神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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四  あの夜のこと

四  あの夜のこと 一

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部長も知らない、あの夜のこと。


***
水族館の思い出は、部長にあんなことされてからは散々であまり記憶が無い。

覚えているのは、びしょ濡れになった私と部長は、セイウチのイラストが描かれたTシャツをお土産屋で買って着替えて、明美先生と侑哉の元へ行ったのだけど、
同じくイルカショーでびしょ濡れになった明美先生と侑哉もそのTシャツに着替えていたので、四人でペアルックになってしまったこと。

部長は普通で。帰りの車の中でもただ黙って煙草を吸っていた。


――あの唇に私は触れたんだ。


部長は言葉はくれなかった。
でも、その言葉をくれた時、私は前を向いて歩けるのだろうか。

――あの夜、侑哉に抱きしめられたのに。



朝のバスのお迎えでは、部長の顔なんて全然見れる余裕なんてなかった。




「デート!?」

夏に向けて、花壇の草むしりを終えたので、今度は土に肥料を混ぜていた時だった。
るんるん気分で肥料を混ぜる明美先生に聞いたら、こっそりと教えてくれた。


「やーん。声が大きいですよ―」
「や、デートって侑哉と……じゃないよね?」

あんなに日曜日に楽しそうにしていたのに、まさか。

「そーなんです。今日、有沢さんに誘われていて。侑哉くんは久しぶりに会えて楽しかったんですよー。やっぱ同い年って同じ目線で楽しめますよね。でも私はやっぱ大人にリードされたいっていうか」

「そ……、そうなんだ」

ちょっとびっくりした。もしかしたら少しは侑哉が好きなのかなって思ったのに、友達としてなんだ。

「真君も驚きましたね。パパって言っても友人さんの子どもなんて」

明美先生もどう説明されたのか知らないけど、有沢さんに真くんと部長の関係を教えて貰ったらしい。
どんなやりとりがあったのか分からないけど、どうも有沢さんは自分の都合の良いようにしか教えてないような気がして良い気にはならない。


有沢さんの得体のしれない感じより、初な侑哉の方が絶対に良いに決まっているのに。


――そう伝えるのがちょっとだけ怖い。


「ねー、ねー、みなみせんせいっ」

「まっ、真くん!」
びっくりした。
どうやらお残り組さんにも土を混ぜるのを体験させてあげるらしい。

みんなお砂場からおもちゃのスコップを持ってきて、水色のビニールシートに土をひっくり返すと、ぐちゃぐちゃと混ぜ始めた。

「ねー、せんせい、きのう、ぱぱとあそびにいったの?」

「ええ!?」
「パパがそう言ってたの?」
明美先生が、他の先生に聞こえないように誘導してくれた。

「ううん。よるね、『みなみ…』っていってたの。みなみってせんせいのなまえだから」

「あはは、確かに同じ名前だね」

子どもの勘は鋭いって思ったけど、ただ知ってる世界が小さくて、その世界のなかにたまたま私が居ただけのこと。

ってか、部長、何を寝ぼけてるんですか……。


「ぱぱ、えんそくおわったらかえっちゃうよ。せんせいもいっぱいあそんであげてね」

「えっ、あ、そうだね」

遠足って今週の金曜の遠足だよね。ってことは遅くても日曜には福岡に帰るんだ……。

そっか。帰っちゃうんだ……。
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