追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟

文字の大きさ
18 / 59
ドラゴンハンターの街タラスケスでお買い物がてら街を救う

18

しおりを挟む


 宿屋に戻って、報告がてらシアと一緒に夕食を摂るつもりだったのに、彼はいなかった。



「まだギルドから戻ってきてないみたい」

『登録と買取だけにしては、ずいぶんと長引いてるわね』

「何かあったのかな」

『あの子なら心配いらないわ。アネーシャよりしっかりしてるもの』

「そうだね。ウルス・ラグナさんに会って、時間を忘れてるだけかもしれないし」



 仕方なく先に食堂へ行って、ご飯を食べることにする。店内は常連客や観光客で混んでいたものの、運良く隅のほうの席が空いていたのでいそいそと座った。店員を呼んで、宿泊客用の食事をお願いする。



 タラスケスで食べる初めての食事、一体何が出てくるのかと、アネーシャはわくわくしていた。



「すり潰した豆のスープと肉料理、フルーツサラダに野菜の揚げ物――盛りだくさんだね」



 料理はアツアツでおいしく、空腹だったせいか、瞬く間に平らげてしまう。

 食後のお茶をすすりながら「そういえば」とアネーシャは口を開いた。



「このお肉、何の肉だったのかな。噛みごたえがあって、すごくおいしかったんだけど」

『そりゃあなた、ドラゴンの肉に決まってるじゃないの』



 思わずぶっとお茶を吹き出してしまいそうになる。



「げっ、嘘でしょ」

『何よその言い方。本来ドラゴンのお肉は高級品なのよ。タラスケスだから安く食べられるのに』

「そうなの?」

『周りをよく見なさい。皆がつがつ食べてるじゃないの』



 言われてみれば、確かに。

 特に観光客らしい人達が、目の色を変えて肉に食らいついている。



『ドラゴン専門の食肉業者があるのはこの街くらいなものよ』

「それで地元の人達は安く食べられるんだね」



 その上、ドラゴンの肉には精力増強、疲労回復効果があるというから驚いた。

 ドラゴンの肉を食べたことで子宝に恵まれた夫婦も少なくないという。



「だったらお代わりしようかな」

『夜、眠れなくなっても知らないわよ』



 意味深な口調で言われて、それは困るとお代わりは断念する。



「そういえばシア、まだ戻ってこないね」

『話が長引いてるんじゃない?』

「話って?」

『あの様子じゃ、あの男に何もかも話してるでしょうし』

「コヤ様、さっきから何のこと言ってるの?」

『鈍いわねぇ、もうっ』



 そろそろ部屋に引き上げようかという時になって、ようやくシアが姿を現した。

 アネーシャが手を上げて居場所を知らせると、まっすぐこちらへ向かってくる。



 やけに決まり悪そうな顔をしているので、



「もしかしてダメだったの? 面談」

「いや、ハンター登録はしてきた」



 そう言ってギルドカード――ギルドが発行する身分証明書のようなもので、ハンターの名前やランク、討伐したドラゴンの種類や頭数などが記載される――を見せてくれる。Bランクからのスタートだが、既にAランク程度の実力はあると、ウルスに太鼓判を押されたらしい。ちなみに通常はFランクからのスタートだとか。



「すごいじゃない」

『まあ当然の結果ね』

「もっと嬉しそうにすればいいのに」



 向かい側の席に腰を下ろすと、シアは観念したように口を開く



「悪い、アネーシャ。ウルスさんに話しちまった」



 何のことだと首を傾げる。



「お前が聖女だってこと」











 ***













 とりあえずシアが食事を済ませるのを待って、アネーシャは口を開いた。



「なんでウルスさんに話したの?」



 詰問口調にならないよう気をつけたつもりだが、シアはびくっと肩を震わせた。

 上目遣いで様子を伺うように見る。



『アネーシャがこわーい』



 横から茶々を入れられて、今はそんな気分ではないと、キっと睨みつける。



「コヤ様は黙ってて」



 まもなく、シアはぽつりと答えた。



「……訊かれたんだ」

「訊かれたって何を?」

「神殿から聖女を誘拐したのはお前か、って」



 まさかそんな事態になっていたとは知らず、



「マイア様が誘拐された? 本当なの、コヤ様」

『あの小娘はビビって逃げただけよ。今は王宮で匿われているわ」

「どうしてそんなことに」



 単純な話だとコヤは言う。



『あの子にアネーシャの代わりは務まらなかった。それで信者たちが金を返せと怒り出したの。または、本物の聖女を出せ、ってね』



 彼らの怒りを鎮めるために、コヤ教の聖職者たちは必死だったらしく、とんでもない言い訳をした。



 今現在、本物の聖女は行方不明になっている、誘拐された可能性が高く、神殿側も聖女を取り戻すべく手を尽くしているが、聖女は見つからない。ゆえに皆にも力を貸して欲しいと。



『今頃、コヤ教の信者たちは血眼になってあなたを探してるはずよ』

「……私が追い出された時、誰も引き止めてくれなかったのに?」

『今さら戻ってこいと言われてももう遅いっ――ってやつね』



 事情は理解できたので、あらためてシアに向き直る。



「それでシアは何て答えたの?」

「……違うって」

「それから?」



 半ば強引に聞き出した結果、シアは全てをウルスに話してしまったようだ。

 自分が邪神教の信者――元暗殺者であったことも含めて。 



「信じられない」 

「ちゃんと口止めはした。言ったろ? あの人は信用できる」

「でもギルド長には話してるよね」

「だとしても、情報を外部に漏らすようなことはしないはずだ」



 できればその言葉を信じたいが、



『心配しなくていいわ、アネーシャ。ギルドは聖女タラにでっかい借りがあるんだから。あなたのことも守ってくれるわよ』



 それもそうかと、不安が一気に吹き飛んだ。



「じゃあ、この話は終りね。話したらお腹すいちゃった」

『ちょっと、まだ食べる気?』

「次は甘いものにしよっと……シアも食べる?」

「ああ」



 ちらちらとアネーシャの顔色を伺いつつも、彼はほっとしたようだ。



「このドラゴンテールゼリーっておいしいのかな?」

『亀ゼリーみたいな感じよ』

「いや、亀ゼリーなんて食べたことないし」

「試しに注文すればいい。無理そうだったら俺が食うから」



 秘密をばらしたことを後ろめたく思っているのか、珍しくシアが気を遣ってくる。



『やだ、嬉しっ』

「コヤ様に言ったわけじゃないと思うよ」



 こうして三人の夜は更けていく。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...