艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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一夜、辛くはないが、激甘でもなく。

一夜、辛くはないが、激甘でもなく。三

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唯一救いだったのは、結婚しようねって結婚資金を貯めようと一つの通帳に貯金する前だったことだ。

まあ就職してもすぐ辞めちゃう人だったし、私以外にも5人ほど帰る家があると言っていた人だ。

顔だけは芸能人ですって言われても納得しちゃうような、たまにモデルもしてるような人だから、若い子は本気になるんだと思う。


「あんな格好いい人の鼻を折るなんて最低です」

「そうね。顔だけだもんね、あいつの価値って」

だからこそ、無様な顔を見たかったんだけど。

「ってか止めない? いつまでもどうでもいい男の話を私にしてこないで。一ミリも興味ないから」

浮気男と仲良くしてろ、ばーか。


小馬鹿にして鼻で笑ってから立ち去ると、綾香が髪を掻きむしって座り込むのが見えたけどどうしてやることもできなかった。



「こっえー先輩だな」


 ディスクに戻ると、唯一気楽に話せる同僚がにやにや私を見て笑っていた。

「千夏(ちか)。見てるだけじゃなくて助けてよ」
「助けてもいいけど、今アンタがどこに住んでるか教えてくれたらな」
「……」

 流石、もう悪友に近いぐらいの仲だけある。
 私に男が居るのではないかと睨んでいる。
 千夏はそこらへんの男よりも男らしくて、綺麗というより格好いいみたいな。麗人みたいなショートカットにパンツスーツが似合ってる。
 私は友達さえ顔で選ぶのかと言われそうなほどだ。


「なあ、今度はまともな男か? それとも顔だけ?」
「そんなんじゃないってば。暫く厄介になってるだけで、ほいほい恋愛なんてできないよ」
「うっそだあ。顔さえ良ければ関係ないだろ」
「何年もあんな馬鹿男と付き合ってたら、次は慎重にいくものでしょ?」

 慎重に、浮気なんてしないような人に。
 それは正解だったと思ってる。
 泉さんは、下半身だけで行動するような人ではない。
 その場でムラムラしたからと流される男でもないし、困っていないだろうし。
 なので私の選択は間違ってない。
 そして身体の関係もあるし一緒に住んでる私と泉さんの関係は世間一般ではきっと恋人というカテゴリーに入るのだと思う。


 だけど、どうしてだろう。


 私は打算が大きかったし、彼も流されるまま、私だよりなままと言う感じで。
 恋人っていう燃え上がる熱い感情がお互いから感じられない。
 なんか熟年夫婦みたいな、安定した距離なんだよね。
 満たされているけどスリルがないみたいな。
 別に浮気されたいわけじゃないけど、なんかもうちょっと燃え上がりたい。

 そんなこと口が裂けても、私の為にソファを買ってくれるような彼に言えるわけはないのだけど。



「綾香もうざいねえ。仕事中ぐらいはそのクソみたいな恋愛脳を仕事に切り替えろって言ってやろか?」

「やめてあげなよ。どうせ派遣の更新されないだろうからもう半年も居ないのに」

 一度、泉さんのさらに上の上司と不倫の噂が流れたから更新はないはずだ。
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