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第二 レイリア西部鉄道
さよならするつもりが……
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列車は比較的ゆっくり進んでいた。
僕は進行方向を向いて座っていたが、海があるはずの左側、つまり西側の窓の外には、大草原が広がっていた。海に近い場所を走行しているといっても、実際には海まで相当の距離がありそうだ。
僕は優奈の言葉を思い出していた。確か、優奈の夢では、桃色のタンポポは白い砂浜に咲いていたんだっけ。
僕は老紳士に尋ねた。
「海に一番近い駅はどこですか。僕、海に行きたいんです」
老紳士は二、三回頷くと、
「海か。それならば、ここから二つ目の駅で降りるといい。そこが海に一番近い駅じゃ。『トラート』という田舎町なんじゃが、きれいな海が見られることで有名じゃ。人気の観光地でもある」と教えてくれた。
やがて、列車が『トラート』の駅に近付くと、老紳士がこう言った。
「タケルくん、さっきの乗車券を、もう一度だけわしに見せてくれないかのう。珍しいものだから、この目に焼き付けておきたいんじゃ」
僕は言われた通り、レイリア行き特別急行の乗車券を老紳士に手渡した。
老紳士は受け取った乗車券を片方の手の平に乗せると、そこに視線を落とした。
僕は何気なくその様子を見ていたが、すぐに異変に気付いた。なんと、老紳士の表情が見る見るうちに変わっていったのだ。眉間にしわを寄せ、険しい表情で乗車券をにらみ付けている。さっきまでの穏やかな表情が嘘のよう。まるで念力でも送っているみたいだ。
しばらくすると、老紳士は何事もなかったように、僕に乗車券を返した。
「ありがとう。冥土の土産に、いいものを見させてもらったよ」
数分後、列車は『トラート』に到着した。
僕は老夫婦に、驚かせてしまったお詫びと、いろいろ親切に教えてもらったお礼を言い、列車を降りた。
老夫婦はフルムーンの最中で、『トラート』よりももっと先まで行くという。
駅のホームに立つとすぐ、僕は列車の外から老夫婦に手を振ろうと思い、振り向いた。そして列車の外観を見た時、
「嘘だろ!」
思わず声が出た。
そんなばかな……。戸船台駅から僕が乗った列車は、確か、青地に星マークが散りばめられた近代的なデザインだったはず。それなのに、今実際に僕の目の前にあるのは、それとは似ても似つかないオンボロ列車だった。小豆色をしているうえに、塗装は剥げ落ち、おまけに錆びている箇所まである。
それだけではない。
ポーッ、ポーッ。
前方に視線を向けると、なんと、列車を引いているのは蒸気機関車。なぜか車体は黄色。煙突から煙をモクモクと吐いている。
僕は老夫婦に手を振ることなんかすっかり忘れ、呆然としながら、列車が遠ざかって行くのを見送った。
僕は進行方向を向いて座っていたが、海があるはずの左側、つまり西側の窓の外には、大草原が広がっていた。海に近い場所を走行しているといっても、実際には海まで相当の距離がありそうだ。
僕は優奈の言葉を思い出していた。確か、優奈の夢では、桃色のタンポポは白い砂浜に咲いていたんだっけ。
僕は老紳士に尋ねた。
「海に一番近い駅はどこですか。僕、海に行きたいんです」
老紳士は二、三回頷くと、
「海か。それならば、ここから二つ目の駅で降りるといい。そこが海に一番近い駅じゃ。『トラート』という田舎町なんじゃが、きれいな海が見られることで有名じゃ。人気の観光地でもある」と教えてくれた。
やがて、列車が『トラート』の駅に近付くと、老紳士がこう言った。
「タケルくん、さっきの乗車券を、もう一度だけわしに見せてくれないかのう。珍しいものだから、この目に焼き付けておきたいんじゃ」
僕は言われた通り、レイリア行き特別急行の乗車券を老紳士に手渡した。
老紳士は受け取った乗車券を片方の手の平に乗せると、そこに視線を落とした。
僕は何気なくその様子を見ていたが、すぐに異変に気付いた。なんと、老紳士の表情が見る見るうちに変わっていったのだ。眉間にしわを寄せ、険しい表情で乗車券をにらみ付けている。さっきまでの穏やかな表情が嘘のよう。まるで念力でも送っているみたいだ。
しばらくすると、老紳士は何事もなかったように、僕に乗車券を返した。
「ありがとう。冥土の土産に、いいものを見させてもらったよ」
数分後、列車は『トラート』に到着した。
僕は老夫婦に、驚かせてしまったお詫びと、いろいろ親切に教えてもらったお礼を言い、列車を降りた。
老夫婦はフルムーンの最中で、『トラート』よりももっと先まで行くという。
駅のホームに立つとすぐ、僕は列車の外から老夫婦に手を振ろうと思い、振り向いた。そして列車の外観を見た時、
「嘘だろ!」
思わず声が出た。
そんなばかな……。戸船台駅から僕が乗った列車は、確か、青地に星マークが散りばめられた近代的なデザインだったはず。それなのに、今実際に僕の目の前にあるのは、それとは似ても似つかないオンボロ列車だった。小豆色をしているうえに、塗装は剥げ落ち、おまけに錆びている箇所まである。
それだけではない。
ポーッ、ポーッ。
前方に視線を向けると、なんと、列車を引いているのは蒸気機関車。なぜか車体は黄色。煙突から煙をモクモクと吐いている。
僕は老夫婦に手を振ることなんかすっかり忘れ、呆然としながら、列車が遠ざかって行くのを見送った。
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