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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

平凡なサラリーマンが異世界生活を満喫しながら勇者になりました その2

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「もうこれしか方法がないんです。ここであいつを倒さなければ、また被害が出てしまう」
「……そうですが、カナタさんの命が」
「大丈夫、死ぬほど力は使わないから」

 自分自身、そのつもりでいたはずなのに直感は別の事実を伝えた。
 
 ――そうか、この戦い方をしたら、死ぬかもしれないのか。

 死期を察した動物のように潔(いさぎよ)い感覚だった。
 身体がそれを拒絶しても、意識はやるしかないと後押しする。

 もう後戻りはできない。

「ダメです、ダメです……」
「ありがとう、エルネス。俺にしかできないんです。俺にしか」

 ここでたくさんの人のために命を使えるなら本望だ。 
 シモンの犠牲を目の当たりにした俺の……結論だった。

「そんな、そんなことが……」
「それじゃあ――」

 俺たちが話していると、再び魔女の攻撃が飛んできた。

 それはまるで地獄の業火だった。
 マナだけの防御ではとても足りないだろう。 

 俺はマナの残りと生命力を注いで、氷壁を発動した。
 今までで一番強力な防御魔術だった。 
   
「こんなことが可能になるなら、エルネスが止めに入るのも納得だな」

 マナだけが動力源の場合に比べると明らかに桁外れだった。
 代償と言わんばかりに心臓から何かを吸い取られるような虚脱感があった。

「魔女にトドメを刺したら、俺は……」

 そうだ、分かっている。分かっているとも。

 直感が、本能が、何度も強く主張した。

 それを実行すれば、お前は消えてしまうぞと。
 
 エルネスはいい人だった。
 魔術の師匠として、たくさんのことを教えてくれた。

 できれば、彼には生き残ってほしい。
 
 己の住む世界を捨てたような自分ではなく、彼のように純粋で高潔な人に。
 そう切実に思った。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 マナはほとんど空っぽだった。
 しかし、俺にはまだ生命力が残っている。

 今まで異世界で出会った人たちを思い返すと自然と力が湧いてきた。
 
 どうか、彼らが幸せでありますように――。

 やはり、限界を超えてしまっているようだ。
 自分が何をしているのか分からなくなってきた。

 それでも、かすかに残った感覚を頼りにして、視界に映った敵を討つ。

「――これで終わりだ」

 魔女に喰らいつくように迸る稲妻が走る。
 闇に覆われた異空間を打ち破るように雷鳴が轟いた。
 
 今度も過去最高の出来だった。
 これだけの威力なら結果を見るまでもない。

 視界の端でエルネスが駆け寄ってくるのが見えた。

「――カ……タ……ん」

 彼は悲しそうな表情でこちらを見つめていた。

 どうしてそんなに辛そうなのだろう。
 俺はこんなにも晴れやかな気分なのに。

「エルネス、平凡なサラリーマンだった俺にしてはよくやっただろ」

 バカだな、俺。
 彼に日本語が通じるはずないのに。

 何だか不思議な感覚だ。
 身体がすごく軽くて、何も感じない。

 そうだ、言わなくちゃいけないことがあるんだった。

「ありがとう、エルネス。俺に魔術を教えてくれて…………」
「カ……タ……さ……」

 エルネスの声がずいぶん遠くに感じた。

 ありがとう、俺は満足だから。

 ……ああっ、何が満足なんだったっけな。
 
 よく分からないけど、まあいいか。
 うん、きっと俺はやりきった。
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