18 / 237
はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―

この世界の現金

しおりを挟む
 状況が読めないままでいると、近づいてきたエルネスが口を開いた。

「ミノルウサギは基本的に穴暮らしなので視覚や聴覚が敏感です。さっきの炎でショック状態になっています。今のうちに仕留めてしまいましょう」

 エルネスは極めて自然な動作で鞘からナイフを抜き取った。
 鋭利な抜き身の刃が光を反射する。

 彼がこれから何をしようとしているのか、それは考えるまでもない。
 一方の俺は狩猟生活に縁があったわけではないし、魚を捌いた経験すらなかった。

 たとえここが異世界という特殊な空間であったとしても、目の前で起きていることは現実であり、今からエルフの青年はウサギたちの息の根を止めようとしている。

 一見、残酷に見えてしまうが、ここではこれが自然な行動なのだと思う。
 エルネスがウサギたちの横たわる場所に着くまでの間、時間がやけに長く感じられた。

 彼の動きには淀みも躊躇いもなく、一番近くにいたウサギの胸にさくりとナイフが突き刺さった。
 急所を捉えているのか、一撃でウサギは身動きしなくなった。

 そのまま流れ作業のようにエルネスはとどめを刺していく。
 気がつけば、6、7匹のウサギが絶命した状態で横並びになっていた。

「……子どもでも殺さないとダメなんですね」
「どのみち、子ウサギだけ残したところで生き残ることはできません。……失礼ですが、カナタさんの目には野蛮な行為に映るでしょうか」
 
 エルネスは少し悲しそうな目をしていた。
 思いがけない彼の反応に心が痛んだ。

「いえ、そんなことはないですけど……なんというか、依頼のために動物をやっつけるってこういうものなんだと痛感しました。母国でも同じように害獣駆除はあるので、特別おかしなことではないですよ」
「そうですか、それは安心しました」
 
 エルネスは目を細めて微笑んだ。
 こちらも誤解が生じずに済んで安心した。

「これだけあると、イノシシみたいに運べませんよね?」
「一度街に帰って、買い手に運んでもらうようにします。これだけの数のミノルウサギなら喜んで取りにくるでしょう」

 ウサギたちの遺骸が別々の位置にあったので、エルネスと共に整頓して一列に並べた。
 駆除の仕事が終わると、俺たちは二人で街に戻ることにした。


 俺とエルネスの間に気まずさはなく、自然な会話をしながら移動した。
 しばらく歩いた後、魔術組合に到着した。

 室内に足を踏み入れると、ミーナの他に数人の男女が座って話していた。
 彼女は受付のようなところに座り、何やら事務作業をしているところだった。

「ミーナ、畑のミノルウサギを退治できた。記録を頼む」

 エルネスが声をかけると、彼女は手早く書類のようなものに何かを書きこんだ。
 
 俺は少し疲れが出てきたので、空いた椅子に腰かけた。
 すると、近くにいた男性が話しかけてきた。
 
「来賓だってのに魔術を学ぼうなんて奇特なもんだ。エルネスは面倒見がいいし、ウィリデにいるうちにしっかり教わりなさいな」

 男性は片手に杖を持ち、顎には白い髭をたくわえていた。
 ひとつなぎのローブのような服装は、いかにも魔法使いといった雰囲気だ。
 
「……ええ、分かりました」
「――カナタさん、ちょっといいですか」

 話の途中でエルネスが近づいてきた。

「はいはい、なんですか」
「さっきの依頼の報酬が20ドロン。二人で分けて10ドロンでいかがでしょう」
 
 明らかにいい仕事をしたのはエルネスなのに、そんなにもらっていいのだろうか。
 そもそも、こういった報酬の相場が分からない。

「大した仕事をしてない気もするんだけど……何だか悪いですね」
「僕一人だったら、穴を出たミノルウサギに逃げられてましたよ」
 
 エルネスは朗らかな笑みを浮かべながら、小さな布袋を手渡してきた。
 それは中世のヨーロッパで使われていそうな見た目だった。

 慎重に中を覗いてみると、光沢のある青銅色の小銭が10枚入っていた。
 初めてお小遣いをもらった時のような初々しい気分だった。

「おおっ、これが通貨」
「1ドロンが10枚です。確認はよろしいですか?」
「これが1ドロンなんですね。実物に触れるのは初めてなんです」
 
 恥ずかしながらゼロ円ならぬゼロドロン生活が続いていた。
 なるべく話題にしたくないことだったが。

「おや、そうでしたか。その中に入っている一番小さいものが1ドロン、そこから10ドロン、100ドロンと数が大きくなるほど硬貨も大きくなります」

 エルネスの話は参考になる部分が大いにあった。

 10ドロンあれば一般的な食事なら十分に足りると聞いたので、フランツのところへ行くことにした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...