神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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五  届け

五  届け 九

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『…………』

「部長?」

『有沢は、真に何を言ったのか分からねーんだけど、俺が引き取る時に禁止にしてた事を言おうとしたから殴って蹴りあげて暫く不能にしといた。
あと有沢は明日からかあの保育園の担当外す。担当の入れ換え挨拶は、あいつ抜きでするから』

テキパキとそう告げながら、電話越しに煙草の煙を吐く音がする。

「……部長が指示されたんですか?」

『愛する真のためだろ』


仕事が早い。先の先まで色々見通しているんだ。


『多分北九州の本社にまた連れ戻されるだろうし、反省するだろ』

容赦ないけれど、私には分からない、部長が怒る何かがあったんだろうな。

公私混同はしないし、仕事には厳しい部長だからそう思う。

『で、お前は明日どーすんの?』


「え、あ、明日ですか?」

ドキッと心臓が高鳴るというか、核心をちくちく攻撃されたというか。


真くんのために電話したのに、やはり私は自分の事は完全に逃げていたみたいだ。



『土曜は昼から打ち合わせが入ってるから、金曜に帰るんだけど。


――最終までみなみを待っとくから』

「え、あ、の、その」


『言い訳は聞きたくないから電話は出ねーぞ』


う。
見透かされている。

というか、私、その、ここ告白とか自分からした事ない。

いつも言い寄られてときめいて流されて。


部長は私に、言葉に出させようとしている。


部長は、やっぱり私を指導してくれていた部長だ。


そして多分、私が来なければ身を引いちゃうような、そんなあっさりした所もあるんだと思う。




「は、反省会とかあるけど、行きます。遅くなってもいきます。それが私の気持ち、です!」


『ぷっ』


部長は盛大に噴き出した後、煙草の煙を器官につまらそたのかケホケホ咳き込む。
それでもその咳さえ、弾んで楽しそう。



『みなみが今どんな顔してるか想像できたら面白かった』

「部長!」




『じゃ、また明日』
また、明日――……。

その明日が来たら、私は逃げてきた自分から抜け出したい。


迎えに来てくれた部長にも、

さよならを決めてくれた侑哉にも、

安心してもらうために。


そして、大分と福岡なんて電車で二時間だから大した距離じゃないし、大丈夫。大丈夫。

***

朝から天気は晴れだった。

親子遠足は、現地集合なのだが車やバスで行くのが難しい人(子供3人連れてバスや、車イスまたは妊娠中など)は保育園のバスで行く事になっている。


私はバスの補助で保育園で一緒に乗り、水族館へ行く事になっていた。



バスで各集合地点の親子を乗せ終えて、水族館に一緒に向かっていた時だった。


正直に言えば、朝から落ち着かなくて。お腹がうずうずというかちくちくというか。

今日の夜の事を考えたら、口の中が甘酸っぱくなってきた。


初恋でもないのに、緊張していたんだ。


足元がふわふわして、顔がへらっと笑ってしまわないように、太股をつねったりしながらバスから海を眺める。


温泉独特の、ゆで卵みたいな匂いも今日は気にならない。


気にならないと、油断していた私のスマホが赤く点滅しているに気がついた。

マナーモードに設定してたせいだけど、保育園からかな?



着信9件


知らない番号から8件と保育園の番号からだ。


保護者たちに断りを入れて、電話をかけ直そうとしていたら、
その知らない番号からまたかかってきた。




「はい?」




『みなみちゃんか? すまんが馬鹿侑哉は居ないかな』


電話の相手は、――飛鳥さんだ。
「あの、侑哉は普通に大学へ行きましたよ。今、仕事中なのでまた後で電話しますね。携帯の番号教えましょうか?」


『――ああ。仕事中にごめんな。急ぎだから悪いが手が開いたら電話くれないかな?』


「え? 私ですか?」

『ああ。みなみちゃんの方が良いかな』

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