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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―

美しい星空と夜の見張り

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 俺とエルネス、リサは焚き火を囲んで会話を続けた。
 少しずつ夜は更けていき、上空の星々がはっきりと輝いていた。

「ところで、夜の見張りはどうしましょうか。カナタさん一人ではむずかしいと思うので、リサと僕のどちらが先に見張りをするかを決めましょう」

 話の途中でエルネスがかしこまった態度で口を開いた。
 危険な森の中で見張りの順番は重要だと思う。

「たしかにそうね。しっかり休まないとフォンスまでもたないもの」

 大森林初心者に入りこめる余地はなく、二人が話し合うのを聞くばかりだった。
 俺は自分の順番が決まるのを彼らに任せることにした。

 それから順番が決まって、最初にエルネスが見張りをすることになった。
 話の流れとしては、夜の遅い時間帯ほどリサのように森に慣れた人物が警戒に当たった方がいいという結論だった。

「それでは、リサとカナタさんはしばらく休んでいてください」

 エルネスはそういって、俺たちをテントの中に入らせてくれた。

 レディーファーストを意識しているわけではないが、リサに先に入ってもらい、それから自分が中に入った。入り口が手狭なので少し手間取ってしまった。

 オイル式と思しきランタンが吊られて、テントの中は明かりが確保されている。
 俺たちは身体が近づきすぎないように左右の端に寄っていた。

「……これ、初めて使うけど、ちょっと狭いわね」
「うん、たしかに」

 足元には厚手の絨毯のようなものが敷かれ、身体にかけるためのゴワゴワした布地のブランケットが用意されている。森の夜は少し冷えるが、何もないよりはずいぶん温かいはずだ。それに寝袋で外にいれば命がいくつあっても足りないだろう。

 ホテルに泊まるわけではないので、多少の不便は了承済みだった。
 自然体験にでも来たと思えばそこまで苦にならない。

「自分の順番になった時、交代できるように休んでおくわ」
「俺も休んでおかないと」

 リサはブランケットを羽織り、背中を向けた状態で横になっていた。
 俺は座ったまま仮眠して、熟睡してしまうのを防ぐことにした。
 
 最初にエルネスが見張りをして、彼の集中力が落ちそうになる前に俺が加わって二人体制で見張りをする。俺はエルネスとリサが交代するまでを担うわけなので、一人だけ持ち時間が短いということになる。

 二人に負担をかけてばかりで心苦しいが、途中で倒れたりしたらさらに迷惑をかけてしまう。自分が為すべきことはフォンスまで無事にたどり着くことだ。
 何が起きるか分からない未知の領域で、根性論や自己犠牲は却って必要のないリスクにつながってしまうだろう。彼らの意見を聞き入れる柔軟さが重要だ。

 敷物があっても地面におうとつがあるせいか、なかなか眠れそうになかった。
 顔が見えないので眠ったのか分からないが、リサは少し前から静かにしている。
 
 彼女を見習って身体を休めようと思い、ブランケットを羽織って目を閉じた。
 眠れそうにはなくても、こうするだけで緊張した頭と身体が休まる気がした。
 
 俺は二時間ほど休憩してから外に出た。
 もう少し休んだところでエルネスは何もいわないだろうが、彼の負担を少しでも減らしたいという思いがあった。

 テントから少し離れたところで焚き火が勢いよく燃えていた。
 エルネスは腰を下ろしたまま、何をするでもなく虚空を見つめている。

「エルネス、俺も見張りをしますよ」
「ああっ、カナタさん。もう少し休んでいてもよかったのに」
 
 彼はこちらをいたわるように言った。
 ささいなことかもしれないが、その親切がありがたかった。

「何でもかんでも任せるのは悪いですから」

 こんな森の中では、ウィリデの時のように客人扱いしなくてもかまわないはずだ。
 
 もしかしたら、あのまま街の中だけで生活していたら、皆の厚意に甘えて緩みきった生活をしていたのではないかと思うと、裸の王様のような感じがした。
 日本にいる時に俺がしたことといえば、村川にお金を払って防護服の購入を支援した――それだけのことだった。村川の功績に便乗してこの世界を満喫しているだけなのかもしれない。

「……カナタさん、どうしました?」
「いえ、なんでもないです。ちょっと考え事を」
 
 ふと気がつくと、心ここにあらずな状態になっていた。
 多少は移動の疲れも関係しているのだろう。

「こうして炎を眺めていると、ぼんやりしてしまうのかもしれません」
「たしかにそれはありそうですね」

 夜も深まってきて、エルネスは口数が少なくなっている。
 俺自身も何かを話さなければいけないというわけでもなかった。

 彼とは依頼をこなしたり、魔術の修練に付き合ってもらったりする中で、信頼関係と呼べそうなものを築けた気がする。年齢が離れていても師匠というよりも友人に近い印象を持っていた。

 無言のまま夜の森に身を置いていると、木々のざわめきが、何かの鳴き声が、風の吹き抜ける音が、幻想的な空間を作り出しているように思えた。周囲を警戒しなければいけないものの、上手く言い表せない安らげるような感覚があった。

「……あっ、星がすごくきれいだ」
「エルフの伝承では星は願いの数だけ、夜空に浮かび上がると言われています。ウィリデ、フォンス、カルマン、いくつもの国の人たちが願ったからこそ、あれだけの数になるのかもしれません」
 
 エルネスは静かに落ち着いた様子でいった。
 彼の言葉が胸の中にそっと響いていた。

「……願い」

 彼が教えてくれた伝承はとても美しく聞こえた。
 
 個人的には移動中の野営というより、キャンプに近いような感覚を抱いていた。
 周囲の様子に気を配っていたが、何かが近づくような気配もなく、マナクイバナのような脅威にさらされることもなかった。

 エルネスと焚き火を囲みながら時間を過ごすうちに夜も更けていった。
 美しい夜空をいつまでも眺めていたいと思った。 
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