艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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二夜。傲慢じゃないが優越感は生まれる。

二夜。傲慢じゃないが優越感は生まれる。六

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「猫のクッション、駄目でしたか」
「そうじゃなくて、――おい、泉」

 言葉を濁した遊馬さんは、泉さんへ助けを求めた。
 が、泉さんは表情一つ変えずにネクタイをほどくと遊馬さんへ投げつけた。

「猫のことは美琴は別に知らなくていいことだ。余計なこと言うなよ」

 ぴしゃりと言い放った泉さんは、仕事や私と一緒に居る時には見せないような刺々しい表現で遊馬さんと会話している。
 兄弟ってそんなものなのかな?
 それとも実は二人とも仲が悪い?

「あの、これ、部屋に仕舞いますから!」

 私が自分の部屋のドアを開けて、思いっきりポーンと投げると、二人はきょとんと眼を丸くしていた。


「ど、どうしました?」
「や、雑だなあと」
「すげー単純な思考だなと」

 ずけずけと腹立たしいことを言ってしまう二人は、確かに兄弟で間違いない。

「ってか出ていったのは俺だけど、俺の部屋が無くなったとは聞いてない」
「別に此処は俺が祖父から譲り受けたマンションだから。お前は居候していただけだろう」
「ひでえ。遊びに来る場合もあるじゃん」
「床で寝ればいいだろう」

 ……仲が悪いの?
 感情がちらちら見える泉さんがちょっとだけ幼く見える。
 遊馬さんには心を許しているのかもしれない。

「もっと甘えさせてよ、お兄ちゃん」
 おとぼけて言ったみたいだったけど、泉さんは笑わなかった。

「お前の仕事を反対した時に強行突破したのはお前だ。あの時から兄はいないと思え」
「ま、、まーまー、泉さん。ほらカタログでも見ましょうよ。私、お風呂洗ってきます」

 気まずいぴりぴりした雰囲気に耐えきれなくて、そそくさと脱衣所へ飛び出す。
 すると、二人は視線も合わせず、遊馬さんはテレビをつけて、泉さんはソファのカタログをパラパラ見始めた。
 聞き耳を立ててしまう自分が何となく嫌だった。

「勝手なことをしたのは謝るけど、でも俺は今の抜けがらみたいな兄貴が嫌なんだってば」
「余計な御世話だよ」

 抜けがらみたい――。弟である遊馬さんがそう言うのだから、きっと泉さんは抜けがらなのだろう。

 私がミステリアスだの浮世離れしただの良い言い方してみても、やはり彼は、いつまでたってもキラキラ輝いた青春時代の恋を引きずってる。
 大人になれば、学生時代の恋が御遊戯やおままごとみたいだったと感じれるはずなのに。
 上手に学生時代の御遊戯を終わらせられなかったから、現実と御遊戯の区別がつかないんだね。


 泡立ったスポンジでごしごし洗いながら、綺麗なお風呂場で私は立ち尽くした。
 ……毎日綺麗に洗っていたら、――このお風呂みたいに綺麗なのかもしれない。
 毎日、居もしない相手を思い続けていたら、今も純粋にその人が好きなのかもしれない。


「美琴」
「うひゃっ」

 思わずシャワーを床へ落としてしまったが、振り返るとちょっと不機嫌そうに眉を寄せる泉さんが御風呂の入り口に立っていた。


「どうしたの?」

「遊馬と二人っきりにしないで」
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