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調査隊との出会い
2.新聞記者との会話
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取材が終わり部屋から出ようとしたところで照明のボタンに目が向いた。
オンオフのスイッチとシーリングライトのリモコンが壁に設置されている。
先ほどの現象を思い返してリモコンを操作してみる。
明るさ調整を何度か試してみたが、異常があるようには見えなかった。
加えてオンオフを操作しても点滅するような兆候は起きなかった。
どこか腑に落ちない感覚を抱きながら部屋を後にする。
「小木さん。取材は終わったのかしら」
廊下を歩いていると事務員の千鶴さんが歩いてきた。
小さな新聞社なので事務は彼女が一人で担っている。
「ついさっき終わりまして。取材相手の学生はもう帰りました」
「それなら応接室のグラスを下げてもらえる?」
「気が利かずすみません。下げておきます」
社員ではない自分が千鶴さんに手間をかけるわけにはいかない。
ワンオペ事務員という立場でお忙しいのである。
短い会話の後、千鶴さんはトイレの方に歩いていった。
私は先ほどの部屋に戻り机の上に置かれたトレーにグラスを載せると、給湯室の流しの近くにトレーごと置いておいた。
取材が終わったことを社員に報告しなければいけないため、給湯室を出て編集フロアに向かう。
さほど長くない廊下を歩いた先に事務机の並ぶ広い部屋に出た。
取材に出ている人が多いようで、散発的に聞こえてくるタイピング音と受信した内容を吐き出すファックスの音だけが響く。
閑散とした編集フロアの中に顔見知りの記者を見つけて声をかけた。
「お疲れ様です」
私が声をかけるとノートパソコンに向かっていた男性がこちらを向く。
「小木ちゃん、お疲れ」
私のことをちゃん付けで呼ぶのは記者の板山である。
三十歳の私より少しだけ年上なのだが、こちらが委託ライターという立場もあってか気軽な態度で接してくる。
「男子大学生の取材、ちょうど終わったとこです」
「どんな感じ? 面白い話だった?」
立ったままでいると板山が近くのオフィスチェアを引っ張ってくれた。
それに腰を下ろして質問に答える。
「いやまあ、どうでしょう。リアリティはありそうなので、文章にすればそれなりのクオリティは出せると思います」
「それはいいね。面白そうじゃん! 小木ちゃんが記事の担当でよかったよ」
先ほどの学生の話を信じていないと言うわけにもいかない。
依頼を振ってくれたのにそんなことを打ち明けでもしたら興醒めだろう。
板山が幽霊やら何やらを信じているかまでは知らないが、目の前の相手が企画の発案者である以上は水を差す発言は控えた方がいい。
「ありがとうございます」
私は脳裏に浮かんだ言葉を脇に置いて笑顔を浮かべた。
フリーランスのライターなど吹けば飛ぶような存在なのである。
「今日の分が書けたらメールで送らせてもらいます」
「ああ、あんがと」
「では失礼します」
板山は仕事が残っていそうなので席を立つことにした。
その日の夜。
簡単な夕食を済ませた後、一人暮らしをしているアパートの一室で男子大学生から聞いた話を書き起こしていた。
ICレコーダーを繰り返し再生するうちに、取材時に長く感じた時間はわりと短い時間だったと気づいた。
今に至っても自業自得と思うことはあっても、彼の話を信じているわけではない。
しかし一方で何かに怯えるような素振りや蛍光灯が点滅した時の狼狽ぶりから、ただならぬものを感じたのも事実ではある。
オカルト的なものを信じていないことはライターという仕事自体に支障はない。
執筆依頼を受ける中でホラー小説めいたものを書くこともあれば、都市伝説の取材をして記事にしたこともある。
それらの案件では依頼者から満足してもらえたし、同じ依頼者からリピートで仕事をもらうこともあった。
もしも依頼者が納得いくようなクオリティでなければ、リピートはおろか報酬の支払いもなかっただろう。
「……おっと、手が止まってた」
文字を入力しているつもりだったが、考えごとに注意が傾いてしまっていた。
集中力が下がっているようなので、一服して気分転換をするとしよう。
椅子からゆっくりと立ち上がり、個包装されたドリップコーヒーの袋を開けて用意したマグカップの上に載せた。
これは新聞社を訪問した時に千鶴さんから分けてもらったものだった。
自分で選ぶなら節約のためにインスタントコーヒーばかりな気がする。
電気ポットからお湯を注ぐといい香りが広がる。
ドリップコーヒーはこうして匂いを楽しめる点が気に入っている。
コーヒーの入ったマグカップを手にして、ノートパソコンが置いてある机の前に戻った。
オフィスチェアに腰を下ろせば続きを書かなければという思いが強くなる。
すでに男子大学生の話は流れをまとめてあるので、書き起こしたテキストの途中にチェックを入れてある部分を確認する作業に入る。
取材に慣れていない一般人が相手なので、聞き取りづらいところや前後の意味が分かりづらいところを音声で確認するのだ。
ICレコーダーを操作してメモした部分の時間に合わせる。
再生しながら疑問点を解消するとチェックが必要な部分はさほど重要なことを話していないことが判明した。
とはいえ確認がいい加減では職務怠慢になるので、手を入れないという選択肢はなかった。
「……あれ?」
音声の最終確認を迎えたところで違和感を覚えた。
自分が話している箇所は問題ないのだが、相手が話している部分にノイズのようなものが走っているのだ。
オンオフのスイッチとシーリングライトのリモコンが壁に設置されている。
先ほどの現象を思い返してリモコンを操作してみる。
明るさ調整を何度か試してみたが、異常があるようには見えなかった。
加えてオンオフを操作しても点滅するような兆候は起きなかった。
どこか腑に落ちない感覚を抱きながら部屋を後にする。
「小木さん。取材は終わったのかしら」
廊下を歩いていると事務員の千鶴さんが歩いてきた。
小さな新聞社なので事務は彼女が一人で担っている。
「ついさっき終わりまして。取材相手の学生はもう帰りました」
「それなら応接室のグラスを下げてもらえる?」
「気が利かずすみません。下げておきます」
社員ではない自分が千鶴さんに手間をかけるわけにはいかない。
ワンオペ事務員という立場でお忙しいのである。
短い会話の後、千鶴さんはトイレの方に歩いていった。
私は先ほどの部屋に戻り机の上に置かれたトレーにグラスを載せると、給湯室の流しの近くにトレーごと置いておいた。
取材が終わったことを社員に報告しなければいけないため、給湯室を出て編集フロアに向かう。
さほど長くない廊下を歩いた先に事務机の並ぶ広い部屋に出た。
取材に出ている人が多いようで、散発的に聞こえてくるタイピング音と受信した内容を吐き出すファックスの音だけが響く。
閑散とした編集フロアの中に顔見知りの記者を見つけて声をかけた。
「お疲れ様です」
私が声をかけるとノートパソコンに向かっていた男性がこちらを向く。
「小木ちゃん、お疲れ」
私のことをちゃん付けで呼ぶのは記者の板山である。
三十歳の私より少しだけ年上なのだが、こちらが委託ライターという立場もあってか気軽な態度で接してくる。
「男子大学生の取材、ちょうど終わったとこです」
「どんな感じ? 面白い話だった?」
立ったままでいると板山が近くのオフィスチェアを引っ張ってくれた。
それに腰を下ろして質問に答える。
「いやまあ、どうでしょう。リアリティはありそうなので、文章にすればそれなりのクオリティは出せると思います」
「それはいいね。面白そうじゃん! 小木ちゃんが記事の担当でよかったよ」
先ほどの学生の話を信じていないと言うわけにもいかない。
依頼を振ってくれたのにそんなことを打ち明けでもしたら興醒めだろう。
板山が幽霊やら何やらを信じているかまでは知らないが、目の前の相手が企画の発案者である以上は水を差す発言は控えた方がいい。
「ありがとうございます」
私は脳裏に浮かんだ言葉を脇に置いて笑顔を浮かべた。
フリーランスのライターなど吹けば飛ぶような存在なのである。
「今日の分が書けたらメールで送らせてもらいます」
「ああ、あんがと」
「では失礼します」
板山は仕事が残っていそうなので席を立つことにした。
その日の夜。
簡単な夕食を済ませた後、一人暮らしをしているアパートの一室で男子大学生から聞いた話を書き起こしていた。
ICレコーダーを繰り返し再生するうちに、取材時に長く感じた時間はわりと短い時間だったと気づいた。
今に至っても自業自得と思うことはあっても、彼の話を信じているわけではない。
しかし一方で何かに怯えるような素振りや蛍光灯が点滅した時の狼狽ぶりから、ただならぬものを感じたのも事実ではある。
オカルト的なものを信じていないことはライターという仕事自体に支障はない。
執筆依頼を受ける中でホラー小説めいたものを書くこともあれば、都市伝説の取材をして記事にしたこともある。
それらの案件では依頼者から満足してもらえたし、同じ依頼者からリピートで仕事をもらうこともあった。
もしも依頼者が納得いくようなクオリティでなければ、リピートはおろか報酬の支払いもなかっただろう。
「……おっと、手が止まってた」
文字を入力しているつもりだったが、考えごとに注意が傾いてしまっていた。
集中力が下がっているようなので、一服して気分転換をするとしよう。
椅子からゆっくりと立ち上がり、個包装されたドリップコーヒーの袋を開けて用意したマグカップの上に載せた。
これは新聞社を訪問した時に千鶴さんから分けてもらったものだった。
自分で選ぶなら節約のためにインスタントコーヒーばかりな気がする。
電気ポットからお湯を注ぐといい香りが広がる。
ドリップコーヒーはこうして匂いを楽しめる点が気に入っている。
コーヒーの入ったマグカップを手にして、ノートパソコンが置いてある机の前に戻った。
オフィスチェアに腰を下ろせば続きを書かなければという思いが強くなる。
すでに男子大学生の話は流れをまとめてあるので、書き起こしたテキストの途中にチェックを入れてある部分を確認する作業に入る。
取材に慣れていない一般人が相手なので、聞き取りづらいところや前後の意味が分かりづらいところを音声で確認するのだ。
ICレコーダーを操作してメモした部分の時間に合わせる。
再生しながら疑問点を解消するとチェックが必要な部分はさほど重要なことを話していないことが判明した。
とはいえ確認がいい加減では職務怠慢になるので、手を入れないという選択肢はなかった。
「……あれ?」
音声の最終確認を迎えたところで違和感を覚えた。
自分が話している箇所は問題ないのだが、相手が話している部分にノイズのようなものが走っているのだ。
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