追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟

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保養地ククシル湖で旅の疲れを癒そう

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 三人の帰りが遅いので、心配になって来てしまった。

 ククシル湖のぬしが棲むという洞窟に。



 普段、洞窟の大部分は湖に浸かっていて、小舟が必要になるのだが、この時期だけはなぜか湖の水が引いて、水深が浅くなる。そのため歩いて中に入ることができた。



「結構広いんだね、ここ」

『三人は奥にいるわよ。進みましょう』



 大きさはほぼヴァレ山の洞窟と同じくらいだが、雰囲気がまるで違った。

 奥へ続く道のりは長く、白っぽい洞窟の壁と鮮やかな青い水の対比が美しい。



 けれどもここは恐ろしいドラゴンの棲家、油断はできないとアネーシャは自分に言い聞かせる。大量に食料を詰め込んだ荷物袋を背負いなおし、ランタン片手に、慎重に奥まで進んでいく。



 洞窟に入ってしばらく経つと、おもむろにコヤが言った。



『明かりを消して、アネーシャ。もう必要ないから』

「でも、暗いと何も見えないよ」

『いいから、試しに消してみて』



 言われた通りにする。

 暗闇に目が慣れてきた頃、壁の表面が淡く光輝いていることに気づいた。



「……綺麗」



 洞窟の中に星空が広がっていた。

 宝石のように美しい、緑色の星々が瞬いている。



「あれは何?」



『ライトワーム――ただの虫よ。暗く湿った場所に生息して、餌となる小さな虫を引き寄せるために、ああして光っているの』



 幻想的な光景に目を奪われながら、アネーシャは進む。



 ドラゴンが棲み着く前、この洞窟は、国内でも有数の、絶景が見られるスポットとして有名だったそうだ。おそらく王子や王女たちも、この美しい光景を見るために、誤って足を踏み入れてしまったのだろう。





『だいたいこの辺りでぬしの歌声が聴こえてくるんだけど……もう終わったようね』





 それを聞いて、アネーシャは駆け出した。

 一刻も早く、三人の元気な姿を見たかった。



 けれど、





『ストップっ、アネーシャっ』





 反射的に足を止める。



 すると薄暗闇の中で、金属のかち合う音が聞こえた。

 他にも、地面を蹴る音、重い何かがぶつかる音、キィンっと刃先が弾かれるような音も。 





「もしかして……戦ってる?」





 すぐ近くで、何かがものすごい速さで動いているのがわかった。

 飛び跳ねたり、壁に張り付いたり、空中で衝突したり――速すぎて目で追えない。





「ドラゴン、まだ倒せてないの?」

「いや、ドラゴンはとっくに退治している」



 いつの間にかウルスに背後を取られていて、ぎょっとする。



「戦っているのはあの二人だ」

「……まさか、ジェミナとシアが?」



 当然のようにうなずくウルスに、「どうして止めないんですか」と噛み付く。



「勝負が着く前に止めればわだかまりが残る。そもそも邪魔をするなと釘を刺された」

「まさかシアに?」

「ああ。どうしてもジェミナ・トナを打ち負かしたいらしい」



 そもそもの発端は、ククシル湖の主ぬしをジェミナが一人で倒してしまったせいだという。ドラゴンの歌声を聴かされたジェミナはあっさり睡眠状態に陥るものの、すぐさまジェミナの肉体に憑依したサウラが、黄金の槍を神力で巨大化し、主を串刺しにしてしまったとか。



「手柄を奪われて悔しかったのだろう」



 シアはサウラに勝負を挑んだものの、「下等な人間など相手にならない」と一蹴されてしまったらしい。よほどの頭にきたらしく、シアは#主_ぬし__#の心臓を取り出して食らうと、そのままサウラに掴みかかり――現在に至るという。





『坊やったら、完全にあの女に遊ばれてるわね』



「身体的にも能力的にも、シアがジェミナを圧倒しているのは明らかだ。普通に戦えば、ジェミナはシアの足元にも及ばない。しかし女神を宿した今の彼女は、彼女であって彼女ではない。ソル・サウラの神力によって全ての能力が何万倍にも強化されている」



『解説ありがとう、色男。で、アネーシャ、どうするの?』



 アネーシャとしてはすぐにでも戦いを止めさせたかったが、ウルスの言う通り、それではシアの気が収まらないだろう。どうしたものか。



『なんなら坊やに力を貸してあげましょうか?』

「そんなことしたらシアに怒られちゃうよ」



 今は、見守ることしかできないと痛感する。

 そんな自分たちに真っ先に気づいたのは、サウラだった。



「あら、コヤ。来てたの? だったらもう、お遊びは終わりね」





 突然二人の動きが止まったかと思うと、サウラが片手でシアの首を締め上げていた。





「このキャンキャンうるさい仔犬ちゃん、殺してもいいかしら?」

『好きにすれば』

「コヤ様っ」



 なんてことを言うのだと、アネーシャは慌ててサウラのそばへ行く。



「シアを離してっ。もう勝負は着いたはずでしょっ」

「嫌よ。誰かさんに子ども扱いされて、機嫌が悪いの」



 サウラの手から逃れようとシアは必死にもがいているが、顔色は悪くなる一方だ。



「毒の息を吐いても無駄よ。私には効かないから」



「だったらこれはどうだ?」





 見ると、ウルスの大剣が深々とサウラの身体に突き刺さっていた。

 まるで予想できなかったらしく、サウラも驚きの表情で吐血する。





「――よくも、私の寄り代に傷を……ウルス・ラグナっ」





 手の力が緩み、解放されたシアが地面に転がって咳き込む。





「アネーシャ、悪いが彼女の傷を癒してくれ」





 ウルスがすばやく大剣を抜き取ると、辺りに鮮血が舞った。

 その場に崩れ落ちたジェミナの身体を抱き止め、すぐさま治療を施すアネーシャ。



「今すぐお前を殺してやるっ」

『彼に手を出したら、今度はあたしが相手よ』



 にゃあと鳴き声を上げながらコヤが前に出てくると、途端、サウラの表情が柔らいだ。



「ああ、私の可愛いコヤ・トリカ」



 腹部から内蔵がはみ出ているというのに、呑気なものだ。



「私のことをお姉様と呼んでちょうだい。そしたらあの男を許すわ」

『許しを乞うのはそっちでしょうが』

「ふふ、あなたのふくれっ面が見られたから、今日はこの辺で勘弁してあげる」



 瞬く間にジェミナの髪と瞳の色が元に戻っていき、アネーシャはほっとした。



「あれぇ、アネーシャ。どうしてここに……っって、ギャー、僕のお腹がっ、僕のお腹がっ」

「落ち着いてジェミナ。傷口は今ふさいでるから……よし、治った」

「誰にやられたのっ、僕。服も血だらけだしっ。なんでっ」



「ドラゴンの返り血だ」



 堂々と嘘をつくウルス。

 ジェミナの治療を終えたら、次はシアの番だ。



「シア、傷を見せて」

「……平気だ」



 サウラに負けて悔しいのか、彼はそっぽを向いていた。

 けれどあちこちにすり傷や打撲の跡があり、アネーシャは苦笑しつつ、手をかざす。



「次は負けない」

「うん、頑張って」



 手当てが済むとアネーシャは立ち上がり、いそいそと荷物袋を開いた。



「三人ともお腹すいてるでしょ? たくさん差し入れ持ってきたから、一緒に食べよう」



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