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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
新たな出会い
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クラウスの病院を退院して数日が経つ頃には、ずいぶん体調が回復していた。
今日は宿舎でのんびりと過ごしている。
ベッドの上で横になっていると、何か大事なことを忘れているような気がした。
誰かに何かをお願いされていたような。
「……あっ、そういえば忘れるところだった」
俺は村川に頼みごとをされていたことを思い出した。
次にエレノア先生と会う機会があれば、森を通れるように許可を取りに行こう。
エルフの事情は詳しくないものの、彼女なら話をまとめてくれそうな気がする。
このまま宿舎でゆっくりするつもりだったが、クラウスの診療所で寝てばかりいたこともあって、さすがに退屈になってきた。
外を出歩けないほどの体調ではないはずなので、どこかへ出かけてみよう。
俺はミチルが洗っておいてくれた服に着替えて、宿舎を出発した。
今までは現金がないことで避けていたが、今回は市場に向かってみることにする。
ウサギ狩りの報酬を得てからは何かあった時のために、なるべくドロン硬貨の入った布袋を持ち歩くようにしている。客人の証明である勲章は目立ちすぎるので、最近は少し下げてズボンのポケットに引っかけるようにして固定することが多い。
そういえば、オオコウモリの時はそれなりに活躍したので、そのうちエルネス経由で報酬がもらえるんじゃないだろうか。今回は頑張ったので期待できるはずだ。
皮算用をしていると、自然と浮き立つような気分になった。
街の上空は雲がまばらで澄みわたり、美しい青空が視界の先に広がっている。
気温の変化はあまり感じず、いつもどおりの秋に似たさわやかな気候だった。
宿舎から市場のある街の中心部までは比較的近い距離にあった。
時間にして数分ほど歩いたところで中心部の広場に着いた。
広場の真ん中にはエルフと人の友好を象徴するような銅像が置かれ、街路樹のようにいくつか緑が植えられている。周囲を行き交う人々の活気で明るい雰囲気の場所だった。
市場自体は大きい長方形をした広場の外周を埋めるように店が出ている。
パッと見た感じでは数にして二、三十軒ぐらいだろうか。
若干空腹気味だったので、すぐに食べられそうなものを探すことにした。
とりあえず、野菜や精肉、鮮魚のお店はスルーすることにしよう。
幸いなことに文字は読めるし、会話もできるので買い物が苦になることはなさそうだった。何軒か眺めるうちに、美味しそうな匂いが漂ってくる店があった。
そのまま歩き続けると、一軒のパンを売る露店にたどり着いた。
素朴な作りの木棚に大小様々なパンが並び、香ばしい匂いが漂う。
野外のパン屋というのは新鮮な感じがした。
「あらお兄さん、いらっしゃい。うちで焼いてきたばかりのパンよ」
素朴な雰囲気のマダムが声をかけてきた。
感じのいい人だし買うのもありだと思うが、どれもプレーンっぽいのでバターやジャムがないと味がしないかもしれない。せっかくなら美味しく食べたかった。
ただ、冷やかしだと思われるのもイヤなので、何か買ったほうがいいか。
味が想像できないことを不安に思いながら品定めに入った。
「ふんふん、どうしようかしら。さっきの店の方が美味しそうよね」
隣に見知らぬ女性が近づくのが目に入った。
片手で青りんごのような果物をかじりながら、同じパン屋で品定めしている。
「やっぱり、さっきの店にしよう」
彼女は閃いたように踵を返して歩いていった。
その迷いのない足取りは、こちらの選択にも影響を与えた。
たしかにここだけではないから、もう少し他の店も見てみよう。
買わないことを心苦しく思い、店主の女性に軽く会釈をして離れることにした。
日本なら冷ややかな視線の一つでも向けられそうな状況だが、彼女は不思議そうな顔をしてから手を振ってくれた。
買ってほしいとは思っていても、無理に買わせたいとは思っていないのかもしれない。いずれにしても良心的だ。
さっきの女性を追うつもりはなかったものの、彼女が目ぼしい店を見つけて何かを買うところを見かけた。
ホットサンドとパニーニを足して二分割したような、日本語なら○○サンドと命名されそうな食べ物が手渡される。ハムとチーズみたいなものが挟まっているのが見えた。
「……美味そうだ」
店の中にかまどの類はないのに、食べ物は温まっているように見える。
もしかしたら、店主は火の魔術で加熱しているのかもしれない。
俺は店の前に行き、彼女と同じものを買いたいと伝えた。
「すまねえな。そこの姉ちゃんので最後の一つだ。今日は大繁盛でもう店じまいだ。よかったら、また違う日に来てくれよ」
店主のおじさんはにっこりとスマイルをサービスしてくれた。
気のいい店主なので、余計にここで買いたかったと思わされた。
「……無念なり」
口から諦めの言葉がこぼれると、それに応じるように腹が鳴った。
「もしかして、おなか空いてるの? よかったら半分あげる」
「いやいや、さすがに悪い――」
先ほどの女性が店の近くにいて、こちらに話しかけてきた。
彼女の正面に向き直った時、身体の奥で電気のようなしびれる感覚があった。
一つに束ねられた明るい栗色の髪、光をたたえるような大きな瞳。
白く透き通るような肌に細く尖った長めの耳。
「ああっ、エルフ……」
「そうだけど、エルフはそんなに珍しくないわよね」
彼女は戸惑うような表情をしながら苦笑いした。
それを見て、思わず言葉が漏れていたことに気づく。
「あれっ? あなた、もしかして……」
「えっと、何か?」
彼女の反応をどう捉えていいのか分からなかった。
こちらでの交友関係はそこまで広くなく、彼女とは初対面のはずだ。
「とりあえず、食べながら話しましょう」
きれいに半分に割られた謎サンドを手渡された。
まだ熱が残りとても美味しそうに見える。
「ああっ、ありがとう」
彼女が歩き出すのを見て隣に並んだ。
「それで、どうして俺のことを知ってるの?」
「エルフの長(おさ)の代理人にあなたを探してこいって頼まれてるの。それで今は栄養補給中だったってわけ。とにかく手間が省けて助かったわ。私はリサ。よろしくね」
彼女はそういって、美しい横顔で微笑んだ。
思わず見惚れるような表情だった。
「俺はカナタ、こちらこそよろしく」
リサが食べ始めていたので、俺も謎サンドを口に含んだ。
ハムとチーズが食べやすい食感で、この二つが適度な塩気を加えていた。
そして、不思議と甘く感じるような気がした。
今日は宿舎でのんびりと過ごしている。
ベッドの上で横になっていると、何か大事なことを忘れているような気がした。
誰かに何かをお願いされていたような。
「……あっ、そういえば忘れるところだった」
俺は村川に頼みごとをされていたことを思い出した。
次にエレノア先生と会う機会があれば、森を通れるように許可を取りに行こう。
エルフの事情は詳しくないものの、彼女なら話をまとめてくれそうな気がする。
このまま宿舎でゆっくりするつもりだったが、クラウスの診療所で寝てばかりいたこともあって、さすがに退屈になってきた。
外を出歩けないほどの体調ではないはずなので、どこかへ出かけてみよう。
俺はミチルが洗っておいてくれた服に着替えて、宿舎を出発した。
今までは現金がないことで避けていたが、今回は市場に向かってみることにする。
ウサギ狩りの報酬を得てからは何かあった時のために、なるべくドロン硬貨の入った布袋を持ち歩くようにしている。客人の証明である勲章は目立ちすぎるので、最近は少し下げてズボンのポケットに引っかけるようにして固定することが多い。
そういえば、オオコウモリの時はそれなりに活躍したので、そのうちエルネス経由で報酬がもらえるんじゃないだろうか。今回は頑張ったので期待できるはずだ。
皮算用をしていると、自然と浮き立つような気分になった。
街の上空は雲がまばらで澄みわたり、美しい青空が視界の先に広がっている。
気温の変化はあまり感じず、いつもどおりの秋に似たさわやかな気候だった。
宿舎から市場のある街の中心部までは比較的近い距離にあった。
時間にして数分ほど歩いたところで中心部の広場に着いた。
広場の真ん中にはエルフと人の友好を象徴するような銅像が置かれ、街路樹のようにいくつか緑が植えられている。周囲を行き交う人々の活気で明るい雰囲気の場所だった。
市場自体は大きい長方形をした広場の外周を埋めるように店が出ている。
パッと見た感じでは数にして二、三十軒ぐらいだろうか。
若干空腹気味だったので、すぐに食べられそうなものを探すことにした。
とりあえず、野菜や精肉、鮮魚のお店はスルーすることにしよう。
幸いなことに文字は読めるし、会話もできるので買い物が苦になることはなさそうだった。何軒か眺めるうちに、美味しそうな匂いが漂ってくる店があった。
そのまま歩き続けると、一軒のパンを売る露店にたどり着いた。
素朴な作りの木棚に大小様々なパンが並び、香ばしい匂いが漂う。
野外のパン屋というのは新鮮な感じがした。
「あらお兄さん、いらっしゃい。うちで焼いてきたばかりのパンよ」
素朴な雰囲気のマダムが声をかけてきた。
感じのいい人だし買うのもありだと思うが、どれもプレーンっぽいのでバターやジャムがないと味がしないかもしれない。せっかくなら美味しく食べたかった。
ただ、冷やかしだと思われるのもイヤなので、何か買ったほうがいいか。
味が想像できないことを不安に思いながら品定めに入った。
「ふんふん、どうしようかしら。さっきの店の方が美味しそうよね」
隣に見知らぬ女性が近づくのが目に入った。
片手で青りんごのような果物をかじりながら、同じパン屋で品定めしている。
「やっぱり、さっきの店にしよう」
彼女は閃いたように踵を返して歩いていった。
その迷いのない足取りは、こちらの選択にも影響を与えた。
たしかにここだけではないから、もう少し他の店も見てみよう。
買わないことを心苦しく思い、店主の女性に軽く会釈をして離れることにした。
日本なら冷ややかな視線の一つでも向けられそうな状況だが、彼女は不思議そうな顔をしてから手を振ってくれた。
買ってほしいとは思っていても、無理に買わせたいとは思っていないのかもしれない。いずれにしても良心的だ。
さっきの女性を追うつもりはなかったものの、彼女が目ぼしい店を見つけて何かを買うところを見かけた。
ホットサンドとパニーニを足して二分割したような、日本語なら○○サンドと命名されそうな食べ物が手渡される。ハムとチーズみたいなものが挟まっているのが見えた。
「……美味そうだ」
店の中にかまどの類はないのに、食べ物は温まっているように見える。
もしかしたら、店主は火の魔術で加熱しているのかもしれない。
俺は店の前に行き、彼女と同じものを買いたいと伝えた。
「すまねえな。そこの姉ちゃんので最後の一つだ。今日は大繁盛でもう店じまいだ。よかったら、また違う日に来てくれよ」
店主のおじさんはにっこりとスマイルをサービスしてくれた。
気のいい店主なので、余計にここで買いたかったと思わされた。
「……無念なり」
口から諦めの言葉がこぼれると、それに応じるように腹が鳴った。
「もしかして、おなか空いてるの? よかったら半分あげる」
「いやいや、さすがに悪い――」
先ほどの女性が店の近くにいて、こちらに話しかけてきた。
彼女の正面に向き直った時、身体の奥で電気のようなしびれる感覚があった。
一つに束ねられた明るい栗色の髪、光をたたえるような大きな瞳。
白く透き通るような肌に細く尖った長めの耳。
「ああっ、エルフ……」
「そうだけど、エルフはそんなに珍しくないわよね」
彼女は戸惑うような表情をしながら苦笑いした。
それを見て、思わず言葉が漏れていたことに気づく。
「あれっ? あなた、もしかして……」
「えっと、何か?」
彼女の反応をどう捉えていいのか分からなかった。
こちらでの交友関係はそこまで広くなく、彼女とは初対面のはずだ。
「とりあえず、食べながら話しましょう」
きれいに半分に割られた謎サンドを手渡された。
まだ熱が残りとても美味しそうに見える。
「ああっ、ありがとう」
彼女が歩き出すのを見て隣に並んだ。
「それで、どうして俺のことを知ってるの?」
「エルフの長(おさ)の代理人にあなたを探してこいって頼まれてるの。それで今は栄養補給中だったってわけ。とにかく手間が省けて助かったわ。私はリサ。よろしくね」
彼女はそういって、美しい横顔で微笑んだ。
思わず見惚れるような表情だった。
「俺はカナタ、こちらこそよろしく」
リサが食べ始めていたので、俺も謎サンドを口に含んだ。
ハムとチーズが食べやすい食感で、この二つが適度な塩気を加えていた。
そして、不思議と甘く感じるような気がした。
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