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ドラゴンハンターの街タラスケスでお買い物がてら街を救う

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 観光がてら街をうろついた後、アネーシャは目的の場所へと足を向けた。

 そんなアネーシャを、いつものごとくコヤがからかう。



『今日は元気いっぱいね。いつもならすぐ休憩したがるのに』

「そう、なんかじっとしていられなくて……魔石のおかげかな?」

『単に体力が付いてきたからじゃない?』



 ホント? とテンションが上がったのは一瞬のことで、



『神殿にいた頃はがりがりだったけど、最近じゃふっくらしてきたし』

「それって太ったっていうこと?」

『青白かった肌も、今じゃこんがり小麦色』

「……ヴァレ山に登ったせいで日焼けしたの」

『いいんじゃない? 健康的で』



 やっぱり褒めてるのか貶しているのか分からないと、アネーシャはふてくされた。



『そんなことより、どこの工房に依頼するか、決めたの?』

「……まだ」

『優柔不断なんだから。いい加減、早く決めなさいよ』



 大きな工房から小さな工房に至るまで、とにかく数が多く、職人や客層も様々で、アネーシャは「うーん」と頭を抱えた。とりあえず、中から怒鳴り声が聞こえる工房は外すとして、



「一通り見てみることにする」



 店頭に飾られた武器や防具、装飾品等を眺めながら、自分好みの工房を絞っていく。

 アネーシャ以外にも、店内には武器類を物色している若者ハンターが多くいた。



「おい、見ろよこれ。デッドノアの鱗でできた盾だと」

「これさえあればどんな火炎攻撃も防げるんだよな」

「かっけー、いくらすんだ?」

「その前に素材集めねぇと。上位装備は全部オーダーメイドだし」

「俺らのレベルで勝てるわけねぇべ」

「もっと人増やしてパーティ組むか?」

「そうだな、その手があった」

「十人くらい集めればなんとかなるだろ」

「できるだけ強そうな奴に声かけようぜ」

「だな」



 一方のアネーシャたちは、



「これ見て、コヤ様。日用品や雑貨にもドラゴン素材が使われてるんだって」

『丈夫で長持ちするからでしょ』

「でもこういうの、都にも売ってなかった」

『ドラゴン素材の加工って、ものすごく難しいのよ。よほど腕のいい職人でないと扱えないわ』

「そうなの? 知らなかった」



 ここでしか手に入らないと分かると、次第に物欲が沸いてきて、



「ちょうど防寒用の手袋が欲しかったんだよね。靴もずいぶん磨り減っちゃったし」

『アネーシャったら……工房を決めるのが先でしょ』



 そうだった。



「コヤ様はどこがいいと思う?」

『結局あたしに頼るんだから。しかたがないわね』



 コヤはまんざらでもない様子で言うと、小さな羽である店を指し示す。

 店構えは立派だが、中から怒鳴り声が聞こえている工房だ。



「えー、あそこの店?」

『昔気質だけど、腕は確かよ』

「でもなんか、店の人怒ってるっぽいし」

『怒ってわけじゃなくて地声よ。ただ声が大きくて早口なだけ』



 ビビってないでさっさと行けと急かされて、アネーシャはしぶしぶその工房へ向かう。



「いらっしゃいませ」



 受付をしている中年女性は優しそうで、ほっとした。



「この魔石を加工して、ブローチを作ってもらいたいんですが」



「まあ、こんなに大きな魔石、生まれて初めて見ましたわ。それに二つも。ちょっとそこでおかけになってお待ちください。今、主人を呼んで来ますから」



 お忙しいそうなので、わざわざ呼びに行かなくても結構ですと答える前に、女性は奥へと姿を消した。仕方なく、店頭に並んだ無骨な剣や防具をぼんやり眺める。



「なんかここ、デザインがあんまり可愛くない」

『この子はっ。さっきから文句ばっかり言って』



 頭を嘴でつつかれて、「いたっ」と涙目になる。



『武器や防具に可愛さを求めてどうするのよ。それでドラゴンを倒せるわけ?』

「可愛くないと、モチベーションを保てない」

『……アネーシャのくせに言うじゃない』



 そんなやりとりをしているうちに、受付の女性が戻ってきた。



「お待たせして申し訳ありません、お客様。主人のカーンです」



 そう、奥さんに紹介されて出てきたのは、筋肉ムキムキの職人だった。

 白髪まじりの強面で、やけに目力がある。



 彼はちらりとアネーシャの方を見ると、奥さんの顔に視線を戻して言った。



「いつまでに納品すればいいか、聞いてくれ」



 本人は小声のつもりなのだろうが、地声が大きいので丸聞こえだ。

 奥さんは慣れた様子でうなずき、アネーシャに優しく微笑みかける。



「と、主人が申しております」

「最短でどれくらいかかりますか?」



 工房では怒鳴り散らす親方も、どうやら接客業は苦手らしい。

 それでも仲睦まじい二人のやりとりに、胸がほっこりした。



「あと、できれば女性らしい……可愛らしいデザインにして欲しいんですが」



 親方の口もとがぴくりと動いた。

 細かな注文をして怒らせてしまったかなと気が気ではなかったが、



「デザインの件は妻と相談しますと言ってくれ」

「ご心配ならさず、わたくしが女性目線でしっかりアドバイス致しますから」



 実際にいくつか見本を見せてもらえたので、ほっとした。

 前金を払って、店をあとにする。



「出来上がりが楽しみだね」

『坊やの分まで同じデザインにしちゃっていいの?』

「大丈夫、シアなら何でも似合うから」

『そういう問題?』

「それにお揃いにしたほうが仲間っぽいでしょ?」

『ああ、なるほど。そーゆうこと』



 なぜか嬉しそうなコヤに、「変な意味はないからね」と補足する。



『変な意味ってどんな意味? お姉さん分かんなーい』



 ああ、これは面倒臭いヤツだと、アネーシャは早々に話題を変える。



「それよりお腹すいた。早く宿に戻ろう」 

『色気より食い気なの? アネーシャっ』



 
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