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三 接近
三 接近 五
しおりを挟む「あの、やっぱ私もバイクに乗りたいな~~」
「――はやく乗れ」
部長は顔色変えずに、車の助手席を開けて、顎で中を示すと、有無を言わさず乗り込んでいく。
うわああああん。侑哉の馬鹿。何をデレデレしてるんだぁ。
「じゃあ、混んでたら先に回り始めていいから」
「はーい! お昼は一緒に食べましょうね~」
にこにこ笑う明美先生が、ちょっとだけ部長に目配せしたような?
「もしかして、明美先生とわざと二手に分かれました?」
「そんなわけねーだろ。ほら、シートベルト」
手を伸ばされてて慌てて自分で引っ張ると、部長の顔がにやっと維意地悪そうに笑う。
「意識してくれてんの?」
「!?」
「俺さ、魚のショー見たいから急ごうか。あっち、煙草吸うとこあんのかな」
「ぶ、部長!!」
独り言をぶつぶつ言いながら、全然私の話を聞こうとしない。
はめられた。最初から四人で回る気なんてなかったんだ。
明美先生も、部長も。
「あとさ、その『部長』って固くね? こっちに戻って来る気がないなら部長は止めろ」
「……じゃあ、橘さん?」
「ぶー。外れ。水樹(みずき)さんだろ、普通」
なかなか逃すと変らない信号の前で、ちょっぴりスピードを上げながら、部長は漂々とそう言うと、ギリギリセーフでその信号を過ぎた。
開かずの信号は、警察署前だからなかなか冒険する人はいないのに、部長は無駄に度胸があると思う。
あの人だって殴ったって言ってたし。
クールに見えてちょっと中身は子どもっぱいのかも。
「その無言は了承だな?」
「え!?考え事してました。でも、どーせ拒否権なんてないんですよね?」
「優等生のお前にはないだろうな。嫌ならはっきり言えよ。俺には黙るな」
チラッと脅すかのようにそう言われると、ちょっと怖じ気づきそうだけど、だったら言わせてもらいます!
「元上司を名前でなんて恥ずかしいです」
「ん。その恥ずかしがる姿が好きなんだよ。じゃ、決定で」
「なっ 拒否権無いじゃないですか!」
私がどんなに嫌だと騒いだり反対しても、部長はくくっと楽しそうに笑うだけだった。
ずるい。結局、部長のペースなんだから。
「ほら、言ってみろよ。『水樹さん』って」
「い、意地悪言う人には言いません!!!」
「言ったら、全部奢る!」
――そこまで何で名前にこだわるんですか?
そう聞きたくても、その先の答えが怖くて黙ってしまう。
「ほら、――みなみ」
信号待ちになって、部長がハンドルに顔を乗せて、こっちを見ながら極上に笑うと、甘く私の名前を呼んだ。
「い、言いません!」
「顔、真っ赤過ぎ」
冗談だったのかそのあとは、それ以上言ってこなくて、魚ショーの話題に擦り替えられた。
――水樹、さん。
心の中で呼んでみると、じわっと胸が締め付けられて、私は慌てて頭を振った。
分かってる。
流されたらいけないことぐらい。
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