英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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一章 -幼少時代-

-小さな出逢いと別れ- 3

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 ゆっくりと睡眠を取ることが出来た翌朝、ドラゴンはガタゴトと揺れる振動と音で目を覚ました。
「…ぅ、ん…? ……ここ…?」
「あ、ドラゴン。おはよう。ゆっくり眠れたみたいで良かった」
 ゆっくりと目を開けて眠りから意識を浮上させたドラゴンに、ザギが笑顔でドラゴンに声をかけると、ドラゴンは寝ぼけ眼のまま起き上がり、可愛い欠伸をして目を擦るとふわりと笑った。
「おはよぉ、兄ちゃん」
「うん。おはよう、ドラゴン。ほら、バーノおじさん達にも挨拶しないと」
 ザギはクスッと笑いながら御者台に座って荷馬車を操るバーノと荷馬車の入り口にのんびりとした様子で座って守り、後ろを警戒しているゼノを手で示すと、徐々に覚醒してきたドラゴンはまず一番近くにいたゼノに、まだ緊張した様子で挨拶をした。
「あ、えっと…ゼノ兄ちゃん、おはよぅ…」
 ゼノは緊張して語尾がしぼんでしまったドラゴンを温かい眼差しで見ながら「うん。おはよう、ドラゴン」と笑いかけると、おもむろに腕を上げてそっとドラゴンの頭を撫でた。まだ、触れられた瞬間はビクッとするが、ゆったりとした動作で頭に手を乗せたため怯えることは無く、ドラゴンとゼノはお互いにホッと息を吐いた。そして頭から手が退かされると、ドラゴンは次に御者台に座っているバーノの所に行った。
「バーノおじさん、おはよ…」
「おう、おはようさん。ぐっすり眠れたようだな」
「お、ドラゴンも起きたのか! おはよう!」
 荷馬車の横で並走していたレッジがドラゴンに気付いて元気よく挨拶をしたが、ドラゴンはレッジの存在に気づいていなかったためビクッと驚き、思わずバーノの陰に隠れてしまった。
「レッジ、お前の声はでけぇんだから、もう少し気を遣ってやれ。怯えちまったじゃねぇか」
「バーノの言うとおりだよ、レッジ。もっと声を抑えろー」
 バーノが片手で馬車を操りながら、もう片方の手でドラゴンの頭を撫でてやると、荷台の方から面白がって便乗するゼノ声が聞こえた。
「ゼノ、お前は俺と一緒につるんで悪戯してる仲だろ! なんで俺をからかうんだよ!」
「え、面白いから?」
「薄情者め!」
 荷馬車の覗き窓から顔を出して笑顔でさらりと言うゼノに、レッジはムッとした表情でそう言い返してプイッとそっぽ向いた。その様子を見ていたザギとドラゴンは、そのやりとりを見ているのが楽しくなり、クスクスと控えめだが楽しそうに笑っていた。
「そうだ、ドラゴン。こいつを食っとけな。今日の朝飯だ」
 バーノは荷物の中から一つの包みを取り出すとドラゴンに渡し、受け取ったドラゴンは早速包みを開けた。包みの中には綺麗に並べられているサンドイッチが入っていて、ドラゴンはパッと表情を明るくした。
「美味しそう!」
「それ、レッジが作ったんだよ。意外だよねぇ、こんな無骨男が綺麗なサンドイッチを作れるなんて」
「そのサンドイッチ、とっても美味しかったから、ドラゴンも早く食べてみなよ!」
 クスクスと笑いながらからかうゼノと、純粋に誉めてドラゴンに勧めるザギに、レッジは怒っていいのか喜んでいいのか分からなくなってしまい、微妙な表情を浮かべてそのまま黙り混んでしまった。
 そんなレッジを気にせず、ドラゴンはザギの言葉に大きく頷いてサンドイッチの一つを取ると、パクリッと大きく口を開けて頬張った。そしてモグモグと小さな口を動かして味を噛み締め、その度に目を大きく見開いて可愛らしく頬に手を当てると、満面の笑みを浮かべた。
「おいひぃ~!」
「でしょう?」
 ドラゴンの反応にザギも嬉しそうに笑みを浮かべ、レッジもドラゴンの反応を見てちょっと照れ臭そうに頬を掻いた。
「素直に喜んでもらえるって事は、嬉しいもんだな。誰かさんはひねくれた言い方するから、なおさらな」
「だって、バーノ」
「おいおい、お前らのじゃれあいに俺を巻き込むんじゃねぇよ」
 レッジの嫌味をさらりとバーノに受け流そうとしたが、呆れた表情で突き返されてしまい、ゼノは仕方なしに諦めて美味しそうにサンドイッチを頬張るドラゴンの口元に付いていたソースを拭ってやった。
「付いてたよ」
「ん、えへへ…ありがとう……」
 口の中に入っていたサンドイッチを飲み込み、少し恥ずかしそうに笑いながら礼を言うドラゴンに、ゼノも笑顔で「どういたしまして」と言葉を返して元居た場所に戻った。
 そして何度か休憩を挟みながらうっすらと雪が積もっている街道を進み、昼時を少し過ぎた頃に小さな町に入った。
「この街で昼を食うぞ。この街の川魚料理は絶品だからな、楽しみにしてろよ?」
 バーノがザギとドラゴンに振り向きながらニッと笑うと、二人とも「絶品」という言葉に瞳を煌めかせた。
「美味しいもの食べられるの!?」
「がっはっはっ! いい顔だ! いいか? その魚は鮮度が落ちやすい事で有名でな。この街でしか食べられない代物だ。だから味わいながら、たくさん食えよ? あと、食い終わったらこの街で一仕事するから、二人とも手伝ってくれな?」
 バーノが笑顔でそう頼むと、二人とも笑顔で「はい!」と素直に返事をした。
 そしてバーノは一つの店の前で荷馬車を止めて店の従業員に金を渡して預かってもらうと、ドラゴンを抱き上げた。
「わっ」
「うん、やっぱり子供は温かくていいな」
 そう言いながらバーノはドラゴンを自分のマフラーに、一緒に首を突っ込ませてぬくぬくと暖をとった。その光景にレッジがとりあえずザギを抱き上げて服越しに伝わる体温にほっこりしながら、ゼノと二人でニッと笑ってからかい始めた。
「バーノ。孫を抱いてニマニマしてる、孫馬鹿のじいさんに見えるぜー」
「あるいは、変態だねー」
「お前ら、減給されたいのか? からかうのも程々にしねぇと、痛い目見るぞ」
 やれやれと肩をすくめてそのままの状態で店に入ると、カランッとドアベルが鳴り、昼過ぎの時間帯にも関わらず賑わってる店の喧騒にも負けない、高い声が奥から聞こえてきた。
「いらっしゃーい! あら、バーノじゃないか! 久し振りだねぇ! とりあえず、空いてる席に座っとくれ!」
「相変わらず、女将は元気だな。何よりだ!」
 がっはっはと笑って空いている席に座ると、すぐに店内にいた女性客が寄ってきた。
「バーノ~、久し振り~!」
「別れてからずっと会いたかったわ~」
「今日も旅の話をしてくれるんでしょう? 楽しみにしてたの~」
「レッジ~! 相変わらず男前ね~」
「ちょっとぉ、レッジの隣は私の席よ! レッジ~、会いたかったわ~」
「いつ会ってもゼノ君はカッコいいわね~」
「ゼノ君、また背が伸びた? ますますカッコよくなったわぁ~!」
 キャーキャーと騒ぎながら、それぞれお目当ての人の近くに腰掛ける女性たちにザギとドラゴンは圧倒されてしまい、思わず逃げるように席を空けてしまった。すると女性たちは我先にとベストポジションを陣取り、二人は完璧に蚊帳の外となってしまった。
「凄いね、兄ちゃん……」
「うん、凄いね……。僕達の席が無くなっちゃったや…」
 困ったような表情でどこか空いている席が無いか見回していると、フワッと二人の体が浮いて、いつもよりも柔らかい声が頭上から聞こえてきた。
「お嬢さん方、この子達の席も空けてくれるかい? 僕達が預かってる大切な子達なんだ」
 そう言うのはゼノで、片手ずつに二人を抱えて、女性達に微笑みかけていた。ゼノの綺麗な笑顔を見た女性達はハッと息を呑んでうっとりし、喜んでと言わんばかりにザギとドラゴンを歓迎した。
「出た出た、ゼノの猫かぶり営業スマイル。いつか化けの皮が剥がれて、幻滅されればいいんだ」
「そういうお前も、女の前じゃ紳士的に振る舞って猫被ってるじゃねぇか。人の事言えねぇぞー」
 こっそりとレッジとバーノが話していると、一段落ついたらしい女将がバーノ達のテーブルに来た。
「相変わらずモテモテだねぇ~、バーノ! お伴の二人も、前来てくれた時よりも大きくなってぇ! わたしゃ、嬉しいよ! それで? この可愛い子ちゃん達はどうしたんだい? バーノの隠し子か、孫か…あ、誘拐してきたのかい?」
 女将はカラカラと笑いながら、ゼノの両隣にちょこんと座って女性達に可愛がられているザギとドラゴンを見てそう言った。すると、お冷やを飲んでいたバーノは思いきり吹き出し、心外だという表情で反論した。
「何故どいつもこいつも俺を誘拐犯にしようとする!? 俺は善良な商人だぞ!?」
「アンタ、気付いてないのかい? 身なりがちゃんとなってなかったら、賊みたいな顔をしてるって事に」
 女将が何て事ないようにさらりと言った瞬間、レッジとゼノが思いきり吹き出し、クツクツと笑い始めた。
「ククッ、賊みたいとか当てはまりすぎて笑える」
「ブハッ、バーノが賊をやってる姿がちゃんと想像出来るから笑える」
「賊みたいな顔って…相変わらず辛口で失礼な事を遠慮なしに言うな。あと、レッジ、ゼノ。ここの会計はお前らが払えよ」
 やれやれと苦笑をしながら女将に言葉を返し、笑っている二人には容赦ない仕返しをした。そんなバーノに二人は思いきり不満を言ったが相手にされずに終わり、仕方ないなぁと言わんばかりに会計を引き受けた。
「さてと。二人が会計を引き受けた事だし、女将、注文していいか?」
「注文なんて大体決まってるだろ? バーノが店に入った時に、いつものは主人に作らせてるよ。でも他にも注文があるなら言いな。すぐ主人に作らせるからね」
「手際がいいな、女将。ありがとう。じゃあ俺達の注文はしなくても良さそうだ。ザギ、ドラゴン、何か食べたい物はあるか?」
 バーノが二人の方を向きながらそう聞くと、二人とも女性達に撫でられながら少し考えてから答えた。
「んーっとね、この街でしか食べられないお魚食べたい!」
「あ、僕もドラゴンと同じ」
「あら、『フィリフィリの姿煮』はもう作ってるわよ。フィリフィリを食べに来てくれたのね。嬉しいわ」
 女将が本当に嬉しそうに笑いながらそう言うと、二人とも首を傾げて、ザギが女将に問いかけた。
「『フィリフィリ』? フィリフィリって何?」
「あら、名前は知らなかったの? フィリフィリがこの街でしか食べられない魚よ。白身がフワフワしてて、この冬の時期だと特に脂がのってて美味しいのよ。フィリフィリは、絶対に食べて損の無い魚よ」
「そしてさらに言えば、この街で一番美味いフィリフィリ料理を出してくれるのがこの店って訳だ」
 女将の後に続くように言葉を付け足したバーノに、女将は「あらやだもう、うちの主人よりも嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」と思いきり背中を叩いて、もう一度バーノにお冷やを吹かせた。
「ゲホッ、ゲホッ…女将……。もう少し力加減っつーのを覚えろ! 俺に何度水を吹き出させるつもりだ!?」
「あっはっはっ! あの程度で水を吹くバーノが悪いんだよぉ! もっとしゃんとしな!」
 そう言いながらもう一発背中を叩かれたバーノは若干咳き込み、背中をさすりながら「ったく…女将、仕事に戻れ」と厨房の方から困った表情でこちらを伺うこの店の主人を見てそう言った。女将はその微妙な視線の動きを正確に察知し、若干名残惜しそうにしつつも輝くような笑顔で「そうだね。そろそろ戻らないと、主人が困っちまうからね。じゃあ、料理が出来るまで待ってておくれ」と言って下がり、仕事を再開させた。
 そしてこの街の名物魚、フィリフィリをお腹いっぱい食べた一行は、パワフルな女将がいる店を後にしたのだった。
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