64 / 237
はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
大森林を突破せよ
しおりを挟む
オオコウモリを撃退してから脅威が訪れる様子はなかった。
エルネスが打ち明けた話は深刻な内容だったので重く受け止めた。
転移装置が生物に悪影響を与えているのなら対策が必要で、作った本人――つまり村川に話をしておくべきだろう。
エルネスとはしばらく焚き火の近くで見張りをしていたが、彼がいつもどおりの様子に戻ってくれたおかげでそこまで気まずい思いをせずに済んだ。
見張りは、俺→エルネス→リサという順番だったので、もともとエルネスの番になるはずだったあたりでテントに行くことにした。夜の気配は濃く、日の出まではずいぶん時間がかかりそうだ。
テントの前に行って入り口を開けて中に入ると、右側でリサが横になっていた。
彼女を起こしてしまわぬように物音を立てないよう注意する。
今回は馬車の荷台に荷物を置かせてもらえたので、中のスペースが少し広い。
この前と同じように上にはランタンが吊り下がっている。
森の中にいた時ほど冷えを感じないので、ブランケットは使わなくてもいい。
俺はリサと反対側で横になった。
オオコウモリの相手をしたり、エルネスから難しい話を聞いたりしたせいか、目が冴えてしまってすぐに寝付けそうになかった。
それでも疲れを取りたいので、目を閉じて身体を休めることにした。
エルネスがいても気にすることはないのに、リサがいると緊張を覚えてしまう。
年頃の男女が眠るには少し窮屈なスペースに感じた。
リサはすでに眠っているはずだが、いびきや寝息が聞こえてこない。
この距離で相手が起きているのなら、なかなかに気まずい距離感だ。
寝つけない状態のまま、何分か経過していた。
俺は眠ることをあきらめて、横になったまま身体だけでも休めることにした。
目を閉じたまま、取りとめもないことを考えていると声が聞こえた。
「――ねえ、起きてる?」
「……リサ、何だか眠れなくて」
「大変なことになってるから、何だか怖くなってきたわ」
彼女のしおらしい言葉に驚きを覚えた。
「誰だって戦争になりそうなら怖いもんだよ。それは普通のことさ」
「カナタはウィリデの人じゃないから、帰ってしまうの?」
「……わからない。でも、できる限りのことはしようと思ってる」
それからリサの言葉はなかった。
しばらくすると、寝息のようなものが聞こえてきた。
俺も徐々に眠気を感じるようになっていた。
少しずつ意識が遠のき、身体の力が抜けていった。
それから目が覚めると、テントの外が明るくなっていた。
ランタンの灯りは落とされている。
マットレスのようなものが敷いてあるわけではないので、寝起きの身体は少しこわばる感じがする。
リサはすでに起きたようで、彼女のいた場所には何もない。
俺はゆっくりと立ち上がって、テントの外に出た。
うっすらと雲が浮かんではいるが、気持ちのいい朝日が差し込んでいる。
馬車の方に歩いていくと、吹き抜けていく風は涼しくてさわやかだった。
焚き火は消火されており、燃えかすなども片付けられている。
そのまま進むと、トマスが馬を撫でているのが目に入った。
丁寧で優しい手つきをしている。
「トマス、おはよう」
「おはよう、目が覚めたのか」
彼は少し眠たそうな顔をしていた。
旅先で剃るのは手間なようで、金色の口ひげがさらに濃くなった気がする。
「よく眠れたから、だいぶ疲れが取れた気がするよ」
「あんまり無理するな。こんな状況じゃ、みんな自分のことで手一杯だ」
「ああっ、ありがとう。なるべく気をつけるよ」
俺はトマスに礼をいってその場を離れた。
荷台の裏側に行くと、エルネスが荷物を積んでいる最中だった。
「エルネス、おはようございます」
「おはようございます」
彼はにこやかな表情であいさつを返してくれた。
とりあえず、昨日の一件が尾を引いていないようでよかった。
「……そういえば、リサはどこですか?」
「馬の傷口につける薬草を取りに行っています。さほど遠くではないそうなので、すぐに戻ってくるでしょう」
エルネスの言葉で馬がオオコウモリに噛みつかれたことを思い出した。
ケガを被った馬が気の毒だし、今は万全に動けないと困ってしまう。
何か治療が施せるなら賢明な判断だと思った。
俺は荷台に置いておいた荷物を確認してから、そのまま出発の時間を待った。
それからしばらくすると、片手に草の束を握ったリサが戻ってきた。
「みんなもう出れそうなのね。ちょっと待っててもらえる」
なにか手伝えることはないかと思い、馬の近くへ移動した。
リサは両手で草の葉を握りつぶして、ペースト状になったものを馬の傷口があった場所に塗り込んだ。
「助かったぜ。大事な馬だからな。森のエルフの知恵ってやつか」
「……ええ、そんなところね」
トマスは素直に感謝しているように見えた。
リサは役に立てて少し照れくさそうにしている。
「それじゃあ、出発しよう。三人とも荷台に乗ってくれ」
「ああっ、わかった」
トマスは御者台へつき、俺たちは荷台に乗りこんだ。
馬に鞭を入れる音が聞こえた後、ゆっくりと馬車が動き出した。
「トマスの話では、途中までの進み具合で行程を変えるそうです」
エルネスがおもむろに口を開いた。
「そうですね、順調に進むといいんですけど」
「ウィリデ側に抜ける前に日が暮れたら、メルディスに寄ればいいわ」
エルフの二人は普通に会話するぐらいの元気があるようで安心した。
二人とも弱気な素振りを見せていたので、しばらく心配していた。
馬車は順調に進み、いよいよ大森林が目前に迫ってきた。
不測の事態に備えて、魔術がいつでも使えるようにしておこう。
――全身を流れるマナに意識を向ける。
ここ数日はそこまでたくさんの魔術は使っていないので、感覚は良好だった。
今の様子なら、突発的なことが起きても問題ないはずだ。
エルネスが打ち明けた話は深刻な内容だったので重く受け止めた。
転移装置が生物に悪影響を与えているのなら対策が必要で、作った本人――つまり村川に話をしておくべきだろう。
エルネスとはしばらく焚き火の近くで見張りをしていたが、彼がいつもどおりの様子に戻ってくれたおかげでそこまで気まずい思いをせずに済んだ。
見張りは、俺→エルネス→リサという順番だったので、もともとエルネスの番になるはずだったあたりでテントに行くことにした。夜の気配は濃く、日の出まではずいぶん時間がかかりそうだ。
テントの前に行って入り口を開けて中に入ると、右側でリサが横になっていた。
彼女を起こしてしまわぬように物音を立てないよう注意する。
今回は馬車の荷台に荷物を置かせてもらえたので、中のスペースが少し広い。
この前と同じように上にはランタンが吊り下がっている。
森の中にいた時ほど冷えを感じないので、ブランケットは使わなくてもいい。
俺はリサと反対側で横になった。
オオコウモリの相手をしたり、エルネスから難しい話を聞いたりしたせいか、目が冴えてしまってすぐに寝付けそうになかった。
それでも疲れを取りたいので、目を閉じて身体を休めることにした。
エルネスがいても気にすることはないのに、リサがいると緊張を覚えてしまう。
年頃の男女が眠るには少し窮屈なスペースに感じた。
リサはすでに眠っているはずだが、いびきや寝息が聞こえてこない。
この距離で相手が起きているのなら、なかなかに気まずい距離感だ。
寝つけない状態のまま、何分か経過していた。
俺は眠ることをあきらめて、横になったまま身体だけでも休めることにした。
目を閉じたまま、取りとめもないことを考えていると声が聞こえた。
「――ねえ、起きてる?」
「……リサ、何だか眠れなくて」
「大変なことになってるから、何だか怖くなってきたわ」
彼女のしおらしい言葉に驚きを覚えた。
「誰だって戦争になりそうなら怖いもんだよ。それは普通のことさ」
「カナタはウィリデの人じゃないから、帰ってしまうの?」
「……わからない。でも、できる限りのことはしようと思ってる」
それからリサの言葉はなかった。
しばらくすると、寝息のようなものが聞こえてきた。
俺も徐々に眠気を感じるようになっていた。
少しずつ意識が遠のき、身体の力が抜けていった。
それから目が覚めると、テントの外が明るくなっていた。
ランタンの灯りは落とされている。
マットレスのようなものが敷いてあるわけではないので、寝起きの身体は少しこわばる感じがする。
リサはすでに起きたようで、彼女のいた場所には何もない。
俺はゆっくりと立ち上がって、テントの外に出た。
うっすらと雲が浮かんではいるが、気持ちのいい朝日が差し込んでいる。
馬車の方に歩いていくと、吹き抜けていく風は涼しくてさわやかだった。
焚き火は消火されており、燃えかすなども片付けられている。
そのまま進むと、トマスが馬を撫でているのが目に入った。
丁寧で優しい手つきをしている。
「トマス、おはよう」
「おはよう、目が覚めたのか」
彼は少し眠たそうな顔をしていた。
旅先で剃るのは手間なようで、金色の口ひげがさらに濃くなった気がする。
「よく眠れたから、だいぶ疲れが取れた気がするよ」
「あんまり無理するな。こんな状況じゃ、みんな自分のことで手一杯だ」
「ああっ、ありがとう。なるべく気をつけるよ」
俺はトマスに礼をいってその場を離れた。
荷台の裏側に行くと、エルネスが荷物を積んでいる最中だった。
「エルネス、おはようございます」
「おはようございます」
彼はにこやかな表情であいさつを返してくれた。
とりあえず、昨日の一件が尾を引いていないようでよかった。
「……そういえば、リサはどこですか?」
「馬の傷口につける薬草を取りに行っています。さほど遠くではないそうなので、すぐに戻ってくるでしょう」
エルネスの言葉で馬がオオコウモリに噛みつかれたことを思い出した。
ケガを被った馬が気の毒だし、今は万全に動けないと困ってしまう。
何か治療が施せるなら賢明な判断だと思った。
俺は荷台に置いておいた荷物を確認してから、そのまま出発の時間を待った。
それからしばらくすると、片手に草の束を握ったリサが戻ってきた。
「みんなもう出れそうなのね。ちょっと待っててもらえる」
なにか手伝えることはないかと思い、馬の近くへ移動した。
リサは両手で草の葉を握りつぶして、ペースト状になったものを馬の傷口があった場所に塗り込んだ。
「助かったぜ。大事な馬だからな。森のエルフの知恵ってやつか」
「……ええ、そんなところね」
トマスは素直に感謝しているように見えた。
リサは役に立てて少し照れくさそうにしている。
「それじゃあ、出発しよう。三人とも荷台に乗ってくれ」
「ああっ、わかった」
トマスは御者台へつき、俺たちは荷台に乗りこんだ。
馬に鞭を入れる音が聞こえた後、ゆっくりと馬車が動き出した。
「トマスの話では、途中までの進み具合で行程を変えるそうです」
エルネスがおもむろに口を開いた。
「そうですね、順調に進むといいんですけど」
「ウィリデ側に抜ける前に日が暮れたら、メルディスに寄ればいいわ」
エルフの二人は普通に会話するぐらいの元気があるようで安心した。
二人とも弱気な素振りを見せていたので、しばらく心配していた。
馬車は順調に進み、いよいよ大森林が目前に迫ってきた。
不測の事態に備えて、魔術がいつでも使えるようにしておこう。
――全身を流れるマナに意識を向ける。
ここ数日はそこまでたくさんの魔術は使っていないので、感覚は良好だった。
今の様子なら、突発的なことが起きても問題ないはずだ。
1
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる