204 / 237
こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

偵察要員サスケ

しおりを挟む
 あまりの驚きに何を伝えるべきなのか分からなかった。

 闇に溶けそうな軽やかな濃紺の装束。侍のまげのようにまとめられた黒い髪。
 足元は地下足袋、腰には脇差を少し長くしたような刀を携えていた。

「……おぬし、こんなところで何をしている」

 男は敵意を隠すことなく、こちらを見据えている。
 同胞であることを疑いたくなるような攻撃的な空気を感じた。
 
「……そっちこそ、一体何者なんだ」

 俺たちが睨みあっていたところで、戦いを終えたオーウェンや他の仲間が近くを通りかかった。

「……サスケ、サスケではないか!」
「オーウェン殿、報告が遅くなった。ちょうど、森に潜伏していたところ、アナタたちが戦い始めたので加勢した」

 二人は顔見知りのようだった。

「この人を知ってるんですか」
「彼は我々の活動の中で偵察を担っている。ずっと帰還しなかったから万が一のことを考えていたが、戻ってこれてよかった」

 オーウェンは安堵したように柔らかな表情を浮かべた。

「オーウェン殿、敵陣の様相が把握できた。取り急ぎ報告したい」
「……わかった。早速聞かせてもらおう」

 サスケが切り出すとオーウェンは表情を固くした。

 重要な話のようなので、俺は二人から少し離れた位置に移動した。


 しばらくして、二人の話に区切りがついた。

 すぐに作戦を話し合うことになり、味方全員が集められた。 
 
「サスケが無事に帰還した。彼のおかげであの岩山がどうなっているか知ることができた」

 始まりの青の戦士にとって見知った仲間なようで、「おおっ、サスケが」という驚きと喜びの混ざる声がちらほら聞こえてきた。

「サスケ一人なら敵の要所を通り抜けられるが、我々の人数で隠密行動を取っていては効率が悪すぎる。彼が集めた情報を頼りながら、できる限り手薄なところを通過するようにしよう」

 オーウェンはそう提案して、作戦の話を始めた。

 彼が順を追って話を進めていくが、内容があまり頭に入ってこない。

 これが最終決戦で最も危険な戦いになる。
 それは十分理解しているつもりだ。

 ただ、サスケの存在を知ったことで、思考の整理が追いつかないままだった。

 日本からこの世界に来たのは、俺や村川だけだと考えていた。
 しかし、俺が生きる時代とは異なる時代の日本人がいる。

 忍者が存在するような時代の人が装置を発明できるとは思えないので、サスケがどうやってこの世界を訪れたのか疑問だった。

 ――あれだけこちらを警戒していては、身の上について話すことは期待できないだろう。

 どうにか頭を切り替えて、オーウェンの作戦に集中しようと試みた。


 オーウェンの説明が終わると誰もが口を閉ざし、重たい沈黙を感じた。

 彼の作戦では途中まで全員で進行した後、サスケが見つけた経路に限られた人数で岩山の中枢に侵入するということだ。
 
 ――なぜ、そんな危険な作戦を選ぶのか?
 それはサスケが敵の親玉である魔王を発見したからだ。

 以前、モンスターが魔王のことを口にしたものの、半信半疑のままだった。
 そして、彼の調査では魔王は実在するようだ。


 オーウェンは一通り話し終えてから、何かを考えるように目を閉じた。
 それから何秒かの間を置いて、意を決するように目を開いた。

「……魔王の懐に飛びこむ以上、危険は避けられない。人数を絞ればさらに危険は増すが、目立たぬようにするためにはそうする他ない。独断で決めさせてくれ」

 オーウェンの決意を前に、仲間たちは「はっ!」と声を上げた。

「まずはサスケ。それからリュートとエレン。あとは魔人を倒すほどの腕前を持つシモン。敵に魔術師がいた場合に備えてカナタも同行してくれ」

 自分の名前が呼ばれたことに驚きを覚えた。
 他にも精鋭がいるはずにもかかわらず、限られた人数に含まれている。

 選抜されること自体は誇らしいはずだが、気持ちの整理ができなかった。


 地に足のつかない状態のまま、出発の時がやってきた。

 他の仲間たちを眺めれば、決戦を前にして引き締まった表情をしている。
 自分は不安そうな顔をしているだろうと思うと情けない気持ちになった。

 やがて、これまでと同じように隊列を組み始めたので、慌てて列に加わった。

 言葉を発する者は皆無で、オーウェンが短く出発の合図をした。
 
 木々の間を縫うように進み、安全を確認するために時折立ち止まる。
 殲滅が成功して残存勢力はなく、俺たちの行軍を邪魔する存在はゼロだった。

 どこかで美しい鳥の鳴き声が響いたが、耳を澄ましている余裕はない。

 一歩、また一歩と慎重なペースで足を運ぶ。
 進むたびに死地に近づくと考えるだけで、冷や汗が垂れるような心地だった。

 頭の中で自分自身の心の声がぐるぐると渦を巻いている。

 ――危険な作戦に同行して生還できるのか。
 ――命を賭すだけの価値がある作戦なのか。

 ……その答えは分からない。

 成り行きに任せるように異世界で生活して、ささいなきっかけでメリルたちが暮らす世界にやってきた。ここはモンスターが支配する世界で、多くの市民が抑圧された日々を送っている。
  
 いつか、騎士クルトが祖国のために決死の覚悟を見せることがあった。
 またある時には、エルネスが魔術師としての誇りを示して戦うこともあった。

 暗闇に差しこむ淡い光のようにかすかな感覚だが、きっと自分は彼らに憧れて、そんなふうになりたいと願ったような気がした。

 それならば最後の戦いで全力を注ぐことこそ、その答えなのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...