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六 別府⇔小倉
六 別府⇔小倉 五
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「私だ……って、え……?」
「早く抱き締めたいんだけど?」
え……?
あ、え……?
「お前、可愛すぎっ」
ククッと笑うと一歩近づいてくる。
何となく後ろに一歩下がると、部長は楽しそうに目を細める。
「おいでってば」
そう言われて私は、おずおずと右手を差し出すと、
部長の頬目掛けて振り上げる。
タクシーの運転手さんが目を見開いて見ていたのが印象的だった。
「おかしいな。平手打ちじゃなくてみなみが抱きついてくると思ってたんだが」
――なんでそんな予想ができるんですか!
そう思いながらも顔を上げないで涙を拭く。
左頬に紅葉を浮かべた部長が、煙草を噛みながらハンドルをきる。
未だに素直になれない私は助手席で体操座りしながら顔を埋めて嗚咽を漏らしていた。
素直に部長に私の気持ちを伝えようと思ってたのに。
きっと車を買った時から、帰りは車で帰るって決めてたはずなのに、電車で帰るような思わせ振りなことを言うなんて。
「試すなんて酷い……です」
「でもお前はこうして来ただろ? 俺の方がお前の事はよく分かってるんだよ」
ポンポンと頭を撫でられて、おずおずと顔を上げる。
信号が赤になったらしく、一番前の歩道橋の前で停まったようで私をじっと見つめる。
「――泣かせて、悪かったな」
悪いなんて思って、ない。
すごく機嫌よく笑ってる。
伝えたかった気持ちを、何だか素直に言えない状況に追い込まれて悔しいけど、
けど、胸はドキドキしている。
「ゆ、許しません。――水樹、さん」
その瞬間、部長の影が覆い被さって、少し傾いた部長の顔が近づいてくる。
「~~!!」
後ろ頭に手が回されて、あっという間に深く口づけされて逃げられなかった。
さっきまで吸っていた煙草の味がする、キス。
唇を舌で割られて、慌てて歯でガードすると舌で歯をなぞられた。
背中がゾクゾクする。
知らない体温に、ちょっと怖くなる。
ブレーキが分からなくて、触れた熱で溶けるかと思っていたら、けたたましいクラクションに邪魔された。
「っち」
信号が青になっている事を知り、早急に部長は離れるとアクセルを踏んだ。
「早く抱き締めたくて我慢できないってーのに」
その言葉に胸が高鳴る。
唇を舐め拭きながら上機嫌なまま更にアクセルを踏み込む部長の横顔を見ていたら、気持ちが溢れだしそうで怖い。
そうだ。
此処まで来たんだから部長に私の気持ちなんてバレバレなんだ。
「私は逃げませんから、あ、焦らないで下さい」
そっと服の裾を掴むと、その手を握り返された。
ちょっと荒々しくなった運転で、部長のマンションに着くと、直ぐに駐車場に車を置くと、手を引っ張られてオートロックのドアを通り、エレベータに乗る。
エレベータ内で部長がネクタイを弛めたのを見て、この先に何が起こるのか想像すると頬が赤くなる。
――逃げ出したい。
――逃げ出したくない。
でも何をどうすれば良いのか分からない。
わ、私、恥ずかしながらこの年で未経験だ、し……。
そうじたばたしつつも、部長の部屋の前まで来てしまう。
9階の一番端。
黒を基調にしたシックなマンションだから一人暮らしの人が多いのかな?
「段ボールだらけだけど、どうぞ」
ドアを開けて貰って入ると、廊下の壁に寄せられて段ボールが積み上げられている。
「有給使って引っ越し準備してたんだ。明日引っ越し」
「ええ!? そんな大変な時に」
――来て良かったんですか?
そう言おうと振り返ろうとしたのに。
ぎゅっ
後ろから抱き締められてしまった。
「ぶ、ちょう?」
「水樹さんって呼べよ」
ぎゅっとさらに腕を回されると、煙草の匂いの中に部長の匂いが混ざってくる。
その匂いを嗅ぐと頭がぽわぽわしてきてしまう。
「まじで駅からみなみが飛び出してきたの、運命かと思った」
「な、んでですか?」
この状況、心臓に悪いから止めて欲しいのに。
「お前が終電より早い電車に乗ってたら、車で到着すんのは間に合わなかったし。
お前が気持ちが揺らいで乗らなかったかもしれない。
タクシー乗り場じゃなくバス停に向かってても会えなかった」
そんな色々な偶然が重なって部長と巡り会えたなら、
だったら少しぐらいは、良いことぐらいは、
神様に感謝してもいいのかな。
「――来てくれて、嬉しいよ、みなみ」
スリッと後ろから肌を感じると、胸が甘く痛んでくる。
最初から、そう言ってくれたら私だって素直になれるのに。
「早く抱き締めたいんだけど?」
え……?
あ、え……?
「お前、可愛すぎっ」
ククッと笑うと一歩近づいてくる。
何となく後ろに一歩下がると、部長は楽しそうに目を細める。
「おいでってば」
そう言われて私は、おずおずと右手を差し出すと、
部長の頬目掛けて振り上げる。
タクシーの運転手さんが目を見開いて見ていたのが印象的だった。
「おかしいな。平手打ちじゃなくてみなみが抱きついてくると思ってたんだが」
――なんでそんな予想ができるんですか!
そう思いながらも顔を上げないで涙を拭く。
左頬に紅葉を浮かべた部長が、煙草を噛みながらハンドルをきる。
未だに素直になれない私は助手席で体操座りしながら顔を埋めて嗚咽を漏らしていた。
素直に部長に私の気持ちを伝えようと思ってたのに。
きっと車を買った時から、帰りは車で帰るって決めてたはずなのに、電車で帰るような思わせ振りなことを言うなんて。
「試すなんて酷い……です」
「でもお前はこうして来ただろ? 俺の方がお前の事はよく分かってるんだよ」
ポンポンと頭を撫でられて、おずおずと顔を上げる。
信号が赤になったらしく、一番前の歩道橋の前で停まったようで私をじっと見つめる。
「――泣かせて、悪かったな」
悪いなんて思って、ない。
すごく機嫌よく笑ってる。
伝えたかった気持ちを、何だか素直に言えない状況に追い込まれて悔しいけど、
けど、胸はドキドキしている。
「ゆ、許しません。――水樹、さん」
その瞬間、部長の影が覆い被さって、少し傾いた部長の顔が近づいてくる。
「~~!!」
後ろ頭に手が回されて、あっという間に深く口づけされて逃げられなかった。
さっきまで吸っていた煙草の味がする、キス。
唇を舌で割られて、慌てて歯でガードすると舌で歯をなぞられた。
背中がゾクゾクする。
知らない体温に、ちょっと怖くなる。
ブレーキが分からなくて、触れた熱で溶けるかと思っていたら、けたたましいクラクションに邪魔された。
「っち」
信号が青になっている事を知り、早急に部長は離れるとアクセルを踏んだ。
「早く抱き締めたくて我慢できないってーのに」
その言葉に胸が高鳴る。
唇を舐め拭きながら上機嫌なまま更にアクセルを踏み込む部長の横顔を見ていたら、気持ちが溢れだしそうで怖い。
そうだ。
此処まで来たんだから部長に私の気持ちなんてバレバレなんだ。
「私は逃げませんから、あ、焦らないで下さい」
そっと服の裾を掴むと、その手を握り返された。
ちょっと荒々しくなった運転で、部長のマンションに着くと、直ぐに駐車場に車を置くと、手を引っ張られてオートロックのドアを通り、エレベータに乗る。
エレベータ内で部長がネクタイを弛めたのを見て、この先に何が起こるのか想像すると頬が赤くなる。
――逃げ出したい。
――逃げ出したくない。
でも何をどうすれば良いのか分からない。
わ、私、恥ずかしながらこの年で未経験だ、し……。
そうじたばたしつつも、部長の部屋の前まで来てしまう。
9階の一番端。
黒を基調にしたシックなマンションだから一人暮らしの人が多いのかな?
「段ボールだらけだけど、どうぞ」
ドアを開けて貰って入ると、廊下の壁に寄せられて段ボールが積み上げられている。
「有給使って引っ越し準備してたんだ。明日引っ越し」
「ええ!? そんな大変な時に」
――来て良かったんですか?
そう言おうと振り返ろうとしたのに。
ぎゅっ
後ろから抱き締められてしまった。
「ぶ、ちょう?」
「水樹さんって呼べよ」
ぎゅっとさらに腕を回されると、煙草の匂いの中に部長の匂いが混ざってくる。
その匂いを嗅ぐと頭がぽわぽわしてきてしまう。
「まじで駅からみなみが飛び出してきたの、運命かと思った」
「な、んでですか?」
この状況、心臓に悪いから止めて欲しいのに。
「お前が終電より早い電車に乗ってたら、車で到着すんのは間に合わなかったし。
お前が気持ちが揺らいで乗らなかったかもしれない。
タクシー乗り場じゃなくバス停に向かってても会えなかった」
そんな色々な偶然が重なって部長と巡り会えたなら、
だったら少しぐらいは、良いことぐらいは、
神様に感謝してもいいのかな。
「――来てくれて、嬉しいよ、みなみ」
スリッと後ろから肌を感じると、胸が甘く痛んでくる。
最初から、そう言ってくれたら私だって素直になれるのに。
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