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一章 -幼少時代-
―ザギの決断と動き出す影― 4
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いつもよりも元気の無いリオに起こされたドラゴンは、ここ最近ザギが一緒に居てくれないため、寂しさを募らせていて、リオと一緒に落ち込みながらいつものように門から挨拶をしていった。
しかし元気の無い二人の様子に、城に勤める者達は揃って心配する声をかけ、二人は心配されっぱなしで挨拶周りを終わらせると、レイロンドと三人で朝食を食べた。
そして食後にリオとドラゴンは、レイロンドの私室に行って寂しさを紛らわせるようにレイロンドに抱き着いて甘えていた。
「レイド兄様ぁ~。僕、ザギに嫌われちゃった~…」
「兄ちゃんが最近遊んでくれないよ~…」
「うーん、私に言われてもなぁ……。まあ、よしよし」
二人の言葉に若干困りつつも、レイロンドは元気の無い二人を慰めるために頭をそれぞれ撫でてやり、リオに視線を向けて首を傾げた。
「それで? リオ、ザギに嫌われるような事をしたのかい?」
「うぅ~…分かんない。でもユリーゼが『振り回されているかどうかを決めるのはザギですよ』って言ってたから、僕、ザギを振り回してたのかなって……だから嫌われちゃったのかなって……」
「そっか。でもリオ、私はザギがリオを嫌っているとは思えないな」
「うん、僕も兄ちゃんはリオを嫌ってないと思う! だって兄ちゃん、嫌いなものを見たら顔をこんな風にするもん!」
そう言ってドラゴンは眉を寄せて頬を膨らませ、いかにも不機嫌そうな表情を作った。レイロンドはそんなドラゴンの可愛らしい表情にクスッと笑いつつ、まだ不安そうに表情を曇らせるリオを優しく撫でた。
「私はね、ザギがユリーゼに相談した内容は、剣を教えてもらいたいというものだと思っているんだ。どうしてザギが急に剣を学びたいと思ったのかは分からないけど、少なくともリオやドラゴンを遠ざける為に鍛練をし始めた訳ではないと思うよ。だから、そんなに心配しなくても大丈夫」
「そうかな? 今朝、抱き着いたら離れられて、逃げられちゃったけど……」
その時の事を思い出し、リオはさらにしょんぼりと眉を下げた。しかしそれでもレイロンドは優しい表情を崩さずに言葉を続ける。
「それは急いでいたからじゃないのかい? 今日は魔狼討伐部隊の出発式があるからね。アンドソンもその時間しか空いてなかったのかもしれない。だからザギは少しでも長く師事を受けたくて、リオのハグを断らざるを得なかったのかもしれない。どう? 思い当たらないかな?」
「……あ…。確かに、アンドソンを待たせてるって言ってた。そっか、ザギはたくさん教えてもらいたかったから急いでいたんだ。僕の事、嫌いになった訳じゃなかったんだね! 良かった~」
リオはようやくホッとした表情になり、その顔に笑顔が戻ると、レイロンドもホッとして同じように笑顔になった。
「さて、そろそろ討伐部隊の出発式が始まる時間が迫ってきたね。私は式に出席しないといけないから正装に着替えるけど、リオ達はどうする?」
「僕達は門から見送る~! それなら正装しなくていいし♪ ドラゴンもそれでいいよね!」
「いいけど…『せいそう』って?」
意気揚々と頷くリオとは対照的に、ドラゴンはキョトンと首を傾げてレイロンドとリオを見つめた。そんなドラゴンに、レイロンドが笑顔で説明をしてくれた。
「正装はね、儀式とか公の場所とかで着る、正式な服の事を言うんだよ。そうだね。例えばパーティーや父上へ公的に会いに行くとき、今日みたいな式典の時とかは今着ている服じゃなくて…」
説明をしながらレイロンドはベッドから下りると、クローゼットから青を基調としたきらびやかな服を取り出した。
「こういった服を着るんだ。もっとも、この服は王族にのみ着用が認められている特別な物だから、ドラゴンや他の貴族達はまた別の正装があるんだけどね」
「わぁ~…! 綺麗だね!」
「いいなぁ、僕も早くそれを着たーい!」
「あれ? リオは持ってないの?」
羨望の眼差しでレイロンドが持つ正装を見るリオに、てっきりリオも同じものを持ってると思っていたドラゴンが意外そうに問いかけた。
「うん、まだ僕は着る資格を持ってないからね。あれは十歳にならないと貰えないんだ~」
「フフ、あと五年の辛抱だね」
「むー、五年も待てなーい」
プクーと頬を膨らませて不満そうにするリオに、レイロンドは愛しそうに笑うと扉からノックが聞こえてきて、レイロンドが答えると中に数人の侍女が入ってきた。
「レイロンド様、お着替えの時間になりましたので、お召し変えのお手伝いさせていただきます」
「あぁ、いつもありがとう。よろしくね」
レイロンドは丁寧に礼を言って侍女に手伝われながら着替えを始めると、お付きの侍女の一人がきっちりとした服を一着持ってリオの所に来た。
「式典用の服をご用意しましたが、リオ様もここでお召し変えなさりますか?」
「僕はこのままでいいんだ~。ドラゴンと一緒に門でお見送りをするからね!」
「左様でございましたか。では、お髪だけ、整えさせていただきます。こちらにお座りください」
「はーい!」
各々準備が進められる中、ドラゴンは不意に浮かんだ疑問をポロッと口にした。
「ねえ、レイドって十歳なの?」
「ううん、もう少し上。私は今、十二歳だよ。リオとは七つ歳が離れているからね」
「じゃあ、僕とは…えーっと……六個違いだね!」
指を使って年の差を数えて嬉しそうにそう言うドラゴンに、レイロンドも笑って「そうだね。よく計算できました。偉い偉い」とドラゴンの頭を撫でた。褒めてもらったドラゴンはえへへ、とはにかむように笑い、嬉しそうに身体を揺らした。
するとコンコンと再びノックが聞こえてきて、外からレイロンドを迎えに来た旨を告げる近衛騎士の声が聞こえてきた。
「あぁ、分かった。もうすぐ準備が終わるから少し待ってて欲しい」
「かしこまりました」
近衛騎士の返事が聞こえると、リオの髪を整え終えた侍女がドラゴンの方を向いた。
「さ、ドラゴン様もお髪を整えますよ。ここに座ってください」
「僕も? 僕もリオみたいにカッコよくしてくれるの? わぁ~、やったー! ありがとう、お姉さん!」
ドラゴンはまさか自分もやってもらえるとは思っていなかったため、驚いた表情を浮かべたあと満面の笑顔で侍女に駆け寄り、言われた場所に座った。
そして全員の身支度が終わると、レイロンドは近衛騎士と一緒に出発式の会場に向かい、リオとドラゴンはザギを探しつつ門の方に向かった。
ザギを探し回っているうちに魔狼討伐部隊の出発式は滞りなく終わり、討伐部隊の出発を知らせる鐘が高らかに鳴り響いた。その鐘の音を皮切りに、まるでパレードのように至るところで楽団が演奏を始め、見送りに来た人々が騎士達に声援を贈り始めた。
「あー、もう! ザギはどこにいるんだよ~! 皆が出発しちゃうー! 仕方ない。ドラゴン、走って門まで行くよ!」
「兄ちゃん……」
「皆を見送ったらまた探そう!」
「うん、分かった」
兄の姿が見えない事にドラゴンはしょんぼりとしつつも、リオと手を繋いで一緒に門まで走った。
そして討伐部隊が潜る南門に到着すると、丁度討伐部隊の先頭が見えてくる頃だった。
「おや、リオ殿下とドラゴンは門でお見送りですか?」
「てっきり式典会場にいると思いましたよ~。あ、じゃあ祝福の花びらを分けてあげますね」
門番の二人は息を切らせて門に来た二人に意外そうな眼差しを送ったあと、籠いっぱいに入っている花びらをリオとドラゴンに分け与えた。
「しゅ、祝福の、花びら、って?」
少し咳き込みながら、受け取った花びらを見て首を傾げるドラゴンに、門番の一人がドラゴンの背中をさすりながら答えた。
「これから戦いに行く者達が、ちゃんと生きて帰ってきますようにって祈りを込めて花びらを散らすんだ。『神のご加護がありますように』とか『ご武運を』とかって言ってな。まあ、ドラゴンくらいの子なら『頑張って』でもいいかもな。さ、そろそろ来るぞ。花びらの準備をしてろよ」
門番はそう言うとドラゴンを肩車して見やすいようにしてやり、それを見たリオももう一人の門番に肩車をせがんで肩車をしてもらった。
そして討伐部隊が門まで来ると、先頭にいた人物の顔がはっきり見え、先頭にいたのはユリーゼだという事が判明した。ユリーゼは門番の二人に肩車をしてもらっているリオとドラゴンを見ると、その微笑ましい光景に少しだけ口元を緩めて二人の前で馬を止めた。
「わざわざ門まで来て見送りをしてくれるとは、光栄ですよリオ殿下」
「しばらく会えないからね。近くでお見送りしたかったんだ」
「ありがとうございます。しかしリオ殿下、ちゃんとアリアーサ殿の授業は受けるんですよ? 私が居ないからと、サボってはいけませんからね」
「うげっ、今それ言う?」
ユリーゼの言葉に、苦虫を噛み潰したように表情を歪めるリオに、ユリーゼはクスクスと笑って「今だから、ですよ」と言い返した。そして、ドラゴンの方を見るとおもむろに頭を下げた。
「ドラゴン、初めて会ったときに脅かして悪かった。これからもリオ殿下の良き友でいて欲しい」
「うん! これからもずーっと、リオとレイドの友達だよ! ユリーゼ団長、頑張ってね!」
ドラゴンはニパッと笑うと、手に持っていた花びらをめいっぱい腕を伸ばして散らせた。ユリーゼはその笑顔を見て、これからを担う子供達を護るために戦わねばと改めて心に誓うと、ドラゴンの頭を撫でてから再び馬を進ませた。
舞い散る花びらと数多の声援に包まれて門を潜っていく騎士達は、とても気高く勇敢で、しかし同時にとても儚いものを見ているようだった。
そして千人以上の騎士が門を潜って討伐へ向かうと、リオとドラゴンは再びザギを探しに城内を歩き回った。
しかしいくら探しても見つからないザギの姿に二人は不安を覚え始め、ドラゴンはその目に涙を溜め始めてしまう始末。
リオがギュッと手を繋いで励ましながら近衛騎士が住む独身寮の近くを通ると「お、いたいた」という声が聞こえてきて、後ろからラエルが姿を現した。
「ラエル副団長…、兄ちゃんが、いない、っ、ぅっ…」
「ラエル~! ザギがどこにもいないよ~! どうしよう、やっぱり僕、嫌われちゃったんだ~! ふえぇぇぇぇ…!」
気丈にドラゴンを励ましていたが、やはり不安だったのだろう。ラエルの姿を見るや、リオも泣き出してしまった。
片やポロポロと嗚咽を堪えて泣き、片やわんわんと声をあげてラエルに抱き着く二人に、ラエルはギョッとてしまい、とりあえず泣き止ませようと二人の背中を撫でて声をかけた。
「おぉおい、おい。二人とも泣くなよ~。よしよし、いい子だから泣き止もうな~」
そうして泣きじゃくる二人を宥めて落ち着かせるとようやく話を聞ける状態になり、ラエルはホッとしながら泣きじゃくって麻痺した頭でも理解出来るように、ゆっくりと言葉を発した。
「ザギを探してたみたいだが、ザギから何も聞いてないのか?」
ラエルの問いに二人とも首を傾げ、その様子から何も聞かされていない事を悟ると、苦笑いを浮かべた。
「あー、聞いてないのか……。じゃあ、ザギがどうして居ないのか教えてやるから落ち着いて聞けよ? …ザギは、母親を自分で探したいからと言って、討伐部隊と一緒にこの城を出ていった。ここ一週間、剣の鍛練をしていたのはその為だ。でも、安心しろ。リオの身の安全を保証するためにアンドソンが同行することになっている。あいつは優秀な奴だから、絶対にザギを守り通してくれる。それに、ザギ自身も一週間で相当腕を上げた。必ず帰ってくるだろう」
「兄ちゃんが…出ていった…? 僕、また置いてかれたの?」
ラエルの言葉に、ドラゴンは絶望したようにその瞳を悲しみの色に染めて、また涙ぐみ始めた。
「あー、待て待て。泣くなって。ザギからドラゴン宛に手紙を預かってるんだ。ほら、読んでみな」
ラエルは慌てて懐から一通の手紙を取り出してドラゴンに渡すと、ドラゴンは浮かんだ涙を拭って受け取り、おそるおそる手紙を開いた。
【大好きなドラゴンへ
何も言わずに突然出ていってごめんね。こんな自分勝手な兄を許してね。
僕は自分の手で母さんを見つけ出して、またドラゴンと母さんと三人で幸せになりたいんだ。だけど、旅は危険な事もあるんだって知って、僕はドラゴンを巻き込んだ事を後悔した。だから、ここから先は僕と、僕の師匠のアンドソン千人隊長と一緒に母さんを捜し出すよ。
だからドラゴンはリオとレイドと一緒に、安全な所で、楽しく過ごしながら待ってて? 母さんを見つけたら、母さんと一緒に必ず迎えに行くから。信じて、待っていて欲しいんだ。
それと、僕は旅をしながら師匠に稽古をつけてもらって強くなるって決めたんだ。もう二度と、ドラゴンを危険な目に遭わせない為に、そしてゼノ兄ちゃんのように僕を守って死ぬなんて事、起こさせない為に。僕は強くなる。
最後に、僕はドラゴンが大好きだよ。リオもレイドも好きだし、本当は一緒に居たかった。でも、ただ待ってるだけという事が耐えられなかった。だから出ていくことを決めたんだ。決して皆が嫌いになって出ていく訳じゃないから、誤解しないでね。
僕は必ず戻ってくる。だからまた会えるからね。その時まで、少しだけバイバイ。元気で、風邪をひかないように気を付けて、また笑顔を見せてね! ザギより】
手紙を読み終えると、ドラゴンはポロポロと涙を溢し、手紙を抱き締めた。
「兄ちゃんの、バカあぁぁぁ……! 兄ちゃ、が、いれば、それ、だけで、良かった、のっ、に、っ、うあぁぁぁぁん!」
ドラゴンは声をあげて泣きじゃくり、道行く人を驚かせた。ラエルはそんなドラゴンと心配そうにおろおろするリオを抱き上げると、独身寮の自分の部屋に連れていって、ドラゴンが泣き止むまでドラゴンを抱き締めて背中をさすってあげた。
リオも、ドラゴンの手から落ちた手紙を読んで嫌われた訳ではないと確証を得たことで安心し、泣き笑いをしながらドラゴンを泣き止ませようと明るく声を掛け続けたのだった。
しかし元気の無い二人の様子に、城に勤める者達は揃って心配する声をかけ、二人は心配されっぱなしで挨拶周りを終わらせると、レイロンドと三人で朝食を食べた。
そして食後にリオとドラゴンは、レイロンドの私室に行って寂しさを紛らわせるようにレイロンドに抱き着いて甘えていた。
「レイド兄様ぁ~。僕、ザギに嫌われちゃった~…」
「兄ちゃんが最近遊んでくれないよ~…」
「うーん、私に言われてもなぁ……。まあ、よしよし」
二人の言葉に若干困りつつも、レイロンドは元気の無い二人を慰めるために頭をそれぞれ撫でてやり、リオに視線を向けて首を傾げた。
「それで? リオ、ザギに嫌われるような事をしたのかい?」
「うぅ~…分かんない。でもユリーゼが『振り回されているかどうかを決めるのはザギですよ』って言ってたから、僕、ザギを振り回してたのかなって……だから嫌われちゃったのかなって……」
「そっか。でもリオ、私はザギがリオを嫌っているとは思えないな」
「うん、僕も兄ちゃんはリオを嫌ってないと思う! だって兄ちゃん、嫌いなものを見たら顔をこんな風にするもん!」
そう言ってドラゴンは眉を寄せて頬を膨らませ、いかにも不機嫌そうな表情を作った。レイロンドはそんなドラゴンの可愛らしい表情にクスッと笑いつつ、まだ不安そうに表情を曇らせるリオを優しく撫でた。
「私はね、ザギがユリーゼに相談した内容は、剣を教えてもらいたいというものだと思っているんだ。どうしてザギが急に剣を学びたいと思ったのかは分からないけど、少なくともリオやドラゴンを遠ざける為に鍛練をし始めた訳ではないと思うよ。だから、そんなに心配しなくても大丈夫」
「そうかな? 今朝、抱き着いたら離れられて、逃げられちゃったけど……」
その時の事を思い出し、リオはさらにしょんぼりと眉を下げた。しかしそれでもレイロンドは優しい表情を崩さずに言葉を続ける。
「それは急いでいたからじゃないのかい? 今日は魔狼討伐部隊の出発式があるからね。アンドソンもその時間しか空いてなかったのかもしれない。だからザギは少しでも長く師事を受けたくて、リオのハグを断らざるを得なかったのかもしれない。どう? 思い当たらないかな?」
「……あ…。確かに、アンドソンを待たせてるって言ってた。そっか、ザギはたくさん教えてもらいたかったから急いでいたんだ。僕の事、嫌いになった訳じゃなかったんだね! 良かった~」
リオはようやくホッとした表情になり、その顔に笑顔が戻ると、レイロンドもホッとして同じように笑顔になった。
「さて、そろそろ討伐部隊の出発式が始まる時間が迫ってきたね。私は式に出席しないといけないから正装に着替えるけど、リオ達はどうする?」
「僕達は門から見送る~! それなら正装しなくていいし♪ ドラゴンもそれでいいよね!」
「いいけど…『せいそう』って?」
意気揚々と頷くリオとは対照的に、ドラゴンはキョトンと首を傾げてレイロンドとリオを見つめた。そんなドラゴンに、レイロンドが笑顔で説明をしてくれた。
「正装はね、儀式とか公の場所とかで着る、正式な服の事を言うんだよ。そうだね。例えばパーティーや父上へ公的に会いに行くとき、今日みたいな式典の時とかは今着ている服じゃなくて…」
説明をしながらレイロンドはベッドから下りると、クローゼットから青を基調としたきらびやかな服を取り出した。
「こういった服を着るんだ。もっとも、この服は王族にのみ着用が認められている特別な物だから、ドラゴンや他の貴族達はまた別の正装があるんだけどね」
「わぁ~…! 綺麗だね!」
「いいなぁ、僕も早くそれを着たーい!」
「あれ? リオは持ってないの?」
羨望の眼差しでレイロンドが持つ正装を見るリオに、てっきりリオも同じものを持ってると思っていたドラゴンが意外そうに問いかけた。
「うん、まだ僕は着る資格を持ってないからね。あれは十歳にならないと貰えないんだ~」
「フフ、あと五年の辛抱だね」
「むー、五年も待てなーい」
プクーと頬を膨らませて不満そうにするリオに、レイロンドは愛しそうに笑うと扉からノックが聞こえてきて、レイロンドが答えると中に数人の侍女が入ってきた。
「レイロンド様、お着替えの時間になりましたので、お召し変えのお手伝いさせていただきます」
「あぁ、いつもありがとう。よろしくね」
レイロンドは丁寧に礼を言って侍女に手伝われながら着替えを始めると、お付きの侍女の一人がきっちりとした服を一着持ってリオの所に来た。
「式典用の服をご用意しましたが、リオ様もここでお召し変えなさりますか?」
「僕はこのままでいいんだ~。ドラゴンと一緒に門でお見送りをするからね!」
「左様でございましたか。では、お髪だけ、整えさせていただきます。こちらにお座りください」
「はーい!」
各々準備が進められる中、ドラゴンは不意に浮かんだ疑問をポロッと口にした。
「ねえ、レイドって十歳なの?」
「ううん、もう少し上。私は今、十二歳だよ。リオとは七つ歳が離れているからね」
「じゃあ、僕とは…えーっと……六個違いだね!」
指を使って年の差を数えて嬉しそうにそう言うドラゴンに、レイロンドも笑って「そうだね。よく計算できました。偉い偉い」とドラゴンの頭を撫でた。褒めてもらったドラゴンはえへへ、とはにかむように笑い、嬉しそうに身体を揺らした。
するとコンコンと再びノックが聞こえてきて、外からレイロンドを迎えに来た旨を告げる近衛騎士の声が聞こえてきた。
「あぁ、分かった。もうすぐ準備が終わるから少し待ってて欲しい」
「かしこまりました」
近衛騎士の返事が聞こえると、リオの髪を整え終えた侍女がドラゴンの方を向いた。
「さ、ドラゴン様もお髪を整えますよ。ここに座ってください」
「僕も? 僕もリオみたいにカッコよくしてくれるの? わぁ~、やったー! ありがとう、お姉さん!」
ドラゴンはまさか自分もやってもらえるとは思っていなかったため、驚いた表情を浮かべたあと満面の笑顔で侍女に駆け寄り、言われた場所に座った。
そして全員の身支度が終わると、レイロンドは近衛騎士と一緒に出発式の会場に向かい、リオとドラゴンはザギを探しつつ門の方に向かった。
ザギを探し回っているうちに魔狼討伐部隊の出発式は滞りなく終わり、討伐部隊の出発を知らせる鐘が高らかに鳴り響いた。その鐘の音を皮切りに、まるでパレードのように至るところで楽団が演奏を始め、見送りに来た人々が騎士達に声援を贈り始めた。
「あー、もう! ザギはどこにいるんだよ~! 皆が出発しちゃうー! 仕方ない。ドラゴン、走って門まで行くよ!」
「兄ちゃん……」
「皆を見送ったらまた探そう!」
「うん、分かった」
兄の姿が見えない事にドラゴンはしょんぼりとしつつも、リオと手を繋いで一緒に門まで走った。
そして討伐部隊が潜る南門に到着すると、丁度討伐部隊の先頭が見えてくる頃だった。
「おや、リオ殿下とドラゴンは門でお見送りですか?」
「てっきり式典会場にいると思いましたよ~。あ、じゃあ祝福の花びらを分けてあげますね」
門番の二人は息を切らせて門に来た二人に意外そうな眼差しを送ったあと、籠いっぱいに入っている花びらをリオとドラゴンに分け与えた。
「しゅ、祝福の、花びら、って?」
少し咳き込みながら、受け取った花びらを見て首を傾げるドラゴンに、門番の一人がドラゴンの背中をさすりながら答えた。
「これから戦いに行く者達が、ちゃんと生きて帰ってきますようにって祈りを込めて花びらを散らすんだ。『神のご加護がありますように』とか『ご武運を』とかって言ってな。まあ、ドラゴンくらいの子なら『頑張って』でもいいかもな。さ、そろそろ来るぞ。花びらの準備をしてろよ」
門番はそう言うとドラゴンを肩車して見やすいようにしてやり、それを見たリオももう一人の門番に肩車をせがんで肩車をしてもらった。
そして討伐部隊が門まで来ると、先頭にいた人物の顔がはっきり見え、先頭にいたのはユリーゼだという事が判明した。ユリーゼは門番の二人に肩車をしてもらっているリオとドラゴンを見ると、その微笑ましい光景に少しだけ口元を緩めて二人の前で馬を止めた。
「わざわざ門まで来て見送りをしてくれるとは、光栄ですよリオ殿下」
「しばらく会えないからね。近くでお見送りしたかったんだ」
「ありがとうございます。しかしリオ殿下、ちゃんとアリアーサ殿の授業は受けるんですよ? 私が居ないからと、サボってはいけませんからね」
「うげっ、今それ言う?」
ユリーゼの言葉に、苦虫を噛み潰したように表情を歪めるリオに、ユリーゼはクスクスと笑って「今だから、ですよ」と言い返した。そして、ドラゴンの方を見るとおもむろに頭を下げた。
「ドラゴン、初めて会ったときに脅かして悪かった。これからもリオ殿下の良き友でいて欲しい」
「うん! これからもずーっと、リオとレイドの友達だよ! ユリーゼ団長、頑張ってね!」
ドラゴンはニパッと笑うと、手に持っていた花びらをめいっぱい腕を伸ばして散らせた。ユリーゼはその笑顔を見て、これからを担う子供達を護るために戦わねばと改めて心に誓うと、ドラゴンの頭を撫でてから再び馬を進ませた。
舞い散る花びらと数多の声援に包まれて門を潜っていく騎士達は、とても気高く勇敢で、しかし同時にとても儚いものを見ているようだった。
そして千人以上の騎士が門を潜って討伐へ向かうと、リオとドラゴンは再びザギを探しに城内を歩き回った。
しかしいくら探しても見つからないザギの姿に二人は不安を覚え始め、ドラゴンはその目に涙を溜め始めてしまう始末。
リオがギュッと手を繋いで励ましながら近衛騎士が住む独身寮の近くを通ると「お、いたいた」という声が聞こえてきて、後ろからラエルが姿を現した。
「ラエル副団長…、兄ちゃんが、いない、っ、ぅっ…」
「ラエル~! ザギがどこにもいないよ~! どうしよう、やっぱり僕、嫌われちゃったんだ~! ふえぇぇぇぇ…!」
気丈にドラゴンを励ましていたが、やはり不安だったのだろう。ラエルの姿を見るや、リオも泣き出してしまった。
片やポロポロと嗚咽を堪えて泣き、片やわんわんと声をあげてラエルに抱き着く二人に、ラエルはギョッとてしまい、とりあえず泣き止ませようと二人の背中を撫でて声をかけた。
「おぉおい、おい。二人とも泣くなよ~。よしよし、いい子だから泣き止もうな~」
そうして泣きじゃくる二人を宥めて落ち着かせるとようやく話を聞ける状態になり、ラエルはホッとしながら泣きじゃくって麻痺した頭でも理解出来るように、ゆっくりと言葉を発した。
「ザギを探してたみたいだが、ザギから何も聞いてないのか?」
ラエルの問いに二人とも首を傾げ、その様子から何も聞かされていない事を悟ると、苦笑いを浮かべた。
「あー、聞いてないのか……。じゃあ、ザギがどうして居ないのか教えてやるから落ち着いて聞けよ? …ザギは、母親を自分で探したいからと言って、討伐部隊と一緒にこの城を出ていった。ここ一週間、剣の鍛練をしていたのはその為だ。でも、安心しろ。リオの身の安全を保証するためにアンドソンが同行することになっている。あいつは優秀な奴だから、絶対にザギを守り通してくれる。それに、ザギ自身も一週間で相当腕を上げた。必ず帰ってくるだろう」
「兄ちゃんが…出ていった…? 僕、また置いてかれたの?」
ラエルの言葉に、ドラゴンは絶望したようにその瞳を悲しみの色に染めて、また涙ぐみ始めた。
「あー、待て待て。泣くなって。ザギからドラゴン宛に手紙を預かってるんだ。ほら、読んでみな」
ラエルは慌てて懐から一通の手紙を取り出してドラゴンに渡すと、ドラゴンは浮かんだ涙を拭って受け取り、おそるおそる手紙を開いた。
【大好きなドラゴンへ
何も言わずに突然出ていってごめんね。こんな自分勝手な兄を許してね。
僕は自分の手で母さんを見つけ出して、またドラゴンと母さんと三人で幸せになりたいんだ。だけど、旅は危険な事もあるんだって知って、僕はドラゴンを巻き込んだ事を後悔した。だから、ここから先は僕と、僕の師匠のアンドソン千人隊長と一緒に母さんを捜し出すよ。
だからドラゴンはリオとレイドと一緒に、安全な所で、楽しく過ごしながら待ってて? 母さんを見つけたら、母さんと一緒に必ず迎えに行くから。信じて、待っていて欲しいんだ。
それと、僕は旅をしながら師匠に稽古をつけてもらって強くなるって決めたんだ。もう二度と、ドラゴンを危険な目に遭わせない為に、そしてゼノ兄ちゃんのように僕を守って死ぬなんて事、起こさせない為に。僕は強くなる。
最後に、僕はドラゴンが大好きだよ。リオもレイドも好きだし、本当は一緒に居たかった。でも、ただ待ってるだけという事が耐えられなかった。だから出ていくことを決めたんだ。決して皆が嫌いになって出ていく訳じゃないから、誤解しないでね。
僕は必ず戻ってくる。だからまた会えるからね。その時まで、少しだけバイバイ。元気で、風邪をひかないように気を付けて、また笑顔を見せてね! ザギより】
手紙を読み終えると、ドラゴンはポロポロと涙を溢し、手紙を抱き締めた。
「兄ちゃんの、バカあぁぁぁ……! 兄ちゃ、が、いれば、それ、だけで、良かった、のっ、に、っ、うあぁぁぁぁん!」
ドラゴンは声をあげて泣きじゃくり、道行く人を驚かせた。ラエルはそんなドラゴンと心配そうにおろおろするリオを抱き上げると、独身寮の自分の部屋に連れていって、ドラゴンが泣き止むまでドラゴンを抱き締めて背中をさすってあげた。
リオも、ドラゴンの手から落ちた手紙を読んで嫌われた訳ではないと確証を得たことで安心し、泣き笑いをしながらドラゴンを泣き止ませようと明るく声を掛け続けたのだった。
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