レイリア~桃色のタンポポを探して~

おおともらくと

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第五 最果ての村『バレイロ』

鉱山列車に乗って鉱山へ

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 隣のホームに鉱山行きの列車が入って来るまで、僕とビダンはお互いの身の上話をして時間を潰した。
 僕が予想したとおり、ビダンは毎朝、夜が明けたばかりの早い時間帯にこっそりと駅に忍び込み、無賃乗車を繰り返していた。
 鉱山行きの列車は、一日に一往復しかしない。つまり、早朝に鉱山労働者を乗せて『バレイロ』駅を出発し、鉱山労働者を鉱山まで送り届けると、次に戻って来るのは夕方、仕事を終えた鉱山労働者を再び『バレイロ』まで運ぶ時だ。そしてこの鉱山行きの列車に乗るには、『バレイロ』駅で往復分の切符を買って改札を通り抜けさえすれば、後は行きも帰りもノーチェック。要するに、切符を見せるのは朝の一度きりでいい。ビダンはこれを逃れるために悪知恵を働かせ、毎朝、駅員の出社前にこの『バレイロ』駅にやって来ると、切符を買うことなく無断で駅の中に侵入しているのだ。そして、前の晩から停車中のレイリア西部鉄道の車内に隠れて、寝ながら時間を潰す。なんてせこい奴。
 しかも、無賃乗車をして浮かせたお金の使い道が、また情けない。その使い道は、もっぱら酒。ビダンは奥さんと五人の子供を養っているため生活が苦しく、そうでもしないと大好きな酒が買えないのだという。
 ビダンは小瓶に入った酒をちびちびと口に含みながら、愚痴をこぼしていた。
 僕のほうも、妹の優奈が見た夢のことや、戸船台駅から列車に乗ったらレイリアに来てしまったことなど、バレイロに辿り着くまでのいきさつをすべてビダンに話した。
 初めのうちは興味なさそうに鼻くそをほじりながら聞いていたビダンだったが、話が進むに連れて興味を引かれた様子で、僕が体験した数々の不思議な出来事を話す度に、「ウソだろっ」「マジかよ」なんて言いながら、目を見開いて興奮していた。
 しばらくすると、列車の外から人の声がするようになった。見ると、鉱山労働者と思われる男達が、パラパラと駅の中に入って来る。次第にその数は増えていき、数分後、隣のホームには、がっちりとした体格のいい男達が溢れんばかりに立っていた。みんな、鉱山行きの列車を待っているのだ。
 やがて、隣のホームに鉱山行きの列車が入って来た。装飾などなにもない、まさに労働者を運ぶためだけに存在する黒い列車。
 男達は自らの手で扉を開けると、次から次へと列車に乗り込んでいく。その後も、男達がぞろぞろと改札を抜けてホームに流れてきては、列車の中に吸い込まれていった。
 僕とビダンも頃合いをみて、レイリア西部鉄道の客車から、鉱山行きの列車に移った。
「おいおい、ビダン。なんだ、そのガキは。お前の隠し子か」
 僕を見るなり、同じ車両に乗り合わせた鉱山労働者達が、ビダンのことをからかった。
「馬鹿言え、こいつは親戚の子供だ。遠くから遊びに来ていて、社会勉強のために鉱山を見たいって言うもんだから、今日だけ特別に連れて行くんだ」
 苦しい説明。
 ドアが閉まると、車内に男達の汗の臭いが充満した。列車の中は満員のすし詰め状態。まだ労働前だというのに、みんなギラギラと脂ぎっている。さすがは強靭な肉体を持つ鉱山労働者達の集団。腕っぷしの強そうな者ばかり。
 列車が動き始めると、僕はすぐに乗り物酔いで気持ち悪くなった。
 まだ朝だというのに、太陽はすでに高いところまで昇っていて、列車の中は異常なくらいに暑い。冷房なんて気の利いたものは、同然のごとくない。窓から風を入れようにも、開閉できる窓なんかなく、上のほうに明かり取りの小窓が幾つかあるだけ。もちろん、そこは開かない。そんな劣悪な環境の中、列車が揺れる度に、僕は吐き気に見舞われた。
 周りにはたくさんの人がいる。こんな場所で、汚物をぶちまけるわけにはいかない。途中、何度も胃の中のものが口まで逆流してきたが、絶対に吐くまいと、両手で無理矢理口に蓋をして、やり過ごした。
 そんなこんなで、列車が鉱山駅に到着した時には、僕はふらふらに倒れそうだった。
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