追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟

文字の大きさ
42 / 59
保養地ククシル湖で旅の疲れを癒そう

42

しおりを挟む


「ジェミナ、ドラゴンのお肉食べないの?」

「うん、実は苦手なんだよね、ドラゴンの肉……」



 言いながら気まずそうに視線を逸らし、ため息をついている。



「さっきはごめん。逃げたりして」

「こっちこそ訳のわからないことやらせてごめんね」

「実はまだ混乱してる。ソル・サウラに憑依されてたとか言われても、実感なくて」

「記憶がないんだから仕方ないよ」

「僕……こんなんでアネーシャを守れるのかな」



 昨日今日で色々なことが起きた――人知を超えた出来事を体験したのだ。

 不安を感じるのも無理はない。



 私のことは気にしないでとアネーシャが口にする前に、



「アネーシャを守るのは俺だ。お前の力なんかいらない」



 刺々しい口調でシアが会話に割り込んでくる。



 ジェミナは勝気な目でちらりと彼を見ると、笑顔で返した。



「もちろん君の仕事を奪う気はないよ。けどアネーシャは僕にとっても大切な人だから」

「アネーシャは聖女だ。既に大切にされている。お前が現れる前から」

「やけに突っかかるね。そんなに僕のことが気に食わない?」

「ああ、気に食わない」

「正直でいいね。僕も君みたいな男は大嫌いだよ。綺麗な顔した甘えん坊さん」

「……もう一度言ってみろ」



 シアの前で、彼の顔について触れるのは厳禁だ。



 実際、ハンターズギルドでも問題を起こしたらしい。シアのことを「かわい子ちゃん」と呼んだ男のハンターが、その場で半殺しの目に遭ったとか。場を収めるのが大変だったと珍しくウルスがこぼしていた。



「女だからって容赦はしない」

「僕だって、男になんか負けるもんか」



 剣呑な雰囲気が漂う中、アネーシャはおろおろし、ウルスは黙って食事を続け、コヤは――





『いい感じにギスギスしてきたところで、次の目的地を発表しますっ』





 なぜかテンション高めだった。





『仕事で上司にむちゃぶりされる、人間関係に疲れた、気なるあの子がライバルに取られそう……みんな色々とストレスを抱えていると思う。ストレスを抱えたままいい仕事ができるか? 楽しく旅を続けられる? できるわけないっ。ということで、行きましょうっ、ククシル湖っ』





「ククシル湖? 次の目的地は湖なの?」 

「確か貴族の保養地だろ、そこ」



 シアが拍子抜けしたように言い、ジェミナも緊張を解いた。

 それまで黙っていたウルスも口を開く。



「いい場所だ。古傷に効く温泉がある」



 温泉と聞いて瞳を輝かせるアネーシャ。



「ウルスさんは行ったことあるの?」

「仕事の依頼で何度か」



 ということは出るのか、ドラゴン。



「水中に生息するドラゴンがいる。湖は広大で、周辺のほとんどが立ち入り禁止になっているはずだ」

「唯一解放されているのは北側だけですよね?」

「水深が浅く、ドラゴン避けの柵がしてある。そこなら泳げるらしい」

「だったら、次の目的地はククシル湖の北側にある町、ルギスでいいんだな?」



 こくこくとうなずくコヤを見、アネーシャは胸をときめかせる。



 貴族の保養地、なんて良い響きだろう。



 湖畔の宿で、のんびりだらだらくつろぐ自分の姿が目に浮かぶようだ。

 そしてきっと、食べ物もおいしいはず。



『ったく、ババ臭いんだから……』

「何か言った? コヤ様」

『ゆっくり旅の疲れを癒すといいわ』

「ありがとう、そうする。楽しみだね、ジェミナ」



 そうと決まれば今日は早めに寝ようと、いそいそと後片付けを始める。

 それからさりげなくウルスのほうへ近づいていくと、



「……ウルスさんも怒ってる、私のこと?」



 ジェミナが離れたところにいるのを確認してから、アネーシャはこっそり訊いた。



「勝手なことしてるって」

「彼女を仲間に引き入れたことか?」



 ウルスは柔らかく笑い、首を横に振る。



「君のパーティーだ。君の好きにするといい」

「けどシアは納得いかないって顔してる」

「君の身を案じてのことだ」

「二人には仲良くしてもらいたいのに」

「馴れ合うだけが友情だとは限らないだろ」



 ウルスの言葉にはっとする。



「時に高め合い、競い合うことも必要だ」

「……なら、私も二人に負けないよう頑張らないとっ」



 思わず拳に力を入れて言うアネーシャに、ウルスは顔を強ばらせると、



「君の場合は何もせず、温かく見守る程度で十分だと思う」



 そっと肩に手を置いて言った。



「でも……」

「君が暴走すれば、女神も暴走する」

「……はい」





しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...