艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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三夜、ウソツキと正直者

三夜、ウソツキと正直者 五

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「泉さんのおじいさまが権力のある名家ですからね。もみ消したんだと思います」

「……もみ消す? なんで?」

 何かが隠されたというのにオーナーは表情一つ変えず、静かに囁くように教えてくれた。

「遊馬さんがそれを追って、泉さんが強く反対しているのが真実です」
「10年ぐらい前の事件の為に、遊馬さんは刑事になったってことね」


 刑事になるのを反対してあんなに露骨な態度を取っているってことか。
 自分の祖父がもみ消したとなれば、それ以上は把握できない。
 そんな自分の事件を追っているとなれば尚更。


「ブレーキ痕もない、見通しもいい。ただ本当に猫は一緒に亡くなっていたらしいです。でも遊馬さんが過去の傷をこじ開けるのはもう辞めて欲しいですね。こんな、泉さんがようやく幸せになれた今、そんな話はもう聞きたくないはずです」

 う。
 幸せになった今、と言われたら複雑な気がする。
 素直にそうだとは言えない大人の事情がある。

「前を歩きだせた泉さんにしてみれば、――もう放っておくべきなのですよ」
「オーナー」
「ふふ。お爺さんとは親友だったせいで、自分の本当の孫の様に二人を見てしまって駄目ですね」
「美琴、帰ろう。馬鹿が病院に運び込まれた」
「ええ!?」

 部屋に入ってくるなり、げんなりした様子の泉さんが片手で頭を押さえている。


オーナーから話が出たばかりなのに、空気を読まない遊馬さんは流石だ。


「お支払いも終わりましたし、こちらは大丈夫ですよ」
「今日は突然来たのにも関わらずすいません。またごゆっくり食事でも」

 慌ただしく挨拶をすませると、私のバッグを持ってくれてそのまま店を後にした。

「怪我とかよくするの?」
「する。犯人と取っ組み合いしたり、電車で痴漢を殴ったら指を骨折したり。ヤクザと喧嘩したり。昔から手が付けられなかったんだ。公務員になっても馬鹿は馬鹿だ」

 刑事云々の前に、血が騒ぐタイプってことみたい。

「今回は事件で?」
「いや、バイクで転倒したらしい。犯人に似た奴がすれ違った気がしてバランスを崩したとか」

 休みの日まで、対向車の顔まで観察するなんて忙しい。
 だからこそ、私が綾香に絡まれているのにも気づいたんだ。


「本当に嫌になる。すまない。どこか行きたい場所があったらそこに寄ってからでもいいよ」
「ううん。今日はいっぱい買って貰ったのでなんかもうお金使うの怖いし。ハンバーグで良いなら、冷凍いっぱいしてるし」
「すまない。ハンバーグはチーズが入ってるのもある?」
「もちろんありますよー」
「じゃあ夜はハンバーグだ」


 余りにも泉さんがハンバーグが好きなので、冷凍庫の半分はハンバーグなのを彼は知らないと思う。
 苛立ちをハンバーグで和らげて、病院へ向かった。


「病院はあまり好きじゃない」
「ああ、分かります。私、注射も薬も嫌いだったから」
「……俺は匂いも嫌いかもしれないな」


 泉さんが言わんとしていることを読みとる前に、車は私立医療センターの急患センターへ入っていく。
 土曜だから、診察代も割高だ。
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