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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―

エルフ師匠のスパルタ指導

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 エルネスの指導はそこまでだった。
 身体が慣れるまで時間がかかるので、しばらくは安静にするように言われた。

 俺は宿舎に戻って食事を済ませてから、ベッドの上に横たわっていた。
 すでに日は暮れて窓の外には薄闇が広がっている。

 世界の見え方が変わるとはまさにこういうことだと感じた。
 曖昧なままだったマナというエネルギーを捉えることができた。

 心身に不安定な感覚はあるものの、魔術の習得が進んだ充実感があった。
 エルネスに出会えたのは大きな収穫だったと思う。

 特に本来の魔術は自己流では扱えないようになっていると知ることができたのは大きい。師弟制度、魔術部隊への入隊。それ以外では魔術学校レベルより上の魔術は身につかない。

 エルネスは“エルフの技術の集大成”と話していた。
 それだけ脈々と引き継がれた歴史があるのかもしれない。
 
 ――コン、コン。
 考え事をしているとドアをノックする音が聞こえた。

「はい、どうぞ」
「あっ、すみません。カナタさんの顔色が少し良くなかったので、お水を持ってきました」
 
 ミチルが新しい水差しを持って立っていた。
 彼女の自然な笑みを眺めていると、心が休まるような気分だった。

「ありがとう、助かるよ」
 
 彼女はきびきびとした動作で水差しを入れ替えた後、静かに部屋を出た。
 たしかに、言われた通り体調万全とはいいがたいところはある。

 いくらか不安があるものの、新たな力を試してみたい気持ちも湧いていた。
 エルネスは丸一日で戻ると言っていたので、ひとまず待つことにしよう。


 翌日になると、エルネスによる二回目の修練が始まった。
 最初にエルネスは細かく魔術の発動方法について説明してくれた。

 威力の強弱は目盛りを調整するように、段階的に上げ下げするのが基本中の基本だと説明された。
 いきなり高出力で発動すると術者がマナ焼けや体調不良を起こすので、とにかく守るように念を押された。

 防御魔術に限っては盾をイメージするやり方で正しいものの、実践編は追って教えると補足があった。
 治癒魔術に関しては魔術学校などで触りだけ教えるものの、実用性のあるレベルは別次元であり、これもまたすぐに教えられないという話だった。

 前回と同じようにエルネスは岩に腰かけてこちらを眺めていた。 

「水や火のようにイメージしやすい属性から身につけていきましょう。くれぐれも出力を上げすぎないように。マナ焼けは辛いですよ」

 彼はにこやかな表情でいった。

「……はい、了解です」

 すでに経験済みだというツッコミを脇において、全身を流れるマナに意識を集中させる。

 刹那的に激流の映像が脳裏をよぎるが、それを制して一滴の雫に焦点を当てる。

 魔術学校で教わったイメージするというのは半分正解で、エルネスに見せられたそれぞれの原初のエネルギーを理解できなければ魔術はマスターできないだろう。
 
 水滴という最少出力はスタートにすぎない。
 あるいは習熟度が上がれば大雨を降らしたり、巨大な炎を舞い上がらせることができるだろうか。

「――カナタさん、余計なことを考えすぎですよ」

 エルネスの呆れるような声で我に返った。

「……あれっ」

 足元は草が生えているので、水滴が落ちたかどうか確認できない。

「この前、内側を探らせてもらった時に気づきましたが、カナタさんは考え方が複雑すぎますね。もう少しシンプルに考えたらどうでしょう」

 エレノア先生と同様、エルネスも根気強く教えようとする姿勢を感じた。

「もう一度やってみます」

 気を取り直して再度挑戦することにした。
 雑になっていたので今度はしっかりと右手をかざした。

 マナの感覚は以前よりも格段につかみやすくなっている。
 単純な話だ。一滴の雫を生じさせるそれだけでいい。

「――あっ、やった」

 はっきりと手応えを感じた。
 かざした掌の先に水滴が発生して地面にポツリと落ちていく。

「はい、それでいいです」
「……今ので続けていいですか?」

 彼にたずねると首を縦に振って応えてくれた。

 それから何度か水滴を出す練習をして、少しずつ大きさを上げていった。
 大きくするといっても一握りできるサイズが上限で、それ以上の出力しないように注意しながら、同じサイズの水塊を発現させ続けた。

 そんな時間がしばらく続いた後、エルネスが休憩を取ることを提案した。

「少しおどかすような言い方になりましたが、エレノアに聞いた限りでは出力制限がかかりにくいみたいなので、さじ加減は慎重すぎるぐらいでちょうどいいと思います」
「修練で勢いよく水を出した時のことですかね。たしかに、今やってることよりずいぶん強力な魔術を出してしまったので、マナ焼けして当然ですね」

 修練での失態が脳裏に浮かぶ。
 あの時は知らないことばかりで無茶をしてしまった。

「エルフも含めて、ウィリデの民は自然とブレーキがかかるようになっています。不思議に思いますが、カナタさんは我々とは異なる発動の仕方をしているので、徐々に慣らす他ありませんね」

 専門的なことは何も分からないので、エルネスに従うしかないだろう。
 師弟関係と呼べる状態かは分からないものの、師と仰げる存在になりつつある。

「水属性ばかりでは、火の属性をコントロールするのが難しくなるので、次は火の魔術を発動してみましょう」

 休憩の終わりを告げるように、エルネスが立ち上がった。

 魔術の発動を慎重に行ったのが功を奏したようで、身体の違和感はゼロに近い。
 これまでのような疲労感もないように感じられた。

 ふいに森の向こうから風が吹き抜け、周囲の草木が揺れた。
 どこからか不穏な気配がして、全身の神経が緊張するような感じがした。
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