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二章 ―少年から青年へ― (読み飛ばしOK)
―母との再会― 3
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一方、ドラゴンは応接室を出ると走って廊下を駆け抜け、自分の部屋を目指していた。泣きながら走るドラゴンの様子に使用人達は驚いていたが、声を掛ける間もなく走り去ってしまうので誰もがドラゴンに声を掛けられず、心配そうな表情で見送る事しか出来なかった。
そんな風に誰にも声を掛けられずに順調に自分の部屋に向かっていたドラゴンだったが、前方から着替えを終わらせたリオが現れると即座に、捕まったら絶対に根掘り葉掘り聞かれると予測し、最短距離で部屋へ帰ることを諦めて廊下を曲がった。
「あ、ドラゴーン、どうだった~……って、今確実に僕を避けたよね!?」
リオの姿を確認してから廊下を曲がったドラゴンに、リオは慌ててドラゴンを追いかけ始め、ドラゴンは振り返らずに「気のせい、だからっ、ついてこないでよ!」と、明らかに『自分泣いてます』と言っているような声で叫んだ。
「え、ドラゴン泣いてるの!? ちょっ、何で? 何があったんだよー!」
「知らない! 泣いてない! ついてこないで!」
「いやいや、明らかに泣いてるよね!? そんなドラゴンを放っておけるわけ無いだろ~!」
そして二人は熾烈な鬼ごっこを繰り広げ始め、ドラゴンは早々に部屋に帰ることを諦めると全力でリオから逃げた。しかし、時々近衛騎士や王城衛兵の訓練に参加しているリオと本ばかり読んでいるドラゴンの体力差は歴然で、先に体力の限界が来たドラゴンはリオに捕まると植木に押し倒された。
「やっと捕まえた! で、そんなに泣いてどうしたんだよ、ドラゴン。母上と会えて嬉しくなかった? それとも、また貴族達に何か言われた?」
リオはドラゴンの上に馬乗りになりつつも優しい声で心配し、ドラゴンを落ち着かせようと頭を撫でた。しかしドラゴンは泣きながら走っていたせいで咳が止まらず、何かを話せるような状態ではなかった。
ドラゴンは泣いてぐちゃぐちゃになった顔を隠すように腕で顔を覆い、いつもなら堪える嗚咽を堪えることなく大声で泣いた。そして泣きじゃくって気持ちをスッキリさせ、呼吸も落ち着いてくると、いまだ整理のつかない思考のまま、思いを吐き出しはじめた。
「っ…ぇうっ……ようやくっ、会えた、っ…けど、意味分かんないっ…! 離婚してる、と、っ…思ったら、してないって、言うしっ、ぅっ…帰ってこなかった、理由…っ、迷子って、っ、ふざ、けるなっ! 今まで、どれだけ…っ…どれだけ大変な目に、遭ったと思ってるんだよ…っ!」
抑えきれない感情のままに泣き叫ぶドラゴンにリオは眉を下げて、今までドラゴンが受けてきたいじめの傷痕と死にかけた時の記憶が思い起こされて、ギュッと抱き締めた。
「うん…そうだね。ドラゴンが凄くたくさん、大変な目に遭っていたことは僕達が知ってるよ」
庭園の中でリオはドラゴンを慰め続け、ドラゴンはひとしきり泣くと、泣き疲れてそのまま眠りに落ちてしまった。さらにリオも、泣き止んだドラゴンにホッとして、さらに温かい陽気に眠気が誘発されたのか、ドラゴンの上に乗ったまま一緒に眠ってしまった。
庭師がそんな二人を見つけた時には少し日が傾いていて、少し赤みがかった陽が仲のいい二人を照らしていた。庭師はそんな仲のいい二人に頬を緩ませつつも、植木をぐちゃぐちゃにしている二人にやれやれと肩をすくめ、近くを通り掛かった衛兵に二人を送り届けてほしいと頼んだ。
衛兵に連れられて部屋に戻っていく二人を庭師は眺めつつ、草木に水を与えながら明日は植木を綺麗に整え直さなければと、明日の予定を頭の中で組み立てたのだった。
翌朝、考えすぎた上、泣きじゃくったために鈍い頭痛がドラゴンを襲い、痛みに顔をしかめつつ起き上がった。そこでドラゴンはここは自分の部屋のベッドの上であることに気づき、さらに寝巻きもちゃんと着ていることから、誰かの手をわずらわせてしまったんだと気付いた。
ドラゴンには専属の使用人などはおらず、基本的に身支度も部屋の掃除も自分でやっている。もっとも、シーツや寝巻き、一日着た服の洗濯やベッドメーキングはついでだからとやってもらっているが、やはり授業終わりに洗濯物の手伝いに行くことも多々ある。
ドラゴンは気だるげにベッドから下り、テーブルに置いてあるポットから水を注ぐと、一気に飲み干して残っていた眠気を飛ばした。しかし、いつもならばこれで気持ちが切り替わるのだが、今日は昨日のことがあったせいか中々気持ちが晴れず、着替えずにそのままテーブルに突っ伏してぼんやりと外の景色を眺めた。
(あぁー…昨日は母さんにも陛下にも失礼な態度を取って出ていっちゃったなぁ。謝りに行かないと……。リオにも情けない姿を見せちゃったし……。心が晴れないな…)
ドラゴンがはぁとため息をついた瞬間、ノックもなく扉がバンッと開いて、輝く笑顔を携えたリオが部屋に入ってきた。
「ドラゴン、おっはよー! ……って、今日はやっぱり元気無さそうだね」
「リオ…ノックぐらいしたら? おはよう」
苦情のあと、付け足したように挨拶を返すドラゴンに、リオはニッと笑ってドラゴンの隣に座ると同じ格好をした。
「元気は無いけど、口調はいつも通りだね!」
「……で? 僕、今日は一人で居たい気分なんだけど、用は何?」
リオの方を向いて気だるげに問うドラゴンに、リオもドラゴンの方を向いて明るく笑った。
「ニシシッ! やっぱり引きこもろうとしてたね。今日は朝の訓練に一緒に参加するよ!」
「……訓練に参加しようと思えないから断っていい?」
「ダメ~。ほらほら、着替えなよ~。じゃないと、その格好のまま引っ張っていくよ~」
相変わらず強引なリオの言葉に、ドラゴンは本気でやりかねないとため息をつき「まったく…仕方ないなぁ」と渋々…本当に渋々、動きやすい服装に着替えた。
「よし、じゃあ早く行こう! 訓練が始まっちゃうからね!」
リオはガシッとドラゴンの手を掴むとそのまま走り、ドラゴンはその動きに合わせて走りつつも、時々ささやかな抵抗としてわざと走る速度を落としていた。
しかしそれをものともせずに訓練場までドラゴンを引っ張って来ると、すでに訓練は始まっていた。
「あー、始まってたか~。ラエルー!」
リオが大声で騎士達と一緒に訓練をしているラエルを呼ぶと、ラエルはすぐにリオとドラゴンに気が付いて、こちらに来た。
「おう、リオ殿下、ドラゴン、おはようさん! 朝から訓練場に来るとは、珍しいな。特にドラゴンは初めてじゃないか?」
「…リオに無理やり連れてこられた」
少し不貞腐れたように唇を尖らして言うドラゴンに、ラエルはカラッと豪快に笑った。
「はははっ! だろうと思った! でも、何だかんだ言いながらも来たんだ。軽くでもいいから体を動かしていけよ?」
「まあ、ここまで来たからね。訓練に参加するよ。…昨日の事が頭に残って気持ちが晴れないから、体を動かして気持ちを整理する……」
「そうか。よし、じゃあ次の項目から混じってもらうから、その間に準備運動をしっかりしておけよ」
「はーい」
「はい」
ラエルは二人の返事を聞いて「適当に済ませるなよ~」と笑って念を押し、訓練に戻っていった。
そして二人は言われた通りに準備運動を念入りにすると、近衛騎士の朝の訓練に混じって体を動かした。
リオは何度も訓練に参加しているため慣れたもので、呼吸が上がりつつもなんとか食らいついて最後まで訓練を受けたが、ドラゴンはこの世界の主な交通手段である乗馬の訓練と、リオ絡みで城内外を走っているくらいしか運動らしいことをしていなかったため、途中でバテて訓練場の隅で情けない姿を晒していた。
それでもドラゴンは、体を動かしたことで幾ばくか気持ちが晴れて軽くなり、それによって冷静に考える事が出来るようになっていた。
(昨日の話を聞いて分かったことは、母さんは父さんと離婚をしていなかった事と、今もナシュ村で暮らしていること。そして母さんは極度の方向音痴で三年以上迷子だったこと。父さんが家を出て行ったのは母さんを迎えに行ったからだったことだ。……酷いことを言ったけど、母さんに会えた事は嬉しかった。顔を覚えていなくても、あの笑い方は母さんだと不思議とすぐに分かった。だけど、やっぱり僕はまだ父さんが怖いと思っている。もう一度一緒に住むなんて、考えただけでゾッとする。………あぁ…そっか…。僕の答えは、きっと最初から決まっていたんだ。……僕はどれだけ貴族達から嫌われて苛められても、リオとレイドの側に居たい。それで、お世話になった陛下や王妃様に恩返しをしたいんだ)
自分でも驚くほどすんなりと自分の気持ちに整理がつくと、訓練が終わったのかリオがニュッと顔を出してドラゴンを見下ろした。
「ドーラゴーン、訓練終わったけど立てる?」
「うん、なんとか……」
ドラゴンは痛みを訴える全身に苦笑をしつつ頷いて起き上がると、リオは不思議そうにドラゴンの顔を覗きこんだ。
「…なに?」
「いや? ドラゴンの目に、なんか光が戻ったな~って思って。何か吹っ切れた?」
「まあ、ね。決心はついたよ。僕は、母さんと一緒に帰らない。リオとレイドの側にずっと居たいから、僕は…一番近くに居られる近衛騎士になる」
ドラゴンの決意に、リオはパアァァッと後ろに花畑が見えそうなくらい嬉しそうに表情を輝かせ、思い切りギューッとドラゴンを抱き締めた。
「ありがとう、ドラゴン! 僕、すっごく嬉しい! 実は僕、ドラゴンが帰っちゃうんじゃないかって心配だったんだ!」
「ちょ、く、苦しい…!」
バシバシとリオの背中を叩いて抗議するドラゴンに、リオは「ごめん、ごめん」と笑いながら解放したが、次は雑談をする騎士達の方に走っていき「ドラゴンが近衛騎士になるって!」と狂喜乱舞しながら吹聴し始めた。
「ちょ、リオ…! 恥ずかしいから大声であまり言わないでよ!」
ドラゴンは慌てて立ち上がり、リオの口を塞ごうと追いかけ始めたのだが、少し回復したとはいえまだ全身にダメージが残っているドラゴンと、最後まで訓練を受けていたが割りと元気なリオでは結果は火を見るよりも明らかで、再びドラゴンがぶっ倒れたのはある意味当然だろう。
「ははっ、ドラゴン無茶するなよ~。まだ朝だからな。今から無茶してると一日辛いぞ~」
ぶっ倒れたドラゴンをラエルが笑顔でひょいっと抱き上げ、ついでに心配そうにドラゴンを見るリオも片手で抱き上げると、大声で指示を出した。
「次は九時から班対抗の手合わせトーナメントを行う! それまでに準備を全て整えておけよ! んじゃ、解散!」
ラエルの号令に、騎士達はビシッとラエルに敬礼をしてから各々訓練場を出て行き、ラエルは二人を城まで連れていったのだった。
そんな風に誰にも声を掛けられずに順調に自分の部屋に向かっていたドラゴンだったが、前方から着替えを終わらせたリオが現れると即座に、捕まったら絶対に根掘り葉掘り聞かれると予測し、最短距離で部屋へ帰ることを諦めて廊下を曲がった。
「あ、ドラゴーン、どうだった~……って、今確実に僕を避けたよね!?」
リオの姿を確認してから廊下を曲がったドラゴンに、リオは慌ててドラゴンを追いかけ始め、ドラゴンは振り返らずに「気のせい、だからっ、ついてこないでよ!」と、明らかに『自分泣いてます』と言っているような声で叫んだ。
「え、ドラゴン泣いてるの!? ちょっ、何で? 何があったんだよー!」
「知らない! 泣いてない! ついてこないで!」
「いやいや、明らかに泣いてるよね!? そんなドラゴンを放っておけるわけ無いだろ~!」
そして二人は熾烈な鬼ごっこを繰り広げ始め、ドラゴンは早々に部屋に帰ることを諦めると全力でリオから逃げた。しかし、時々近衛騎士や王城衛兵の訓練に参加しているリオと本ばかり読んでいるドラゴンの体力差は歴然で、先に体力の限界が来たドラゴンはリオに捕まると植木に押し倒された。
「やっと捕まえた! で、そんなに泣いてどうしたんだよ、ドラゴン。母上と会えて嬉しくなかった? それとも、また貴族達に何か言われた?」
リオはドラゴンの上に馬乗りになりつつも優しい声で心配し、ドラゴンを落ち着かせようと頭を撫でた。しかしドラゴンは泣きながら走っていたせいで咳が止まらず、何かを話せるような状態ではなかった。
ドラゴンは泣いてぐちゃぐちゃになった顔を隠すように腕で顔を覆い、いつもなら堪える嗚咽を堪えることなく大声で泣いた。そして泣きじゃくって気持ちをスッキリさせ、呼吸も落ち着いてくると、いまだ整理のつかない思考のまま、思いを吐き出しはじめた。
「っ…ぇうっ……ようやくっ、会えた、っ…けど、意味分かんないっ…! 離婚してる、と、っ…思ったら、してないって、言うしっ、ぅっ…帰ってこなかった、理由…っ、迷子って、っ、ふざ、けるなっ! 今まで、どれだけ…っ…どれだけ大変な目に、遭ったと思ってるんだよ…っ!」
抑えきれない感情のままに泣き叫ぶドラゴンにリオは眉を下げて、今までドラゴンが受けてきたいじめの傷痕と死にかけた時の記憶が思い起こされて、ギュッと抱き締めた。
「うん…そうだね。ドラゴンが凄くたくさん、大変な目に遭っていたことは僕達が知ってるよ」
庭園の中でリオはドラゴンを慰め続け、ドラゴンはひとしきり泣くと、泣き疲れてそのまま眠りに落ちてしまった。さらにリオも、泣き止んだドラゴンにホッとして、さらに温かい陽気に眠気が誘発されたのか、ドラゴンの上に乗ったまま一緒に眠ってしまった。
庭師がそんな二人を見つけた時には少し日が傾いていて、少し赤みがかった陽が仲のいい二人を照らしていた。庭師はそんな仲のいい二人に頬を緩ませつつも、植木をぐちゃぐちゃにしている二人にやれやれと肩をすくめ、近くを通り掛かった衛兵に二人を送り届けてほしいと頼んだ。
衛兵に連れられて部屋に戻っていく二人を庭師は眺めつつ、草木に水を与えながら明日は植木を綺麗に整え直さなければと、明日の予定を頭の中で組み立てたのだった。
翌朝、考えすぎた上、泣きじゃくったために鈍い頭痛がドラゴンを襲い、痛みに顔をしかめつつ起き上がった。そこでドラゴンはここは自分の部屋のベッドの上であることに気づき、さらに寝巻きもちゃんと着ていることから、誰かの手をわずらわせてしまったんだと気付いた。
ドラゴンには専属の使用人などはおらず、基本的に身支度も部屋の掃除も自分でやっている。もっとも、シーツや寝巻き、一日着た服の洗濯やベッドメーキングはついでだからとやってもらっているが、やはり授業終わりに洗濯物の手伝いに行くことも多々ある。
ドラゴンは気だるげにベッドから下り、テーブルに置いてあるポットから水を注ぐと、一気に飲み干して残っていた眠気を飛ばした。しかし、いつもならばこれで気持ちが切り替わるのだが、今日は昨日のことがあったせいか中々気持ちが晴れず、着替えずにそのままテーブルに突っ伏してぼんやりと外の景色を眺めた。
(あぁー…昨日は母さんにも陛下にも失礼な態度を取って出ていっちゃったなぁ。謝りに行かないと……。リオにも情けない姿を見せちゃったし……。心が晴れないな…)
ドラゴンがはぁとため息をついた瞬間、ノックもなく扉がバンッと開いて、輝く笑顔を携えたリオが部屋に入ってきた。
「ドラゴン、おっはよー! ……って、今日はやっぱり元気無さそうだね」
「リオ…ノックぐらいしたら? おはよう」
苦情のあと、付け足したように挨拶を返すドラゴンに、リオはニッと笑ってドラゴンの隣に座ると同じ格好をした。
「元気は無いけど、口調はいつも通りだね!」
「……で? 僕、今日は一人で居たい気分なんだけど、用は何?」
リオの方を向いて気だるげに問うドラゴンに、リオもドラゴンの方を向いて明るく笑った。
「ニシシッ! やっぱり引きこもろうとしてたね。今日は朝の訓練に一緒に参加するよ!」
「……訓練に参加しようと思えないから断っていい?」
「ダメ~。ほらほら、着替えなよ~。じゃないと、その格好のまま引っ張っていくよ~」
相変わらず強引なリオの言葉に、ドラゴンは本気でやりかねないとため息をつき「まったく…仕方ないなぁ」と渋々…本当に渋々、動きやすい服装に着替えた。
「よし、じゃあ早く行こう! 訓練が始まっちゃうからね!」
リオはガシッとドラゴンの手を掴むとそのまま走り、ドラゴンはその動きに合わせて走りつつも、時々ささやかな抵抗としてわざと走る速度を落としていた。
しかしそれをものともせずに訓練場までドラゴンを引っ張って来ると、すでに訓練は始まっていた。
「あー、始まってたか~。ラエルー!」
リオが大声で騎士達と一緒に訓練をしているラエルを呼ぶと、ラエルはすぐにリオとドラゴンに気が付いて、こちらに来た。
「おう、リオ殿下、ドラゴン、おはようさん! 朝から訓練場に来るとは、珍しいな。特にドラゴンは初めてじゃないか?」
「…リオに無理やり連れてこられた」
少し不貞腐れたように唇を尖らして言うドラゴンに、ラエルはカラッと豪快に笑った。
「はははっ! だろうと思った! でも、何だかんだ言いながらも来たんだ。軽くでもいいから体を動かしていけよ?」
「まあ、ここまで来たからね。訓練に参加するよ。…昨日の事が頭に残って気持ちが晴れないから、体を動かして気持ちを整理する……」
「そうか。よし、じゃあ次の項目から混じってもらうから、その間に準備運動をしっかりしておけよ」
「はーい」
「はい」
ラエルは二人の返事を聞いて「適当に済ませるなよ~」と笑って念を押し、訓練に戻っていった。
そして二人は言われた通りに準備運動を念入りにすると、近衛騎士の朝の訓練に混じって体を動かした。
リオは何度も訓練に参加しているため慣れたもので、呼吸が上がりつつもなんとか食らいついて最後まで訓練を受けたが、ドラゴンはこの世界の主な交通手段である乗馬の訓練と、リオ絡みで城内外を走っているくらいしか運動らしいことをしていなかったため、途中でバテて訓練場の隅で情けない姿を晒していた。
それでもドラゴンは、体を動かしたことで幾ばくか気持ちが晴れて軽くなり、それによって冷静に考える事が出来るようになっていた。
(昨日の話を聞いて分かったことは、母さんは父さんと離婚をしていなかった事と、今もナシュ村で暮らしていること。そして母さんは極度の方向音痴で三年以上迷子だったこと。父さんが家を出て行ったのは母さんを迎えに行ったからだったことだ。……酷いことを言ったけど、母さんに会えた事は嬉しかった。顔を覚えていなくても、あの笑い方は母さんだと不思議とすぐに分かった。だけど、やっぱり僕はまだ父さんが怖いと思っている。もう一度一緒に住むなんて、考えただけでゾッとする。………あぁ…そっか…。僕の答えは、きっと最初から決まっていたんだ。……僕はどれだけ貴族達から嫌われて苛められても、リオとレイドの側に居たい。それで、お世話になった陛下や王妃様に恩返しをしたいんだ)
自分でも驚くほどすんなりと自分の気持ちに整理がつくと、訓練が終わったのかリオがニュッと顔を出してドラゴンを見下ろした。
「ドーラゴーン、訓練終わったけど立てる?」
「うん、なんとか……」
ドラゴンは痛みを訴える全身に苦笑をしつつ頷いて起き上がると、リオは不思議そうにドラゴンの顔を覗きこんだ。
「…なに?」
「いや? ドラゴンの目に、なんか光が戻ったな~って思って。何か吹っ切れた?」
「まあ、ね。決心はついたよ。僕は、母さんと一緒に帰らない。リオとレイドの側にずっと居たいから、僕は…一番近くに居られる近衛騎士になる」
ドラゴンの決意に、リオはパアァァッと後ろに花畑が見えそうなくらい嬉しそうに表情を輝かせ、思い切りギューッとドラゴンを抱き締めた。
「ありがとう、ドラゴン! 僕、すっごく嬉しい! 実は僕、ドラゴンが帰っちゃうんじゃないかって心配だったんだ!」
「ちょ、く、苦しい…!」
バシバシとリオの背中を叩いて抗議するドラゴンに、リオは「ごめん、ごめん」と笑いながら解放したが、次は雑談をする騎士達の方に走っていき「ドラゴンが近衛騎士になるって!」と狂喜乱舞しながら吹聴し始めた。
「ちょ、リオ…! 恥ずかしいから大声であまり言わないでよ!」
ドラゴンは慌てて立ち上がり、リオの口を塞ごうと追いかけ始めたのだが、少し回復したとはいえまだ全身にダメージが残っているドラゴンと、最後まで訓練を受けていたが割りと元気なリオでは結果は火を見るよりも明らかで、再びドラゴンがぶっ倒れたのはある意味当然だろう。
「ははっ、ドラゴン無茶するなよ~。まだ朝だからな。今から無茶してると一日辛いぞ~」
ぶっ倒れたドラゴンをラエルが笑顔でひょいっと抱き上げ、ついでに心配そうにドラゴンを見るリオも片手で抱き上げると、大声で指示を出した。
「次は九時から班対抗の手合わせトーナメントを行う! それまでに準備を全て整えておけよ! んじゃ、解散!」
ラエルの号令に、騎士達はビシッとラエルに敬礼をしてから各々訓練場を出て行き、ラエルは二人を城まで連れていったのだった。
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