90 / 237
揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

リーフマン襲来 その2

しおりを挟む
「あれ、リーフマンが死んでる」
「ヘレナも知ってるんだな」
「大森林にもいるから、でも今は昼間なのに変なの」

 シモンとヘレナの二人はこの奇妙な生物――彼の言葉通りならば魔物のことを知っているようだ。
 クルトは動かないことを確かめてから、全身を覆うたくさんの葉に触れた。

 何の変哲もない木の葉だった。
 彼が生まれ育ったレギナは都市化が進んでいるため、魔物の話は子どもを怖がらせる手段の一つに過ぎなかった。それぐらい現実的ではなかった。

 しかし、今彼の目の前で横たわっているのは魔物の一種だという。
 コダンにいたアーラキメラも、魔物のようなものだとクルトは振り返った。
 
「どうもどうも、この町の町長です。静養中のお客様の危険を助けていただいたそうでありがとうございます」

 三人がリーフマンについて話していると、メガネをかけて白髪をはやした身なりの整った男性がやってきた。クルトはその姿に見覚えがあった。

「町長、騎士のクルトです」
「おおっ、これはクルト様。クルト様がやられたのですか?」
「いや、僕ではなくて、共に旅をしている彼がやってくれました」

 クルトはシモンに視線を向けて説明した。
 シモンは大雑把な動きで町長に頭を下げた。
 
「これはリーフマンというそうですが、町によく出てますか?」
「いえ、湖の向こうの山にいると聞いたことはありましても、実物を見るのは生まれて初めてです」

 クルトは町長の話を聞きながら、頭の中で内容を整理していた。
 皆一様にリーフマンが出たことを珍しいと話している。

「幼い頃に、夜の山にはリーフマンが出るから入るなと聞いておりました」
「これまでに被害はなかったですか?」
「いえ、目立ったものは特に……。ただ、山で行方不明になったままの者がたまにおるのですが、そうなった場合の何割かはリーフマンに襲われたらしい……そんなような噂は耳にします」

 クルトは被害が出ているようなら、山に入って調べてもよいと考えていた。
 しかし、町長の話を聞く限りでは、具体的な被害はなさそうだった。

「時間に余裕があれば、あの山を調べに行くこともできるのですが、今回は急ぎの旅なので、すぐに手助けができなくて申し訳ありません」
「いえいえ、クルト様にそこまで言っていただくなんて、こちらこそ申し訳ないです。今回が特別なことだったので、町の者同士で警戒して対処するようにします」

 町長はにこにことした表情で深々と頭を下げた。

「ところで、今日の宿が決まっていなくてですね。よろしければどこか紹介して頂けますか?」
「ええ、かまいません。おすすめの宿をご紹介します」

 町長に先導されて、クルトたちはその場を後にした。
 リーフマンの遺骸は町の物で処分するという話だった。

 リーフマンの件があってから、クルトたちは町長に案内されて今日の宿に向かっているところだった。
 湖の近くを離れて、ビアンカの菓子店などがあった一帯を移動している。

 クルトは普段通りの様子を見せていたが、その心中では滅多に見られないはずの魔物が出てきたことへの警戒感が強まっていた。
 アーラキメラでさえ大騒ぎする出来事なのに、短期間にリーフマンという奇怪な魔物まで現れてしまった。
 
 クルトは己の預かり知らぬところで、何か好ましくないことが起きているのではという考えが浮かんでいた。当然ながらその根拠はなく、あくまで感覚的なものにすぎなかった。

 そんな彼の内面に誰も気づくことはなく、町長は一軒の建物の前で立ち止まった。
 ベージュの外壁に白い窓枠が印象に残る外観だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...