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ドラゴンハンターの街タラスケスでお買い物がてら街を救う
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しおりを挟む祈りの効果は絶大だった。
下山中は一度もドラゴンに遭遇することなく――それどころか鳴き声すら聞こえないという徹底ぶり。この異常事態に、「お前は本当に女神に愛されているんだな」とシアには畏怖の眼差しを向けられる始末。
「コヤ様、何したの?」
『この山のエネルギーを少し利用させてもらっただけ』
ヴァレ山に巣くうドラゴンたちを、強制的に冬眠状態にしたらしい。
『おかげで静かになったでしょ』
「ドラゴンたちはもう目覚めないの?」
『ええ、アネーシャ。あなたが祈り続ける限り』
これでドラゴンによる周辺一帯の被害を未然に防ぐことができると、アネーシャは喜んだ。
大量の戦利品を抱えてヴァレ山を後あとにしたアネーシャたちは、ギルドの本部がある街――タラスケスを目指していた。そこでギルド長の面談を受けるよう、ウルスに言われたからだ。
「ウルスさんは先に向こうで待っていてくれるらしい」
「ウルスさん、ねぇ」
思わずニヤニヤしてしまうアネーシャを、「何だよ」とシアは軽く睨みつける。
「ずいぶんと仲良しだなぁって思って」
『ホント、嫉妬しちゃう』
「……悪いかよ」
「いーえ、全然」
『ぜんぜん』
下山すると一度宿場町へ戻って一泊し、そこで馬車を手配してもらった。
タラスケスまでの道のりは単調だが遠く、馬車に乗っても七日はかかる距離だった。
徒歩での移動も楽しいけれど、ゆっくり座って景色を眺められたら、それに越したことはない。『年寄りくさっ』というコヤのイヤミを華麗に聞き流しつつ、アネーシャは馬車の中で、ゆったりとした時間を楽しんでいた。
「そういえば、なんでウルスさんに本当のことを話さなかったんだ?」
不意に質問を投げかけられて、シアのほうを向く。
「正直に話したよ。巡礼の旅だって」
「肝心なところは省いてた」
「コヤ様のこと?」
「珍しく独りごとも言わなかった」
「それは……」
『恥ずかしかったのよね。彼に、変な女だと思われたくなかったから』
黙っててと慌ててコヤの口を塞ぐ。
「初対面の人に何でもかんでも話すわけないじゃない」
「あの人は信用できる」
「それはシアの意見でしょ」
あの僅かな時間で完全にシアの心を掴んでしまったウルスに、内心では感心しきりだった。
途中で立ち寄った町や村で地元料理に舌鼓を打ち、荷物にならない程度でお買い物を楽しむ、疲れたら宿屋に戻って眠り、おいしい朝食をたらふく食べて再び馬車に乗る、そんなことを繰り返しているうち、気づけばタラスケスに着いていた。
タラスケスは南部に位置する大きな街だ。ドラゴンハンター発祥の地として有名で、王国の領土ではあるものの、唯一ギルドによる自治権が認められた場所でもある。そのため、魔石やドラゴン素材を使用した武器や防具を作り出す工房が数多く存在し、工房を取り仕切る鍛冶職人たちが腕を競い合っていた。
またギルドの構成員であれば――特に命の危険に晒されるドラゴンハンターは、税金を免除されたり住宅手当が出たりと、様々な優遇処置を受けられるため、ここに移り住む者も少なくないという。
巨大な街門の前で馬車を降りと、徒歩で街に入った。
足を踏み入れてすぐ、美しい女性像がアネーシャたちを迎えてくれた。
この街のシンボルにもなっている、聖女タラの象だ。
大昔、この街で暴れていた巨大ドラゴンを聖女タラが祈りによって鎮め、眠らせて捕獲した。街は平和を取り戻しただけでなく、捕獲したドラゴンで富を得たそうだ。更には、ドラゴンの心臓を食すことで超人的な力が得られると、教え広めたのもタラだったらしい。
「正確にはコヤ様がそう言わせてたんだよね?」
『そうね』
「どんな人だったの? 聖女タラは」
『大人しいけれど芯のある子だった。聖女の鑑みたいな子よ』
それ以後もタラの導きによって、街はドラゴンの狩猟や討伐によって収入を得るようになり、独自の文化や生活基盤を築いていったという。
『ただ、ちょい悪イケメンに弱くてねぇ……あの子に貞節を守らせるの、大変だった』
「それって褒めてるの? 貶してるの?」
人々がごった返す商店街を通り過ぎ、角を曲がって大小の宿屋が軒を連ねる大通りに入る。
ギルド本部に比較的近い場所で宿を取ると、一旦荷物を置きに部屋に入った。
まだ日が高いので、早速出かける準備をする。
「お前は一緒に来ないのか?」
換金も兼ねて、これからギルドに向かうシアに戦利品を全て押し付けつつ、アネーシャは首を傾げた。
「だって私が行っても邪魔なだけでしょ?」
「またウルスさんに会えるんだぞ」
その言葉に思わず心が揺らぎかけたものの、
「今日中に良さそうな工房を見つけたいから、ごめん」
『そうよ。これから女同士で楽しい時間を過ごすんだから』
今度は小鳥の姿に化けたコヤが、頭の上で飛び跳ねている。
髪の毛がぼさぼさになるのでやめて欲しい。
「魔石でアミュレットでも作るのか?」
「ドラゴン避けにはならないけど……せっかくコヤ様が見つけてくれたし」
『指輪にするか首飾りにするか、迷うわね』
「コヤ様ったら、ブローチにするに決まってるでしょ」
そのほうがいざとなったら隠せるし、目立たないはず。
「シアの分も頼んでおいてあげる」
「そういうことなら、わかった。俺一人で行ってくる」
なぜか少し寂しげなシアを見送った後で、アネーシャも張り切って言う。
「私たちも出かけようか、コヤ様」
***
その頃、ギルド本部では、
「ヴァレ山のドラゴンが突然姿を消した? それは本当か?」
「情報源はあのウルス・ラグナだぞ。間違いない」
「その二人組の男女は一体何者なんだ?」
上層部の面々が顔を突き合わせ、険しい表情を浮かべていた。
「下級ハンターの報告では、上位種のドラゴンを一瞬で倒してしまったとか」
「ヴァレ山の件もその二人組の仕業だと? ありえんっ」
「だが町長の話では二人はコヤ教の信者で、密命を受けて派遣されたらしいと……」
「聖女が行方不明になっていることと何か関係があるのか?」
「ええいっ、今はそんなこどうでも良いっ」
「そうだな、問題の二人組はまもなくここへ来るというし」
「洗いざらい話してもらおう」
「誰に担当させる?」
「ウルス・ラグナ。彼ならば適任だ」
「名声だけでなく人望もある」
「それでよろしいですかな、ギルド長?」
上座の席に座り、黙って皆の話に耳を傾けていた老人は、笑みを浮かべてうなずく。
「ああ、それでいい。そうしよう」
…………
……
かくして、後日、ウルス・ラグナ率いる上級ハンターたちが、調査のためにヴァレ山に入ることとなる。まもなく睡眠状態にあるドラゴンを発見、難なく捕獲に成功した彼らだったが、その原因を突き止めることはできなかった。
ただ一人を除いては。
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