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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

作戦決行 ―メリルVSオーク―

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 眠ったり起きたりを繰り返すうちに朝がきた。
 ベッドで横になったままでいると、メリルが起きる気配がした。

 さすがに異性のいる部屋で着替えることはなく、彼女は荷物を持って外に出ると、しばらくしてから戻ってきた。俺もその間に身支度を整えた。

 それから、メリルが話しかけてきた。 

「カナタさん、今日の作戦の再確認を」
「はいはい、どうぞ」
「わたしと仲間の一人でオークに襲いかかって、可能ならば息の根を止めます。ただ、殺害はいずれ露呈することなので、それを見越した上で解放の流れを他の地域へと広げていきます」

 彼女は細い眉と澄んだ瞳でこちらを見ていた。
 俺は頭の中で流れを理解して頷いた。

「ところで、モンスターは全体でどれぐらいの規模なの?」
「正直なところ全ては把握できていません。これまでに手に入った情報では、アルヒのように小規模な村には一、二体前後のモンスターが配置され、もっと規模の大きい町では、複数のモンスターが監視役をしているようです」

 敵の規模も分からないまま、作戦を決行するということか。
 思い切りが良すぎる点は不安に感じるが、彼女たちなりに準備を進めてきた可能性もある。通りがかった程度の身で安易に口を出すべきではないだろう。

 魔術があることで不測の事態に対応できる自負があるので、自分の身を守るだけならどうになると考えている。
 最悪の場合、卑怯ではあるものの、自分だけ風魔術で逃げ出すことも可能だ。

「まあ、だいたいのことは分かったかな」
「ご協力に感謝します。魔術師が味方なのは心強いです」

 メリルは初対面の時とは別人のように柔らかい表情を見せた。 
 期待をされすぎても困るが、魔術師が希少なら仕方のないことかもしれない。
 
 話に区切りがついてから、彼女のいれたお茶を飲んですごした。

 
 やがて、村の人たちが強制労働にかり出される時間になった。
 メリルが外の様子を気にし始めた。

「わたしは村の人間に紛れているので怪しまれません。決行のタイミングになったら呼びに来ます」

 彼女はそう言い残して部屋を出ていった。

 一人取り残された後、室内の沈黙が重く感じれられた。 
 カルマンとの戦いに比べれば危険度は低そうだが、村の人たちやメリルの悲壮感を知ったことで責任を感じる自分がいた。

「一人だけならどうにかなりそうだけど、支配された地域をまとめて解放していくのは、けっこう大変そうな気がするな」

 エルネスやシモンなどの強力な味方が今はいない。
 メリルの仲間に腕の立つ戦士がいなければ、自分が一番の実力者になる可能性すら考えられる。

 突然の出会いから、助っ人的な立場になってしまったことを後悔した。

「まあ、乗りかかった船だしできる限りのことはしよう」

 村の純朴な少年やメリルのことを思うと、手助けしないという選択肢は選ぶべきではないと思った。旅は道連れ世は情けか。

 
 しばらくして、扉をノックする音が聞こえた。
 慌てて扉を開くと、緊張した表情のメリルと男性がいた。

「彼は仲間の一人です。今から作戦を決行します」  
「それで俺はどこにいれば?」
「オークに見つからないように物陰から見ていてください」
「よし、わかった」
「わたしたちが討ち漏らしたり、返り討ちに遭うようなら、助力を頼みます」

 彼女たちは自分たちの手で決着をつけようとしているので、不要な手助けは控えておこう。とはいえ、危険な状況になれば助けるつもりだ。

 俺は二人に続いて部屋を後にした。

 村の中を小走りで移動する。
 途中で止まるように手で合図をされて立ち止まった。
  
 メリルたちの視線の先に、昨日見たばかりのオークがいた。
 
 黒い毛並みで小柄な相撲取りぐらいの体格をしている。
 リアルな着ぐるみのような奇妙な存在だった。

 武器は長槍のような物だけで他には見当たらない。
 言葉を話すことに加えて服を身に着けているので、それなりの知能があるのか。
 
 オーク単体に十人近い村人が従っているのが不思議に思えてしまう。
 あるいは、もっと前の段階で抵抗する意思をくじかれてしまったのか。

 込み入った事情は分からないが、作戦の決行は予定されている。
 並ばされた状態でうなだれた様子の村人たちを見ていると胸が痛んだ。

「――では、手筈通りに頼みます」

 メリルはそう投げかけると、飛び出すように走り出した。

 俺は死角に隠れたまま、二人がオークに向かって駆けていくのを見守った。
 
「んっ、なんだ?」

 オークは彼女たちの存在に気づいたものの、メリルの一撃が先手をとった。
 
 振りかぶった短めの剣が、太くて丸い首元に叩きつけられる。   
 こちらからはたしかな手応えがあったように見えた。

「――やった」

 メリルが声を上げ、仲間の男は構えを下げた。
 
「痛えええ、何してくれるんだ!?」

 オークの首元から血液が流れ出ているが、致命傷にはならなかったようだ。
 傷口に手を当てて、メリルたちを睨みつけている。

「……どうする、助けに行くべきか」

 いや、まだ早い。勝負はこれからだ。
 少し迷いがあったが、このまま見守ることにした。

 村人たちの方に目を向けると、怯えた様子で固まっている。

「許さねえ、このオレ様に刃向かったことを後悔させてやる」

 オークは怒りの感情をぶつけるように激しい勢いで槍を振り回した。

 腕力に物を言わせた攻撃で、二人は防ぐのがやっとだった。

 防戦一方のまま、すぐに男の方の剣が折れてしまった。
  
「――これはまずいぞ」

 男が無防備になった瞬間、メリルがかばうように踏み出した。

 二人がかりで防いだ攻撃を一人で受けている。
 これ以上は危険だ、助けに行かなければ。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 急いで魔術の発動を開始して、オークに向けて火の玉を放った。

「あぢいいい、なんだなんだ!?」

 オークが混乱して隙が生まれた。
 メリルは攻撃が止んだ瞬間に斬撃を放った。

 二度目の首元への攻撃は致命傷だったようで、オークはその場に倒れこんだ。

「ぐひひひ、魔王様に逆らってタダで済むと思うなよ……ぐふっ」

 オークは捨て台詞を吐いて絶命した。

「……魔王?」

 不吉なその響きに、得体の知れない不安を覚えた。
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