神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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六  別府⇔小倉

六  別府⇔小倉 四

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別府駅~。別府駅~。



アナウンスが流れ扉が開いた瞬間、覚悟して立ち上がり、駅のホームを見つめた。




数人が降りていき、乗り込む人たち。


どこに居るのか分からずにキョロキョロ探す。

一度ホームへ降りてみたけど、最終のためかベンチにすら人は居ない。
ホームにギリギリまで立っていたが、出発のアナウンスが流れ出したので急いで電車に飛び乗る。

ゆっくりドアが閉じられ、電車は加速していく。





なんか不安になってくる。


部長が居ないんじゃないかなって。



緊張してきた。口から心臓が飛び出しそうな。


上手く歩けない足で一号車から乗り込んで順番に中を確認していく。



スーツで最初に来た気がするからスーツかな?


そう思って歩いていくけど、全然部長が見つからない。

指定席は居なかった。自由席にも居ない。


いや、部長は煙草吸うから喫煙できる最終車両だよね?


そう思い最終車両へ向かう。



居て。

お願い、部長。


――居て。
けど、一番最後の車両にも、部長の姿は無かった。





終電まで私を待ってるって言ったのに。






どこにも部長の姿が無かった。
気づいたら窓を見ながらただただ涙を流していた。



何度か長いトンネルを潜り抜け、呆然としていたけれど手の甲で涙を拭く。


部長は電話は取らないって言ってた。


何か理由があって最終まで残れなかったのかもしれないし、


もしかしたら、部長は真くんの願いを聞いて、私じゃ真くんを幸せにできないと思ったのかもしれない。



聞くのは怖いけど、でも。



――気持ちだけは伝えたい。



部長のおかげで侑哉を傷つけずに済んだ。
部長のおかげでまた頑張ろうって一歩踏み出せた。



もしフラれても、良い。


迷惑でも気持ちだけは伝えたい。


ありがとうございますって。


それだけで前を歩き始めよう。


部長には感謝の気持ちしかない、から。


電車に揺れながら、気持ちを落ち着かせる。

小倉に着いたら微かな記憶を頼りに部長の家に行こう。


こんな気持ちのままお別れなんて後悔だけしか残らないから。






タンッ


勢いよく電車から降りると、エスカレーターを急いで駆け上がる。

パラパラと疎らに改札口から出ていく人たちの中をすり抜けて、タクシー乗り場へと走る。




数ヵ月ぶりの小倉駅は何も変わらない。


キラキラとネオンが輝き、仕事帰りの人や飲み会のはしご中の人などでざわめき賑やかだ。



部長のマンションは一緒にタクシーで帰る際に、二度先に降りた事があったから微かに覚えている。


そう思って、タクシーに乗り込もうとした時だった。











「みなみ」


タクシー乗り場の少し手前。



迎えに来た人を待つロータリーに、黒のAudiが停まっている。


車に凭れて 煙草を吸いながら、その人は穏やかに私の名前を呼ぶ。

「やっべ、やっぱ運命なんじゃねーの?」



「ぶ、ちょう……?」



「みなみなら追ってきてくれるかなって思った」


そう部長は甘く笑うと、吸い始めたばかりだろう煙草を揉み消す。



「終電に乗ってないのに諦めずに追ってきたんだろう?」
「何で……」

何で部長、ここにいるの?

最終に乗ってなかったのに。



「逃げないか試したって言ったら怒る?」


「ばっ」

じわっと滲む涙は言葉を奪っていく。

私がどれだけ不安だったのか、全然分かってない!




「ぶ、部長なんて嫌いです!!!」


そう叫ぶと、タクシー乗り場の係の人や歩いている人が振り返る。

注目されてるのは分かったけど、でも、もう人目なんて気にしていられない。





「あっそ。――俺は好き」




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