英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

文字の大きさ
23 / 65
一章 -幼少時代-

―ザギの決断と動き出す影― 3

しおりを挟む
 翌朝、ザギはリオに起こされる前に起きて訓練場に来ると、既にユリーゼともう一人の姿があり、ユリーゼは隣にいる人と話をしているようだった。
「おはようございます」
 ザギが挨拶をすると二人は振り返り、それぞれ挨拶を返した。
「来たか。おはよう」
「おはよう。君がザギだな? よろしく」
 ユリーゼの隣にいた男性は、ザギを確認するとフッと笑って握手を求めた。ザギはその握手に応えつつもその男性が何者か気になり、ユリーゼに説明を求めるように視線を向けた。ユリーゼはその視線を受けて、ザギと隣にいる男性との挨拶が終わると早速紹介をしてくれた。
「彼はお前に剣を教える師であり、お前の旅に同行してくれる保護者の役を引き受けてくれた、アンドソン・サールだ。彼は千人隊長を務めている者だから、実力は申し分無い上、面倒見も良い。何かあった時の対応も冷静かつ的確だ。だから、安心して彼から色々と学ぶと良い」
 この国の近衛騎士や衛兵達の階級は上から『近衛騎士団長/王城衛兵総長』『副団長/副総長』『千人隊長』『中隊長』『百人隊長』『小隊長』『班長』『一般騎士/一般衛兵』となっていて、実力や経歴などを踏まえて昇格していく。他にも、武器別の編成になった時は武器種名が頭につく場合がある。
 千人隊長である彼は、相当の実力者であることがうかがえる。
「高評価ありがとうございます、団長。今紹介された、近衛騎士団・千人隊長のアンドソン・サールだ。君の事情は団長から聞いている。時間が無いから訓練の時は厳しくいくぞ」
「ザギ・ロディアノスです。よろしくお願いします!」
 勢いよく頭を下げたザギにアンドソンは「ああ」と頷き、ユリーゼはザギの前に膝を着くと顔を上げさせてあるものを差し出した。
「ザギ、お前にこれをやる。これはお前の身を守ると同時に相手を傷付け、時に命を奪う物だ。その覚悟を以てこれを受け取り、私に誓え。決して無意味な殺生・相手を傷付ける行為をしない、と。そしてお前が剣を取る目的を私に示せ」
「せっしょう?」
「生きているものを殺すことだ」
「分かった」
 初めて聞く言葉の意味を教えてもらうと、ザギは覚悟を決めて差し出された小さな剣を受け取った。そのズシッとした重さはザギの気持ちを引き締めさせ、両手でしっかりと握ると真っ直ぐにユリーゼを見て宣誓した。
「僕は、絶対に無意味なせっしょうや相手を傷付ける事はしない。僕は強くなるために、ドラゴンを守るために剣を持つんだ」
「しかと聞き入れた。…ザギ、今の言葉を絶対に忘れるなよ。心をしっかりと持ち、正しい道を進んでいけ」
「うん、分かった」
 切実に願うように言うユリーゼに、ザギは真剣に受け止めて頷いた。その姿を見てユリーゼは複雑そうに微笑むと、ザギの頭を撫でてから立ち上がった。
「アンドソン、あとは頼んだ」
「はっ」
 アンドソンの綺麗な敬礼にユリーゼはポンと肩を叩いて労うと、自分の仕事に戻るべく訓練場を出ていった。
「じゃあ、早速始めるぞ。今日はザギがどれくらい体力があるか見させてもらう。その結果によって一週間の計画を立てていくから、真剣に、全力でやること」
「はい!」
「よし、良い返事だ。ではまず──」
 こうしてザギはアンドソンの指導の下、戦いの道へと足を踏み入れたのだった。
 結論から言うと、ザギは天賦てんぷの才を持っていた。
 そのため、ものの数日で基本的な動きを覚え、すぐに手合わせ指導に切り替わった。
 アンドソンの動きを見よう見まねで真似をして、少しでも自分の物にしようとする向上心、授業以外の時間を鍛練に費やす努力、厳しい訓練に耐えて付いていく忍耐、そして全身で剣を、動きを感じて覚えていく、鋭い勘。ザギはそれら全てを持ち合わせていて、貪欲に強くなることを求め続けた。
 そしてあっという間に六日が経ち、同行の条件だった悪鬼ゴブリンの討伐も見事達成して、周りの大人達を驚かせると同時にザギは遠征同行の権利を掴み取ったのだった。

 その日の夜、ユリーゼは城内にある滅多に使わない自分の部屋に訪れ、久し振りに酒を嗜んでいた。
 本当ならば、家に帰って愛する妻に会いたかった所なのだが、仕事を終えた時間が既に深夜と言ってもいい時間であったため、眠っているであろう身重の妻を起こしたくないというユリーゼの優しさから、滅多に使わない自室で夜を明かすことを決めたのだった。
 美しい夜空を肴に、ソファに座って静かに酒を飲んでいると、コンコンと控えめなノックが聞こえてきた。ユリーゼはゆったりと身体を起こして立ち上がると、夜中の訪問者を不思議に思いながらドアを開けた。
「ユリーゼ団長、夜遅くにごめんなさい」
 そこには一枚の紙を手に佇むザギがいて、申し訳無さそうに目を伏せながらそう言った。
「ザギか。子供がこんな遅くまで起きているものじゃない。早く寝なさい。明日は早いんだぞ」
「ごめんなさい…。でも、どうしても行く前にやっておかないといけない事があって、でも、僕一人じゃ難しかったから……」
「……入りなさい。廊下は冷えるから中で話を聞こう」
 ユリーゼはしょんぼりするザギの背中に手を添えて中に入れると、自分が今まで座っていたソファに腰掛けさせて、その隣に自分も座った。
「それで、明日までにやっておかないといけない事は何だ?」
「…ドラゴンに、手紙を書いておきたいんだ。今回、僕がこの遠征に着いていくことは誰にも話してない。だから、きっと僕が居なくなったらドラゴンは心配すると思うから、そうならないために手紙を書きたかったんだけど…まだ上手く字が書けないから……」
 持っていた紙を握りしめて悔しげにそう言うザギに、ユリーゼは少し酔っている事も関係して全体的に優しく、ザギを慰めるようにその小さな手を包み込むと、少しシワがついてしまった紙を取り上げてテーブルに置いた。
「俺に代筆を頼みに来たのか。…それは構わないが、本当に手紙でいいのか? ちゃんと直接、しばらく会えなくなることを言った方がいいと思うが」
「ううん、手紙でいいんだ。だって、きっと直接言ったらドラゴンもリオも僕を引き留めようとする。それじゃ、意味無い」
「……そうか。まあ、お前がそれでいいなら俺は反対しない。それで? 手紙の文章はもう決まっているのか?」
「うん。決まってる」
 ユリーゼはザギの返事を聞きながら引き出しを開けてインクとペンを取り出し、ソファに戻るとザギが持ってきた紙にザギの言葉で手紙を綴り始めた。
 そして手紙が書き終わると、ザギは安心したように襲ってきた睡魔に身を委ねて眠りに落ちていった。そんなザギにユリーゼは自分の制服を掛けてやると、ザギの頭を撫でながら残りの酒を飲み干し、一緒にそこで眠ったのだった。

† †

 翌朝、リオはいつも通りにドラゴンとザギを起こしに行こうと二人の部屋に行くと、丁度ザギが部屋から出てきた所だった。
「あ、ザギだ! おはよう! 今日も、もう鍛練に行くの?」
「あ、リオ。…う、うん。そうだよ。アンドソン師匠を待たせてるから、もう行くね」
 リオの姿を見た瞬間、ザギはばつが悪そうにリオから目を逸らして足早にその場から離れようとした。しかしリオはそんなザギを気にする事なく無邪気にザギに抱き付いた。
「今日は魔狼まろう討伐部隊の出発式があるから、多分アンドソンもそっちで忙しいよ。ねえ、今日は鍛練をお休みにして一緒に勇者達を見送ろうよ! ドラゴンも最近寂しそうだったし、僕もザギと一緒にいたいんだ。だから、ね、一緒にいようよ! 最近ずっと鍛練ばかりしてて、ザギと遊べなかったし」
「……ごめん、リオ。今日も一緒に遊べないかな。…リオ、ドラゴンをよろしくね」
 リオの腕をやんわりと剥がして、かすかに寂しさが滲む笑顔でそう言うと、逃げるようにその場から走り去った。
「……変なザギ。……あれ、まさか僕、ザギに嫌われてる?」
 やんわりと拒絶されたハグとリオから逃げるような言動、一週間前に言われたユリーゼの言葉にリオはその結論に至り、その瞬間、胸をギュッと握られたような痛みを覚えて胸に手を当てた。
「そっか…嫌われちゃったか」
 今にも泣き出しそうな表情でそう呟き、遠ざかっていくザギの背を見つめると、とぼとぼとドラゴンが眠る部屋に入った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...