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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

エルフで少女で魔術師 その1

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 二人は衛兵に見つからないように小走りで移動していた。
 レギナの街の景色が通り過ぎていく。

 周囲の人影は少なく、彼らの様子に気を留める者はいなかった。

「シモン、目立ちすぎな気はするが、なかなかやるな」
「いやいや、最初に腕に自信ありっていったじゃないですか」  
 
 シモンは軽い調子で答えた。
 クルトたちは衛兵が追ってこないのを確認して、足の運びを緩めた。

 彼らはレギナの中心部から離れた場所にいた。
 周囲には商店や食堂よりも住宅の方が多く見受けられる。

 フォンスに優れた産業はないものの、水資源という大きな金のなる木がある。
 そこから生まれる利益によって、フォンスにも裕福な市民が一部存在する。

 この一帯はそういった市民が多く居住する場所だった。

 郊外では平屋が基本で、街中でも二階建てまでが大半だったが、三階建てを超える大きな住宅がいくつか目に入る。

「いやまた、立派な家が多いもんで」
「ほとんどが水資源で儲けた者たちの家だろう。水路の整備だけでも大きな利益を生むからな」
「カルマンが攻めてきたら、こういう家はどうなるんですかね」
「破壊されるか、中の住人だけ追い出されて、建物だけ奪う……そんなところか」

 クルトは積極的に想像したくないことだと思ったが、十分に起こりうることだと考えた。

「あの子、何か用ですかね。こっちを見てますけど」
「……どうした?」

 シモンにいわれてクルトが視線を向けると、10代半ばから後半ぐらいに見える少女が立っていた。金色の髪と細く尖った耳で、彼女がエルフだと一目で分かった。 
 
「ねえ、ほら、こっちに近づいてきますよ」
「……シモン、もしかして、エルフに慣れていないのか?」

 シモンはその質問に答えず、看板を上下左右に動かして、不思議な動作をしている。

 ウィリデからフォンスにくるエルフはそう多くないので、シモンがエルフを見慣れていないとしても自然なことだった。

「……あの、5000レガルもらえるって本当?」

 少女は訝しそうな表情で二人に問いかけた。

「そうだな、一応、彼を倒せたらという条件付きだけれど」
「……うーん、それじゃ、勝負してください」
「おい、彼女がシモンに挑むって言ってる。何とかしてくれ」
「え、えっと、勝負、しましょう」

 先ほどの活躍が幻だったかのように、シモンはおかしくなっている。
 その様子を見て、クルトはかすかな不安を覚えた。

「わたし、魔術を使うので、街の中はちょっと……」
「それはかまわない。ちょうどいい場所があるから、そこに移動しよう」

 三人はその場を離れて歩き始めた。


 やがて、少し前にクルトとシモンが話し合っていた場所に到着した。

 以前は兵士の訓練に使われていたので、十分な広さがある。
 さらに巻きこんでしまいそうな市民が近くにいない点も重要だった。

「ここなら、障害物もないし、存分に魔術が使えるだろう」
「うん、ありがとう」

 彼女は準備万端なようで戦意を感じさせるような表情になっている。
 クルトは何気ない気持ちで、彼女の格好に目を向けた。
 
 半袖の衣服に丈の長いズボン。
 上下同系色で黄緑色を基調としている。

 肩まで伸びた金色の髪。全体的に細い体つき。
 知性を感じさせるような落ち着いた佇まいの少女だった。

 服装と雰囲気からして、クルトは彼女を森の民だと思った。

 それから、彼がシモンに視線を向けると、戦えるかどうか怪しい状態だった。
 視線が定まらず、向かい合うエルフの少女に目を向けられない。

 初心(うぶ)なようにも見えないが、一体どうしてしまったのだろう。
 クルトは時間を無駄にするつもりもなく、少女に攻撃していいと許可した。

 先ほどの様子なら何とかするだろうとクルトは考えた。

 それにこれぐらいの少女がシモンを傷つけられすはずがないと、高をくくるような気持ちもあった。特に意図のない自然な感情だ。

「……では、いきます」

 少女は右手をかかげたかと思うと、氷の刃のようなものを出現させてシモンに向けて放った。
 数える程度しか魔術を見たことがないクルトは、目を見張るような気持ちでそれを見つめた。

「――うわっ!?」

 シモンの反応は遅かったが、反射的な動作で横っ飛びにかわした。
 それを見た少女は第二射を用意していた。

「――まだまだ」
 
 手の平の先から同じように氷の刃が現れる。
 そして、その全てがシモンに向けて放たれていく。

「おっと、よっと……」

 シモンは再びどうにかかわしきった。
 しかし、どう見ても動きに余裕はなく、とても危なっかしい。

「かわされた……。それじゃあ、これでどう」

 少女は両手を頭上にかかげて、その先に大きな火の玉を発生させた。
 これが直撃したら一溜まりもないだろう。

 クルトはシモンの身を案じながら、少女が魔術師として優秀であることに希望を感じていた。

 ――これをあいつは避けきれるのか。

 彼はギリギリまで悩んだが、止めずに見守ることにした。
 そして、少女が両手を正面に下げると同時に火の玉が飛んでいった。

「うわっ!?」

 さすがに今度は避けきることができず、それはシモンに直撃した。
 破壊力抜群のようで、爆風で砂埃が周囲に巻き起こっている。

「おい、大丈夫か!?」

 クルトは心配になって呼びかけた。
 視界が晴れず、彼のところからシモンの姿が見えない。

「……いやー、びっくりした」

 クルトの心配をよそにのんびりとした声が聞こえてきた。
 どうやら、シモンは無事だったようだ。
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