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症状二、判断力低下。
症状二、判断力低下。②
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「あはは」
昨日、店長から頼まれて最上階へ足を踏み入れたことは黙っておこう。
会えてもないから菊池さんへ話せる内容もないし。それよりも、昨日舞いあがりすぎた私は、颯真さんの連絡先を聞いていなかい。
ちゃんとまたお会いできるよね?
また明日って言っていたし。
颯真さんを思い出すと、口の中いっぱいに甘いモノを頬張っている様な幸せな気持ちになれる。ヤス君への気持ちを受け止めてくれたから、尚更そう思う。
気持ちを落ち着かせるために、パラパラと本を捲る。売れない小説家と人を引きつけるピアニストの恋物語を。
「よーし。サイン貰えるように頑張るぞ」
気合いを入れてメイクを直す菊池さんに釣られて私も窓ガラスに顔を映す。
目の腫れは化粧で隠れた。よし。大丈夫。
もし今日会えた時様に、私も少しだけ化粧を整える。
18時になると、ホテルのロータリーに次々とタクシーが止まりだした。
中から高級スーツに身を包んだ方々、綺麗に着飾った女性たちが次々に降りてくる。
「ウエルカムドリンクでございます」
入り口で飲み物を渡すと、上品に会釈して下さる方ばかりで恐縮してしまう。
次々に入って来るので間に合うわなくならないように冷や冷やだ。
「えー、ビールないの? じゃあワインは」
「すいません。そちらも御用していますが、乾杯の挨拶の後にと言われております」
菊池さんが嫌な顔一つせずに、タヌキのようなお腹のおじさんへ対応している。その人はまだ不満そうだったが、菊池さんの鉄壁の笑顔にすごすご退散していく。
「開始早々飲もうとされるなんて要注意ね。飲める理由があればなんでも良いんでしょうね」
「そうですね。まずは受賞のお祝いですもんね」
「わ、来たよ、ピアニストの茜さん。綺麗っ」
耳打ちされて、開いたエレベーターを見ると、真っ赤なマーメイドドレスに首元の赤いスカーフを優雅に靡かせて、歩いてくる。真っ赤な唇に、大きなサングラス。
「あっ」
昨日、最上階に降り立った美人さんだ。
な、なるほど。確かに、昨日、最上階の小説家へ会いに行っていた様子からしても、恋人説、有力だ。
「ウエルカムドリンクです」
「あら、貴方」
私になんて気にも止めないと思っていたのに、茜さんは私をじろじろと見る。
「ど、どうされました?」
「昨日、颯真が飛び出して追いかけていった子、よね?」
え?
「従業員なのに私服だからおかしいなって思ってたのよね。私が貴方と擦れ違った話をしたら、部屋から飛び出しちゃうのよ。貴方、なんなの?」
サングラスの下の瞳が見えず、ぐいぐいと顔を近づけられて、私も数歩下がってしまう。
昨日、あの最上階に颯真さんも居たってことかな?
小説家と噂がある茜さんが、なんで颯真さんと私について言及してくるのか分からないんだけども。
「すみません。ドリンクを受け取ったら中へ進んで頂けますでしょうか。後ろが混雑します」
菊池さんがにこやかに間に入ってくれる。
茜さんもドリンクを乱暴に奪うと、ふんっとそっぽを向くと中へ入ってしまった。
「大丈夫?」
真っ青な私に菊池さんが声をかけてくれるけど、なんとかへらりと笑う。
会場からはまだ茜さんが睨んでいる気がして、顔を向けられない。
「ここは私だけで良いから、厨房の中、手伝ってきてあげて」
昨日、店長から頼まれて最上階へ足を踏み入れたことは黙っておこう。
会えてもないから菊池さんへ話せる内容もないし。それよりも、昨日舞いあがりすぎた私は、颯真さんの連絡先を聞いていなかい。
ちゃんとまたお会いできるよね?
また明日って言っていたし。
颯真さんを思い出すと、口の中いっぱいに甘いモノを頬張っている様な幸せな気持ちになれる。ヤス君への気持ちを受け止めてくれたから、尚更そう思う。
気持ちを落ち着かせるために、パラパラと本を捲る。売れない小説家と人を引きつけるピアニストの恋物語を。
「よーし。サイン貰えるように頑張るぞ」
気合いを入れてメイクを直す菊池さんに釣られて私も窓ガラスに顔を映す。
目の腫れは化粧で隠れた。よし。大丈夫。
もし今日会えた時様に、私も少しだけ化粧を整える。
18時になると、ホテルのロータリーに次々とタクシーが止まりだした。
中から高級スーツに身を包んだ方々、綺麗に着飾った女性たちが次々に降りてくる。
「ウエルカムドリンクでございます」
入り口で飲み物を渡すと、上品に会釈して下さる方ばかりで恐縮してしまう。
次々に入って来るので間に合うわなくならないように冷や冷やだ。
「えー、ビールないの? じゃあワインは」
「すいません。そちらも御用していますが、乾杯の挨拶の後にと言われております」
菊池さんが嫌な顔一つせずに、タヌキのようなお腹のおじさんへ対応している。その人はまだ不満そうだったが、菊池さんの鉄壁の笑顔にすごすご退散していく。
「開始早々飲もうとされるなんて要注意ね。飲める理由があればなんでも良いんでしょうね」
「そうですね。まずは受賞のお祝いですもんね」
「わ、来たよ、ピアニストの茜さん。綺麗っ」
耳打ちされて、開いたエレベーターを見ると、真っ赤なマーメイドドレスに首元の赤いスカーフを優雅に靡かせて、歩いてくる。真っ赤な唇に、大きなサングラス。
「あっ」
昨日、最上階に降り立った美人さんだ。
な、なるほど。確かに、昨日、最上階の小説家へ会いに行っていた様子からしても、恋人説、有力だ。
「ウエルカムドリンクです」
「あら、貴方」
私になんて気にも止めないと思っていたのに、茜さんは私をじろじろと見る。
「ど、どうされました?」
「昨日、颯真が飛び出して追いかけていった子、よね?」
え?
「従業員なのに私服だからおかしいなって思ってたのよね。私が貴方と擦れ違った話をしたら、部屋から飛び出しちゃうのよ。貴方、なんなの?」
サングラスの下の瞳が見えず、ぐいぐいと顔を近づけられて、私も数歩下がってしまう。
昨日、あの最上階に颯真さんも居たってことかな?
小説家と噂がある茜さんが、なんで颯真さんと私について言及してくるのか分からないんだけども。
「すみません。ドリンクを受け取ったら中へ進んで頂けますでしょうか。後ろが混雑します」
菊池さんがにこやかに間に入ってくれる。
茜さんもドリンクを乱暴に奪うと、ふんっとそっぽを向くと中へ入ってしまった。
「大丈夫?」
真っ青な私に菊池さんが声をかけてくれるけど、なんとかへらりと笑う。
会場からはまだ茜さんが睨んでいる気がして、顔を向けられない。
「ここは私だけで良いから、厨房の中、手伝ってきてあげて」
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