

 それは私には理解できない傷で、表面から見えなくなっても痛みはきっと忘れられない。だから誰が敵か味方かわからない中、自分から心を開きたくないという気持ちも。

「喬一さんは、きっと毎日ささやかでもいいけど平穏が欲しい人なんだなって思いました。クリスマスツリーの毎日一個ずつのプレゼントみたいに、毎日何かしら幸せでありたいと。だったら父親になってくださる以上、従兄弟さんたちは大切にしてあげてください」

 一時の幸せの絶頂じゃなく、日々跡取り問題で心休まれなかった日々の反動で毎日、穏やかだけど平穏な日々が欲しいのだとしたら。

 私が喬一さんの周りの、喬一さんを分かってくれる人たちに気づいて、そして彼を支えられる人になりたいと思った。

 全部拒絶して私と身内だけ、嫌なことがあっても料理してストレス発散して、何もかも見ない小さな世界には、ずっといてほしくない。

「確かに、そうかもしれない。ピリピリしていたな。今日は大人げなかった」
「そうやって客観的に自分を顧みて反省できる、大人な喬一さんは尊敬してるし大好きですよ」
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