神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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四  あの夜のこと

四  あの夜のこと 六

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ついつい真くんみたいに出来る子は、まかせっきりになってしまった。

合同クラスになると、子どもが増える分、

繊細な子は皆の輪に入れず飛び出してしまうからそちらにも気を付けなければいけなかった。

大分県が保育士が足りないと手紙を出すのが分かった気がする。


全然人手が足りないのに、入園希望者は増えて行くんだから。


お昼寝で寝かしつけるまでバタバタで、やっとみんなのおたより帳を記入しながらお昼ご飯をありつけたのは二時手前。



二時半には子ども達を起こしておやつの時間だから、時間はない。四時のお帰りの会が終わったら、私はまた直にバスだし。

――明美先生の話を聞く暇も無かった。



二度目のしなしなになった海老フライ弁当を食べながら、


他の先生たちを見たら、皆も無言でお弁当を食べ始めている。



そんな時、むくっと布団から起き上がったのは、――真君。


「眠れないの?」

そう尋ねたら、泣きだしそうな顔で、お布団を引きずりながらやってきた。「マリアさまにおいのりしていい?」

「教会には明日しか行けないから、お庭のマリア様にお祈りしようか?」



そう言うと、コクンと頷いた。

忙しい時間なのは真君だってお利口さんだから分かっている。

それでも心配なんだよね。


それでも、絵本の時間も粘土の時間もぼーっとしちゃうほど部長が心配だったんだから仕方ないよね。


遊具やお砂場には見向きもしないで、花壇に囲まれて立つマリア様の像に、真くんはお祈りする。

子どもって純粋で良いよね。傷つく事も、悩む事も、

私たち大人よりドロドロしてなくて単純な、素直な事で悩むから。


大人になったら複雑で、頭では分かっていても受け止められない事がでてくるんだから。

私の婚約破棄や、侑哉のプチ失恋みたいに。

「よし! おわったよ。せんせい、おしごとのじゃましてごめんね」

そう笑うと、私と手を繋ぐ。

「ううん。今日、初めて真君が笑ってくれたから、先生は嬉しいよ。先生のお仕事は、真君が笑顔になれるように頑張ることだよ」

「へへ。じゃあ、もっと笑うね」

「楽しい時だけでいいよ」

気を使わせてしまったことに苦笑しながらも、真君が笑顔になったんだからよしとしよう。

「もりのむこうのきょうかいでおいのりしたほうが、かみさまにとどくかな?」

「そうだね。でも今日はお天気だからきっと神様も真くんのお祈りを聞いてくれているよ」
「そうだとうれしいな」

真君は、太陽に負けないぐらいニコニコと笑って、保育室に戻った途端、ぐっすりと眠ってしまった。

おやつの時間になっても起きてこないぐらいに。

やっとほっと出来て緊張が解けたのだろうから、私も無理に起こさなかった。


お便り帳にぎっしりそのことを書いたけど、読んだ後では、真君のお祈りは効果が無いので、小さな紙に手紙を書いた。

『真君が、神様に早く元気になるようにお祈りしました。ちょっとだけ良くなったふりをしてあげて下さい。
私からもお祈りしますね』


そう、部長宛てに。
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