神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

文字の大きさ
上 下
21 / 62
三  接近

三  接近 六

しおりを挟む

うみたまご水族館は、別府湾に面した国道10号線に位置されている。

別府の駅からも大分からの便もあまりよくなくて車が主になるために、なかなか駐車場まで込み合っていて、中に入るまでに侑哉達とは少し時間が開いてしまった。

そう言えば、高校の時もカップルはバスで行くか、年上の彼氏を持っている人か車で行ってて、ちょっと羨ましかったんだよね。




無料チケットでうみたまごに入ると、入ってすぐの場所に人がいっぱい集まっていた。

「『うみたまパフォーマンス』だってさ。セイウチのショー見て行くか?」

見て行くって、この人込みでは下のセイウチが全然見えないです。
念の為に携帯を開くと、明美先生からLINEが来ていた。

『セイウチショー見てます♪』



多分、早く着いたから前の方で見ているんだろうな。

これは本当にお昼までは合流できないかも。

仕方ないから、お仕事にきたんだと自分に言い聞かせよう。


「あの、保育園で回るコースがあるんでそれ通りに回ってもいいですか?」

鞄から、栞を取り出して1ページを開く。私の担当クラスは小さい子ばかりだから、館内見学中心だったりする。

「ふーん。ま、イルカのショーになったら向こうに行くからな」

そう悪態を吐くくせに、来たことのない私の為に一緒に栞を確認してくれていた。
案内までしてくれる。
その優しい部長を目で追うと、自分は厚かましい期待をしてしまうので苦手だったりする 


「これで一周です。ありがとうございます」

1時間もしないで周り終わった。やっぱり小さい組は、二階を中心らしい。二階を見て回り、一階の入り口で解散。三階や一階は各自見て回るようだ。

「ふーん。相変わらず仕事は真面目だよな。お前」

「あっ」

トイレの場所や避難口などびっしり書いたメモ帳を奪い取られ、パラパラ見られてしまった。
「返して下さいよ!」

「もうちょい、自信持ってもいいんじゃねーの? 頑張りすぎなぐらい頑張ってるからさ」

「な、褒められても何も出ませんよ!?」

「あ、なんか飲む?」

あっさりと無視されると、怒るよりも呆れてしまう。
セイウチショーを見ているからか、屋外イルカプールはまだ時間はあるものの座れるぐらいの余裕があった。

少し、海岸沿いの所為か風が肌寒くて、ホットコーヒーを買ってもらい座ってのんびり場所取りも兼ねて座ることになってしまったけど、
なんかこれ、ちょっとデートみたいで嫌かも。


「で、お前がそんなに自信がないのってあの弟のせい?」

「ぶっ」

「――汚ねーな。飛ばすなよ」

「何で弟が出て来るんですか?」

そう言うと、煙草を取り出してため息を吐いた。

「無自覚か」

へーっと納得しながら入り口で貰ったマップを見ながら、どうやら喫煙場所を探しているらしく、心ここにあらずの適当な相槌を打たれた。
やっぱ、全然優しくない。ってか馬鹿にされてる?

「あの、弟は関係ないですよ?」
「あるだろ。なきゃ、逃げねーよ、お前は。いつでも弟に逃げて来たんじゃねーの?
お前らかなりのシスコンブラコンだし」

「なっ」

なんで、そんな二、三回しか侑哉に会ってないのに分かった風に話すの?

私と侑哉のこと、そんなに知らないくせに。

「お前、保育系の短大で免許取ったくせに先生になる自信がなくてウチの会社に入ってきてたじゃん。なのに、大分帰ってすぐに保育士始められてるのは、弟のおかげじゃねーの?」


「そ、れはちがいます。ホントに偶然です」

「弟がいなきゃ出来ない、困ったら弟に頼る、そんなんお前の努力や頑張りが無駄になるからやめときな。失敗して迷って、んで俺みたいなやつに頼ればいいんだって」


「部長には関係ないです!」


つい、大声を出してしまって、屋外イルカプールのベンチに座っている人たちが何人もこっちを振り返ってくる。
恥ずかしいのに、悔しくて手の震えが止まらない。

しおりを挟む

処理中です...