218 / 237
こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

魔王との決戦

しおりを挟む
 シモンと魔王は牽制し合う状態が続き、互いに攻撃の機会を窺っているように見えた。武器同士の戦いではつけ入る隙が少ないが、剣と魔術の戦いなら援護できるかもしれない。

 俺は遠くからシモンを援護しようと考えた。

 あれだけの強力な攻撃魔術を防御できるか不安はあるが、シモン一人に重荷を背負わせるべきではないだろう。

 他の仲間も同じように考えたようで、魔王に近づき始めた。

「……かなりヤバそうな相手だな」
「すごい迫力です」
「リュート、エレン、気を引き締めていこう」

 オーウェンたちは武器を構えて、シモンの近くにたどり着いた。

 数人の戦士が迫るというのに、魔王は微動だにしなかった。

 隙だらけのように見えるが、やたらに魔術を放っていいものか迷ってしまう。
 敵の高い攻撃力を警戒する以上、慎重にならざるを得ない状況だった。

 このままでは攻めあぐねてしまう。
 かといって、先制攻撃に抵抗がある。

 俺が悩んでいると、シモンが弾丸のように飛び出して魔王に斬りかかった。

 流星のごとく接近したシモンは剣を一薙ぎして攻撃を繰り出した。

「……あれ、おかしいですね」

 間合いを取り直したシモンが不思議そうに言った。
 魔王に攻撃が当たったはずなのに変化が見られなかった。
  
 余裕を表しているのか、魔王は反撃をしてこない。

「シモン、手応えは?」
「たしかにありました。もしかすると、物理的な攻撃は効かないかもしれません」

 シモンはそう言い終えると、剣を鞘に納めて右手を掲げた。
 
 先ほどの戦いと同じように緑光の剣が浮かび上がった。
 さらに、その剣を掴んだ彼の周囲に淡い光が発生した。

 シモンの両手は緑色に変化して、魔人と同じようになっていた。

「カナタ、援護頼みますよ」
「うん、わかった」
 
 彼の頼みを承諾して、俺は魔王との距離を少し縮めた。

 敵の射程範囲は分からないが、あれだけ強力ならかわしようがないだろう。

 もしもの時は腹を括って防御するしかない。
 この戦いの決着をつけるしかないのだ。
 
 意を決してマナに意識を向けると、全身に力が湧いてくるような気がした。

 光の剣を手にしたシモンは魔王へさらに攻撃を加えようとしていた。

 再度、彼は弾丸のような勢いで魔王に攻撃を仕掛けた。
 あまりに速すぎて剣の動きが見えなかった。

 攻撃を終えたシモンは軽やかな身のこなしで魔王との間合いを取り直した。

 彼が言った通り、物理攻撃以外は効果があるようで、今度はダメージを与えられたようだった。

 魔王の身につけた甲冑に亀裂が走り、魔王は不意を突かれたようにその部分を触って確かめていた。傷をつけられたことに驚いているように見える。

 俺はシモンを援護しようと魔術を発動しようとしたが、先に魔王の反撃がきた。

 マナの奔流を感じた直後、少し前と同じように氷柱が降り注ぐ。

 シモンは跳躍力でかわしたが、今度はこちらにまで飛んできた。
 咄嗟に氷魔術で盾を作り、それを防御する。

 力が分散しているおかげで、どうにか防ぎきれそうだ。
 シモン以外の仲間は距離を取って回避できている。

 この状況では攻撃可能なのはシモンだけだった。
 ただ、彼の光の剣による攻撃だけでは大きなダメージを与えられそうにない。

 他に攻撃手段はないものかと考え始めたところで、頭上から大きな音がした。
 驚いて天井に目を向けると、その一部が崩れて落ちてきた。

「うわっ、危ない!」

 落石のように落下してくるがれきを必死でよけた。

「――なかなか危険な敵と戦っているようですね」

 とても懐かしく聞き覚えのある声だった。

「……エルネス」
「カナタさん、シモンだけに任せるのは申し訳なかったので、私も来ました」

 どうやってここまでと思ったが、天井にぽっかり空いた穴の向こうにいつかのドラゴンの姿があった。

「……なるほど」
「彼にここまで送ってもらいました」
「二人とも、感動の再会はそこまでで」

 シモンの呼びかけで現実に引き戻された。
 俺たちは強敵の魔王と対峙しているところだった。

「エルネス、何とかして魔術で攻撃したいです」
「分かりました。私が防御をするので、カナタさんは攻撃を」
「了解」

 オーウェンたちは魔王の魔術を防げないので前線には立たせられない。
 俺が視線で合図すると、彼らは後方に下がった。 
 
 感情を表さない魔王だったが、天井を打ち破られたことに驚き、あるいは怒りの感情を抱いているようだ。

 ただでさえ強い圧力がさらに強力になっている。
 それには明確な殺気がこめられていた。

「――マナの流れが、カナタさん来ますよ」
「はい!」

 今度は氷柱ではなく巨大な火球だった。
 無数の火球が勢いをつけてこちらに飛んでくる。

「こちらは準備万端。お任せあれ」

 エルネスは特大の氷魔術を発動して氷壁を発動した。
 炎の高熱で溶かされていくが、破られる気配はない。
  
「よしっ、今なら」

 エルネスが火球を防ぎ切ったところで、俺は前に踏み出した。
 マナを使い切らない程度に出力を上げて、雷魔術を発動する。

 シモンはすでに攻撃範囲を避けており、味方を巻きこむ心配はない。

「これでどうだ!」

 掲げた両手の先から迸る稲妻が飛び出していく。
 激しい稲光を発しながら、魔王に直撃した。

 玉座の周りには焦げるような煙が生じ、魔王の姿が見えなくなった。

「油断は禁物です」

 エルネスの制する声が聞こえた。
 たしかに一撃で倒せるほど脆くはないはずだ。

 煙が晴れてきたところで、再び前方からマナの流れを感じた。

「――エルネス」
「問題ありません」

 やはり、トドメは刺せなかったようだ。
 再び、巨大な火球が飛来してくる。

 今度もエルネスが氷壁で防御していた。

 攻撃が止んだところで魔王の姿を見ると健在だった。
 相変わらず、玉座から動く気配はない。

 ダメージは与えられそうだが、長期戦も覚悟しなければいけないようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...