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症状二、判断力低下。
症状二、判断力低下。①
しおりを挟む次の日はホテルのロビーからして別世界になっていた。
何でも飾りきれない花が送られてきて、仕方なく会場に展示出来なかった花をロビーに飾っているとか。
今日は有名な小説大賞の授賞式が行われるので、従業員は朝から目が回る急がしさだとか。でもうちのレストランは逆に、今日は中央のグランドピアノが無くなり、お役様も少なかった。
「じゃーん。華寺さんも買った?」
休憩室で菊池さんがカバンから取り出したのはハードカバーの小説だった。
『処方箋』とタイトルが書かれた作品に、今日の小説大賞受賞と書かれた帯がついている。
「それ、菊池さんどうされたんですか」
「今日、もしチャンスがあればサイン貰う為よう! でも試しに読んでみたらすごいの。もう涙が止まらない。このシリーズがねえ」
説明しながらテーブルにどんどん本を並べていく。
『媚薬』『免疫力』『包帯』『琴線』と並べられていく本は、辞書並に重そうで太い。
「華寺さんも少女漫画好きッて言ってたから絶対にきゅんってなるよ。読んでみて」
「へえ、男の方が書かれているんですね」
「これ、サイン貰う様に二冊買ったんだけど、貸してあげるよ」
『処方箋』を差し出され、ペラペラ捲る。少女漫画は視覚でも楽しめるから好きだけど、私、字が並んでいると眠くなっちゃうタイプだし、読めるかな。
それに。昨日の、調律師さん以上に素敵なヒーローなんて考えられないし、あれ以上に幸せな話も考えられない。
一晩経っても、胸の高鳴りは甘い痺れとなって思い出すたびに私を襲っている。
「これを昨日買った時に柾くんと会ったんだよ。昨日は、会えた?」
「え、あ、え、あー、はい、会えました」
「柾君、本屋で少女漫画なんて買ってたから、きっと華寺さんが落ち込んでるから元気になるような漫画探してくれてたんじゃないかな」
柾が……?
昨日、怖くて早く帰ろうとして、柾の話なんて聞こうともしなかった。それに小さな頃から、少女マンガのヒーローに恋してた私を馬鹿にしてたのに。
「今日の華寺さん、幸せそうだし良いことあったんだろうなって思ったんだけど、もしかして柾くんではないんだ」
柾の名前に薄く反応した私に、菊池さんは鋭い指摘をしてくる。
私にはやはり、柾は意地悪で怖い幼馴染だ。それに、今は昨日の調律師さんの事で頭がいっぱいだし。
「そう言えば、今日の授賞式でピアニストの『茜』って人がうちのグランドピアノで弾くらしいよ。さっきホールでリハしてたけど、顔は小さいは細いは綺麗だわって、もう本当に綺麗で同じ人間に思えなかった」
ミーハーな菊池さんにとって今日の授賞式は楽しみでしかたないのか、話がコロコロ変わるけれど楽しそうだ。
「この『処方箋』って本の、主人公が惚れるピアニストがこの人だって噂なのよねえ。作者とピアニストが昔付き合っていたとかなんとか。ああ、こんな綺麗な人の恋人だったなんて、最上階に泊まってる小説家さん、ますますお近づきになりたーい」
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