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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

祖国を想う者

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 一通り話を聞き終えてから、クルトの祖国への想いに感心した。
 
 典型的な日本人なので、俺は愛国心というものを深く実感したことがない。
 オリンピックやワールドカップがあれば自国のチームを応援するし、活躍すればそれなりに嬉しく思う。だが、それ以上に国を想うという感覚には距離がある。

 一市民でしかないので、政治が間違った方向に行きそうなので選挙に出馬しようなどとは思わない。気が向けば投票に行く程度だ。
 
 しかし、同じ部屋にいる若者、クルトは違った。
 彼は国を治める者たちの怠慢に疑問を持ち、戦って勝利した。

 とてもではないが、同じ真似はできない。
 命の保証はなく、社会的に葬られる恐れもあるだろう。

 彼はシモンという強力な味方の力を借りて、やってのけたのだ。

 そして、二人が起こした行動はこういったものだった。

 クルトはシモンと共に、水の宮殿にいる大臣や要職にある者を順番に訪ねた。
 それから、半ば強引に口を割らせようと力業に出た。

 人によっては、近衛兵を呼ばれたりして大変だったそうだが、そういった障害は全てシモンが払いのけた。もちろん、状況に応じてクルトも剣を振るったようだ。

 見方によっては武装蜂起、軍部の反乱みたいに見えるかもしれない。
 俺の記憶の限りでも、日本の歴史で似たような事例が思い当たる。

 しかし、内通者が判明して、フォンス弱体化を招いたことが明かされたようなので、結果オーライなところは多分にあると思う。
 それに当事者を捕らえるだけで処刑しないところは平和的だと感じた。

 歴史の定番の流れなら、その場で切り捨て御免というイメージがついて回る。
 シモンの腕前ならそれは簡単なことだろう。

 だが、クルトはそれをよしとしなかった。
 目的は私怨を晴らすことではなく、国を守ることなのだと感じた。


「――それで、これからどうなります? とりあえず、ウィリデからの援軍は来てもいいんですよね?」 

 室内には俺とエルネス、クルト、シモンの四人がいる。
 クルトの説明を受けてから、俺たちは話し合いを続けていた。

「ああっ、それでかまわない。君たちには手間をかけてしまうが、ウィリデへ戻って報告を頼む」
「わかりました。さっきの説明でも触れてましたけど、内通者の件が一段落して、フォンスの戦力は集まりそうですか?」
「正直なところ、十分とは言いがたい。カルマンとのつながりを信じない者もいるだろうから、話を通しやすい者を中心に集めることになるはずだ」

 たしかに、それならウィリデの援軍は必要になるだろうと思った。
 フォンスへ侵攻してくるのも時間の問題なので、あまり余裕もないのだろう。

「ある程度人員が集まったら、僕とシモンで前線に向かう。二人では無茶だったが、ある程度兵力が揃っていれば足止めもしやすい」
「追いつけるか分かりませんけど、援軍は前線に向かえばいいですか?」

 マナで強化された馬でなければ、後追いで合流するのはむずかしいと思った。
  
「危険に晒すことになるが、できればそうしてほしい」
「なるべく希望に添えるように報告します」

 その場の流れで、俺がクルトと話すようになっていた。
 堅苦しくて取っつきにくそうな印象だったが、普通に話せる相手だと分かった。
 
「こっちは数の部分で不利なので、よろしく頼みますよ」
「ええ、お任せください」
 
 シモンの投げかけにエルネスが答えた。
 話の切りがついたので、俺とエルネスは部屋を後にした。

「なかなか大変そうな状況ですね」
「追いつくためには、馬がたくさん必要でしょう。魔術部隊の馬はそこまでないので、先駆ける人員を選抜するようになると思います」
「地理に明るいって理由で俺たちが選ばれそうな気がします」

 俺たちが水の宮殿を出ると、馬を預けた衛兵が目に入った。
 厩舎のようなところにつれていったかと思いきや、そのまま移動せずに手綱を持っている。

「探す手間は省けるけど、けっこう適当だな」
「仕方がないですね」

 俺たちは馬を引き取ると、すぐにウィリデに向けて引き返した。
 連日の移動続きで疲れもあったが、乗馬中は集中力が必要なので気を張って手綱を握った。

 馬たちの無尽蔵なスタミナのおかげで、夕方前にはウィリデに着くことができた。

 だんだんルーティン化している気もするが、城壁前で馬を下りて手綱を引く。 
 そのまま二人で街中を歩いて、城の近くにある厩舎で馬を預ける。

 これで乗ったのは二回目なわけだが、少しずつ愛着が湧いてきた。
 白と灰色が混ざったような毛並みを撫でると、身体をすり寄せてくるところに愛着を覚えていた。

 それから、俺たちは城門前まで歩いてきた。 
 
「今回も僕が報告に行ってきます。移動が続いているので、どこかで休んでいてください」
「わかりました。それじゃあ、街中のテラス席があるカフェにいます」
「それでは、報告後に伝達事項があるかもしれないので、後から行きます」

 テラス席があるカフェはほとんどないので、エルネスに通じたようだった。
 俺たちは一度解散して、その場を離れた。

 城門前から街の中心部に向かって足を進める。
 エルネスは気を遣ってくれている部分もあるが、新参者が話し合いに参加しにくいとかもあるのだろうなと考えていた。

 堅苦しい言い方をするならば、軍事機密ということにもなるので、いくら客人扱いだったとしても、その辺りの線引きは当然のことだと思う。

 ちょっと疲れて、戦いばかりに意識が取られた日は、あのカフェのハーブティーが恋しくなってくる。
 もしかしたら、身体が疲労回復に薬草の成分を求めているのかもしれない。

 やや重く感じる身体を運びながら、行きつけのカフェinウィリデに到着した。
 遠くの夕景が目に入ったので、テラス席を選んだ。

「はぁ、疲れた疲れたと」

 サラリーマン時代も同じように息抜きと称してカフェで休憩したことはあった。
 しかし、今は必要とされて働いているので、それなりに充実している気がする。
 
「いらっしゃいませ。あら、異国の方。ご注文はいつもと同じで?」
「はい、いつものお茶でお願いします」
  
 注文してしばらくすると、カップに注がれたハーブティーが運ばれてきた。
 淹れたてでいつも通りの素敵な香りがした。

「あら、カナタ? また会ったわね」

 芳しい香りを楽しんでいると、聞き覚えのある声がした。
 顔を見るまでもなく、それがリサだとすぐに分かった。
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